第25話 間に合え!


「精密機械ほど複雑じゃなくて、この世界の人たちが知っていて、3Dプリンタの強みを活かせるもの……イチゴー、再構築スキルで作れるジャンルを一覧にしてくれ」


 俺の言葉で神託スキルが起動。


 ウィンドウに表示されたイチゴーの顔アイコンの下に、写真と名前が表示されていく。


 剣、槍、包丁、ボウル、椅子、机、万年筆、あらゆる種類のあらゆる品々が一覧になり、ゆっくりと下にスクロールしていく。


 中には傷を治す回復のポーションや、一時的に身体能力を上げるバフポーションなんかもある。


 原料は、森で採取した薬草だろう。

 その中で、俺はとある写真に目をつけた。


「家か……うん」


 一人得心して頷いた。

「家なら世界中誰でも必要だし、クオリティは一目でわかる。外国では三〇〇万円で一軒家を一日で作るって言うし3Dプリンタの本領発揮だ」


 例えば、民衆の前で更地に一軒家を一日で作ってみせてから、自由に内見させる。

 金貨三〇枚で一軒家を一日で建てます。


 注文が殺到するに違いない。

 一日一軒のペースで作れば、年商約金貨一万枚。日本なら年商十億円だ。


 そんなに稼げるなら、無理に貴族に戻らなくても大商人として生きていけるのではと考えて、すぐに肩を落とした。


 ――いや、やっぱり貴族の肩書はいるよな。


 いくら金を持っていても、商人は貴族に逆らえない。


 無名の新人商人をやっかんだ大商人から賄賂を受け取った貴族が、罪をでっちあげて俺を潰す、なんて造作もないだろう。


 そうでなくても、いつか貴族の機嫌を損ねてギロチン台送り、なんてのも考えられる。


 ――やっぱり、なんとかして貴族に戻らないと……?


 ふと、イチゴーたちに違和感を覚えた。


「いち、にー、さん……おい、サンゴーはどうした?」


 さっき、川に流されて遊んでいるのを最後に、見ていない。


『えっとねー……ながされちゃった』

「えぇ!? あいつあのまま流され続けているのか!?」

『うんー、それでねー、いまれんらくがきたよー』

「そういやお前ら同士は連絡取れるのか?」


 イチゴーを除き、俺のメッセージウィンドウは、離れ過ぎると圏外になってしまう。


『いまハロウィーとハイエナといっしょだって』

「なんだ、ハロウィーも森にいたのか? ハイエナってクラスメイトか?」


『わからないけど四本足で爪と牙が鋭いの』

「……いやそれ魔獣だろ!? 場所はどこだ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 俺の緊迫した声に、イチゴーは素早く反応してくれた。


『こっちー』


 イチゴーは短い脚を超高速で動かしながら川岸を疾走した。

 緊急事態なのに、イチゴーの動きのせいで緊張感がやわらいでしまう。




 全力疾走すること約一分。


 レベル十一で、地球ならアスリート以上の身体能力ならではの瞬足とスタミナで森の中を移動すると、前方に小柄なハロウィーの姿を見つけた。


 その前には、ボロボロのサンゴーが地面に座り込んでいた。


 ――サンゴー! ハロウィー! ッ!


 視線をずらすと、一年生には荷が重い、中堅魔獣であるモリハイエナが低く唸っていた。


 でかい。

 地球のハイエナとは違い、大きさはライオン並。長い鞭のような尾をうねらせ、鋭い牙からヨダレを滴らせていた。


 きっと、サンゴーはたった一人でハロウィーを守り抜いていたに違いない。

 普段はおっとりしているのに、よく頑張ってくれたと讃えたい。

 俺はさっき生成したばかりのヒートソードを抜くと、全力で魔力を込めた。


「■■■■■■!」


 モリハイエナが獰猛な咆哮を上げてハロウィーに飛び掛かった。

 彼女は動けないサンゴーを守るように抱きかかえながら悲鳴を上げた。


「やめろぉおおおおおおお!」


 裂ぱくの気合いと同時に深く地面を踏み込み、俺は全体重を乗せて、ヒートソードを突き出した。


 俺の魔力を変換した炎を噴き上げながら、白銀の剣身が橙色に輝き、灼熱の剣尖がモリハイエナの脇腹を直撃した。

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 ハイエナって死肉をあさるイメージありますが実際はライオンよりも狩りが得意なハンターらしいですね。外見のせいで勝手にイメージ付けされたかわいそうな動物です。

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