第2話 猫ドラゴン物語~~~起~~~


~~~エリオットの勘違い~~~


時は飛び約500年後の魔法学校で。


魔法学校の図書館は、静寂と古書の香りに包まれた空間だった。エリオットは、重厚な木製の棚を通り抜けながら、猫ドラゴンに関する資料を探していた。


彼の心は、興奮と好奇心でいっぱいだった。今日の授業で猫ドラゴンの話を聞いて以来、彼の頭の中はその伝説で溢れていた。


「これだ!」エリオットは、埃をかぶった古い革製の表紙の本を見つけ、手に取った。ページをめくる手は興奮のため震えていた。


彼は、かつて魔法使いたちが猫とドラゴンのエッセンスを融合させた儀式について読み進めた。


その時、図書館の扉が開き、先生が入ってきた。彼女はエリオットの熱心さを知っていたが、彼がここまで深く追求するとは思っていなかった。


「エリオット、その本は何?」先生は穏やかな声で尋ねた。


「先生、これは猫ドラゴンについての古文書です。魔法使いたちがどのようにして彼らを創り出したか、その秘密がここにあるんです!」エリオットは興奮を抑えきれずに答えた。


先生は微笑みながら近づき、エリオットの隣に座った。「それは素晴らしい発見ね。でも、その力は危険を伴うものだった。猫ドラゴンは、彼らの力を恐れた者たちによって、ひどい目に遭ったのよ。」


エリオットは先生の言葉に耳を傾けながら、本のページを指でなぞった。「でも、先生、もし私たちがその猫ドラゴンの力を正しく使えば、世界にとって良いことになるんじゃないでしょうか?」


先生は深くため息をついた。「それは、誰もが持つ願いだけれど、力には常に責任が伴うの。過去には、その力が暴走してしまったこともあったわ。だからこそ、私たちはその歴史から学び、同じ過ちを繰り返さないようにしなければならないのよ。」


「励みなさい」先生はそう言って図書館から出て行った。


エリオットは先生の言葉を噛みしめながら、本を閉じた。彼は、猫ドラゴンの力を理解し、それを正しく使う方法を見つけることを決意した。


そして、その一歩として、彼はこの古文書を研究することから始めることにした。


彼が古文書のページをめくると、突然、彼の前に謎の光が現れた。それは徐々に形を変え、老人の幻影のようなものになった。


その幻影は苦悶の表情のようにも、悲痛な表情の様にも、そして怒りに満ちたようにも見える表情でエリオットをじっと見つめていた。いや実際には幻影なので見つめているわけではないのだろうが、エリオットにはそこに実在しているような感じがしたのだ。



するとゆっくりと次々に文字がスクロール表示し始めた。


「眠れる森の深くに、

静かなる湖のほとり、

星が指し示す場所で、

夢見る子よ、安らかに。


月明かりの下、

古の木々が囁く、

秘密を守るその根元で、

夢見る子よ、眠りにつけ。


風が運ぶ歌声に、

隠された道が開かれ、

遥かなる山の影に、

夢見る子よ、目覚めの時。


朝露に濡れた花の、

色とりどりの円をなし、

その中心に秘められた、

夢見る子よ、謎の扉。


夜空を舞う龍の、

尾が指す先にある、

希望の光が導く、

夢見る子よ、新たな旅。」


これは子守歌だった。誰でも知っている一般的な子守歌の歌詞だ。


そしてその歌詞のスクロールが終わると、今までエリオットを見つめていた幻影が急に怒りに満ちた表情で叫び始めた。


それは叫びと言うよりも、断末魔のような絶叫だった。「我が名はオズワルド。猫ドラゴンを支配しようとすることなかれ。猫ドラゴンと和解せよ」「我が名はオズワルド。猫ドラゴンを支配しようとすることなかれ。猫ドラゴンと和解せよ」


エリオットは得体の知れない恐怖にかられて慌てて古文書のページを閉じた。


「今のはいったい・・・子守歌・・だと・・和解とはいったい・・」と思考を巡らせたが、直ぐにその思考よりも得体の知らない物に恐怖を覚えさせられた事と、慌ててしまった事への気恥ずかしさにイラつきを覚え「クソっ」と呟き、意味が解らないといった表情で図書館を後にした。


数日後


図書館の静けさの中で、エリオットは深い思索に耽っていた。彼の内なる声が、心の奥底から問いかける。


「この力、猫ドラゴンの力を使って、本当に世界を守れるのだろうか?」


彼は、古文書に記された文字を指でなぞりながら、その答えを探していた。そして一息ついて本を閉じたときに著者の欄が目に入った。


「著者オズワルド」「あの時の幻影が叫んでいた名前だ」エリオットは心の中でつぶやいた。


何だったのだろうか?解らない。


しかし今は、「人々のために、猫ドラゴンを眠りから目覚めさせ、魔法の正しい使い方を促進するために、この猫ドラゴンの力を使いたい。」エリオットはつぶやいた。


エリオットは、その力をコントロールする方法を見つけなければならないと思っていた。過去に起こったような暴走を防ぐために。彼は、その答えがこの古文書の中にあると信じていた。


「猫ドラゴンの眠りの秘密を解き明かし、きっと復活させる。それが、私の使命だ。」


エリオットが使命と思うそれは、若者特有の勘違いであった。それは気が付いている人から見ると恥ずかしくも痛々しくも映るものなのかもしれない。


しかし時に、時代を動かし世界を前に進ませるのは、そう言う若者の勘違いからなのである。


~~~情熱VS不安~~~


猫ドラゴンの力を正しく使い、世界を守る守護者として活動する。そのために、エリオットは古文書を研究し続けるのだった。


数日が経ち、エリオットは魔法学校の図書館で猫ドラゴンに関する研究に没頭していた。彼の周りには、古文書や魔法の本が山積みになっている。


窓の外では、夕暮れが近づき、空はオレンジ色に染まり始めていた。図書館の中は静かで、時折ページをめくる音だけが響いている。



エリオットは図書館の薄暗い一角で、猫ドラゴンの古文書を前に眉を寄せていた。彼の目は、文字から文字へと飛び移りながらも、解読の糸口を見つけられずにいる。


「なぜこの文献はこんなにも難解なんだ…」と心の中でつぶやくが、周りには静寂のみ。彼の手はページをめくるごとに速くなり、ついには「くっ…!」と小さな唸り声を漏らす。


しかし、その焦燥感とは裏腹に、彼の目には諦めの色はなく、むしろ研究への情熱がさらに燃え上がっていた。


そしてエリオットは眉をひそめながら、猫ドラゴンの眠りについての理由を探し続けた。しかしやはり彼の心は研究への情熱とは裏腹に不安と疑問でいっぱいでもあった。


なぜ猫ドラゴンは今も眠り続けているのか?「この秘密を解明できなければ、僕の研究は単なる時間の浪費だ…」と彼は考える。その考えがエリオットの苛つきと焦りから来る不安を促進させるのだ。


3話へつづく

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