第39話
「あの姉様が、エルフの事を考えて助言までされるなんて……姉様も、変わってきておられたのですね……」
「チッチッチ、騙されちゃダメだよリューリン、あのファニスがそんな殊勝な事を心の底から考えていたと思う?」
「えっ、違うのですか……?」
絶対、ドン引いていた先生に対する好感度稼ぎだったに違いない。
先生が居なけりゃ、誰に何を言われようと、さんざん拷問した後に首を刎ねていたんじゃね。
その証拠にエルフに対する進言や忠告の度にチラチラと先生の顔色を窺っていたからね
先生の顔色が良くなるにつれて、だんだん調子にも乗って行っていた。などとスリフィが言う。
「ちょっ、なにバラしてんのよアンタ!」
「結局さ、エルフの生き死により、先生からの好感度の方が大事だったんでしょ」
「ま、端的に言えばそうね。リューリンも覚えておきなさい」
開き直ったファニスは言う。
その時その時で何を一番に目指さなければならないか。
あの時点では私はシフに嫌われたくなかった。
だからエルフを利用して点数稼ぎをした。
「あなたは頭でっかちなのよ、規則や常識にとらわれ過ぎて、自分が本当は何をしたいのかが抜けているわ」
「そうなのでしょうか?」
「そうよ、だからほら、あなたも偶にはシフの入浴を覗きに行かない? 本当はあなただって見たいのでしょ」
「なぁ、なっ、何を言っているのですか姉様! たとえそれが本当にやりたい事であったとしても、人に迷惑を掛けたらダメでしょ!」
もっと言ってやってくださいリューリンちゃん。
ファニスの奴も、純粋なリューリンちゃんを悪の道に誘うのは止めてほしい。
リューリンも結局は女、先生の裸を見たい事は否定しないんだね、とポツリとつぶやいているスリフィ。
仕方ないよね、貞操観念が逆転しているのだもの。
「だからあなたは頭でっかちなんだって」
「それとこれとは話が違うでしょ!? はぁ……やっぱり姉様は姉様ですね」
「チッ、リューリンを引き込めたら、邪魔者が居なくなったのに」
「ところでさ、エルフが言ってた帝国貴族の方は大丈夫なの?」
あのエルフのお姉さんにオレを攫って来いと命令した帝国貴族。
名をボードペ・ブフスと言うらしい。
ファニスが鼻で笑って言う。
「無能が居るのは王国だけじゃないわ、帝国にだって多数いる」
今になってシフを狙いに来るほどの無能はさすがに予想外だけどね。と続ける。
しかも狂信者の街にエルフの刺客を送り込むと来た。
それこそ、裸一貫で蜂の巣をつつく様な物。
「キッチリと落とし前は付けさせてもらうわ」
「何をする気?」
「なあに、少しばかり、ここにいるスパイ連中に噂をばら撒いてもらえば一発よ」
あとは勝手に自滅してくれるから。と言う。
ほんと、腐っても鯛という奴か。
あるいは蛙の子は蛙とでも言おうか。
恐ろしい子供だ。
「それよりも心配なのはエルフの方ね」
あのエルフが言っていたのが本当の事であれば、エルフの内部でかなり揉めるだろう。
同胞を裏切り、利用し、迫害される元を作り出したのだ。
長いエルフの歴史でも初めての事であろう。
最悪、エルフ内部でも分裂、戦争が始まりかねない。
どこもかしこも火薬庫だらけ。
ほんと、もっと平和な時代に生まれたかったぜ。
あのエルフを帰した事により、エルフに聖女の存在と、オレと皇女が生き残っている事も伝わる。
そこから人間世界に伝わる可能勢は低いだろうが、油断はできない。
「本当は首だけ送り付けるのが一番だったのだけどね」
「さすがにそんな事をしたら、先生どころかボクだってドン引きだよ」
「スリフィはさあ……なんだかんだで肝が据わってるのよね、こんな田舎で育ったにしては、知識が豊富過ぎるし……」
「あ……まあ、ボクの事は良いじゃないか!」
そんな事よりさ、ほら、誰かこっちに向かって来ているよ。
と、家の窓から遠くを指差す。
そこには、ついさっき旅立ったエルフと他数名、こちらに向かって駆けて来ている。
「エルフ……?」
「ふ~ん、なんだか嫌な予感がするわね」
「ちょっと聞いています」
リューリンちゃんがさっそく駆け出していく。
暫くしてリューリンちゃんが連れ来たのは、この間のエルフの女性と、二人の高校生と中学生ぐらい見た目の若いエルフの女の子だった。
そしてそのエルフの女性――――――キアラと名乗った女性は口を開く。
「この二人は私の子供です、大きい方をコウ、小さい方をセイ、と申します」
二人合わせればコウセイだな、そういえば後宮から一緒に脱出したコウセイ君は今も無事なのだろうか?
陛下の護衛だったフォンさんとラクサスさんがグランドム侯爵に付く条件として見逃してくれることになっていたはずだけど。
あの後がどうなったかは、まったく分からない。
アール様の信者に頼み込めば調べてもらえるかもしれないが、あそこに借りを作るのも怖いしなあ。
それに今は、帝国の情勢よりも自国の情勢の方が大事。
現状は、帝国の間者だった罰で島流しにされているようなもの。
状況によっては、首を刎ねよと追加の通達が来る可能性もある。
そうなったら、この国はたぶん終わるな。
それをそのまま受け入れるような狂信者どもじゃない。
アール様が何を言おうと、止まらないだろう。
傷痍軍人だった人の中には、今の将軍クラスの上司だった人もいる。
一声かければ、多くの兵士が集まって来るだろう。
下手をすれば、王国軍のいくつかはこっちに付く可能性まである。
さらに、オレとファニス、リューリンと言う帝国に対する切り札まである訳だ。
帝国の後ろ盾を持ってヴィン王国を滅ぼす事も夢じゃない。
まさしくシフ・ソーラン伝説のアールエル王女のクーデター勃発だな。
おお、怖い怖い。
ヴィン王国も下手な考えを持たなければ良いのだが。
ま、今はそっちよりもエルフの方が先か。
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