第8話 救命措置
目覚めたら、自分の部屋だった。
どアップのクレアがパッと顔を輝かせて「ローズが目覚めた!」と小躍りし出すのを眺めながら、起こった出来事を振り返る。
深海の中で魔物に遭遇した。攻撃を受けて、浄化しようとしたけれど、カプセルの効果が切れて溺れてしまった。私が皆よりも早く入水したりしたから。慣れるために取った行動でこんなヘマをするなんて。
「魔物は……?」
逃してしまった後悔に暗い声で尋ねる。
あれ以上被害が出ていないと良い。
「フランがもうフィリップと一緒に陸に上げたよ」
「………へ?」
「ローズが浄化したんだってね?海藻探しに行ったと思ったら、フランと一緒に魔物連れて帰って来てビックリしちゃったわ~」
「フランが…魔物と?」
「ありゃま、覚えてない?酸素切れてたもんね。あの後、私とダースで魔物引っ張り上げたけどバカ重くて大変だったんだよ。それにしてもローズが生きてて良かった!」
これお水ね、と差し出されたグラスに口を付けながら私は展開される話を頭の中で並べてみた。
溺れたところまでは記憶にある。
あの後、私の意識が切れてからフランが現れたということだろうか。浄化がきちんと出来ていたことにホッとしながら、また少しだけ咽せて咳が出た。
「あ、あんまり無理しないで。ローズの心臓、五分ぐらい止まってたんだよ。フランがすごい速さで泳いで地上まで連れて行ったから助かったけど、人工呼吸しても正直助からないかと思って心配したの……」
「ありがとう。クレアが処置してくれたのね、この感謝は絶対に忘れないわ」
「ん?いやえっと、人工呼吸はフランだけど?」
私は返答に驚いてまた大きく咳き込む。
「ふ、フランが……!?」
「ダースがやるって言ったんだけど、大男だからローズの肺が裂ける恐れがあるとか理由付けて、フランが代わったの」
「…………そう」
助けてもらった手前文句は言えないが、苦い気持ちになる。クレアが彼に関する噂のアレコレを教えてくれたから、その影響かもしれない。
でも、討伐遠征ではこんなのよくあること。
意識するほどではない。
「今日はね、討伐完了記念にパーッと飲もうと思うんだ!ローズももちろん行くよね?身体はどう?」
ワクワクしたクレアの両目を見据えて頷く。
「悪くはないわ。私もみんなのこと知りたい」
「そうこなくっちゃ!フィリップやフランも今日は一緒だから、みんなで祝おうよ」
「お酒はほどほどにね?」
私の言葉にクレアはサファイアのような青い瞳をくるりと回した。どうやら飲む気は変わらないらしい。
最低でも一週間は掛かると思っていた遠征がこんなに早く終わりを迎えたことは嬉しい誤算。メリルの元に預けたプラムのことを思いながら、お土産は何にしようと考える。小さな娘は私の仕事の話を聞くのが好きだから、眠る前に面白おかしく語ってあげると良いかもしれない。
それにしても、フランが助けてくれただなんて。
指先で触れた唇がピリッと熱を持ったような気がして、私はグラスに残った水を急いで飲み干した。会った時にお礼を伝えよう。どうせもう明日には他人に戻る間柄だし、変に深く考えるのは良くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます