第19話 AIチャットスキルに聞いてみようそうしよう


 ――ん?


 先生の説明に、妙なひっかかりを覚えた。

 同じ平民科の他クラスの生徒。

 二年生は同じチームの生徒と必ずクラスメイトになります。


 ――ということは……。


 ホームルームが終わると、みんなは一時間目の授業の教科書を取り出した。

 一方で、俺は退室しようとする先生の背中を追った。


「すいません先生」

「なんですかミスター・ラビ?」

「あの、同じ平民科の、ということは、貴族科の生徒とは向こうがいいと言ってもチームを組めないんですか?」

「えぇ、そうですよ」


 当然とばかりに、先生は頷いた。

 やっぱりと、嫌な予感に喉のつまりを覚えながら、俺は質問を続けた。


「……例えばの話なんですけど、一年生でチームを組んでから、俺みたいに科が変わった場合、どうなるんですか?」

「その場合、科は変わりません。あくまでチームが優先されます」

「ッ」


 俺の動揺から考えを汲み取ったのだろう。

 先生はきびきびと答えた。


「仮にミスター・ラビが貴族に復帰するような手柄を立てても、その時点でチームを組んでいれば、三年間は平民科で授業を受けてもらいます。お父様とは、その点についてもよく話し合ったほうがいいでしょう」


 それだけ言って、先生は俺に背を向けた。

 残された俺は、ざわざわと冷たい感覚が足元から上ってくるような悪寒に襲われていた。


 無理だ。

 父さんは世間体と貴族の矜持に人一倍うるさい人だ。


 息子の俺が魔獣型ゴーレム使いになっただけで追放処分にしたのが、いい例だ。

 貴族でありながら平民科で授業を受ける、そんなことを許すはずがない。


 最終学歴として平民科を卒業した俺を、あの人が復帰させるとは思えない。


 つまり、俺が貴族に復帰するにはチームを組む前に、一人で貴族に復帰するような手柄を立てる必要がある。


 まさか、俺が貴族に復帰するために仮チームを組んでくれ、なんて図々し過ぎて言えるわけもない。


 相手に失礼過ぎる。

 脳裏に、ハロウィーの笑顔が浮かぶ。


 彼女とは互いに助け合う関係を築けると思った。

 だけど、これじゃあ俺が一方的に利用するだけだ。

 

 ――……仕方ない。ハロウィーとのチームアップは諦めよう。


 ハロウィーとチームを組んだら、俺は貴族に戻れない。

 チームを組まずに仮チームで一年生の間に功績を挙げて貴族に復帰したらさようなら、なんてハロウィーに悪い。


 ――いや、そもそもハロウィーが俺とチームを組んでくれるかもわからないか。


 何を勝手に選ぶ側を気取っているんだと、自分を叱咤した。


 とにかく、こうなったら予定変更だ。


 戦闘面ではなく、再構築スキルを使えるようにして、現代商品を売りまくって荒稼ぎをして、その資金をバックに父さんに貴族復帰を願い出よう。


 金で身分を買うなんて汚く見えるけど背に腹は代えられない。

 そう決めるや否や、俺は自分の席でウィンドウを開いた。


 今日もイチゴーたちは森に魔獣狩りに出かけてくれている。

 おかげで、定期的にリザルト画面が開いて、ストレージに新しい素材が大量に入っていることが確認できる。


 けれど、【!】マークのついている素材は無い。


 それでも一縷の望みを託して、見たことのない素材を手当たり次第にイチゴーに配合していく。


 だけど、再構築スキルは相変わらずグレーアウトしたまま、押すことができない。


 ――駄目か。よし、放課後は俺も森に行って探索だ。


 実質AIチャットの神託スキルは、電波を操るコウモリ型魔獣の素材で使えるようになった。


 なら、実質3Dプリンタの再構築スキルも、何か関連した魔獣の素材で使えるようになるはずだ。

 そのあたりを念頭に、徹底的に探索しようと小さくガッツポーズを作った。


   ◆


 放課後。

 他の生徒たちが遊びに出かける中、俺は独り、校舎裏の森を訪れていた。


 狙いはもちろん、再構築スキルを使えるようにするための素材集めだ。

 少し待っていると、視界にメッセージウィンドウが表示された。


 左に並ぶイチゴーたちの顔アイコンと、その右に記載された過去ログ。

 それがぽこん、と可愛い音を立てて上にズレた。


『わーい、ますたー』


 木々が鬱蒼としている森の茂みをかき分けて、ちょこちょことイチゴーたちが姿を見せた。


『あるじどの、われ、すいさん』

『いっしょなのだー』

『ひとかりいくっす♪』

『ッゴーとたんけんなのです』

「みんなお疲れ様。ここからは俺も一緒に探索するぞ」

『するー』


 イチゴーたちは両手を挙げたバンザイポーズで喜びを表現。


 人一倍甘えん坊なゴゴーは俺の足にしがみついて体をすりすりしてくる。かわいい。


「じゃあみんな、今日の目的は再構築スキルを使えるようにするための素材だ。一応聞くけど、AIチャットスキル、じゃない神託スキルでわかったりしないか?」


『しらなーい。このせかいにないちしきはむりー』

「だよなー」


 メッセージウィンドウの返信に、ちょっと息を漏らした。

 イチゴーの神託スキルは、この世界に知識として存在していることしかわからない。


 そこは、令和日本のAIチャットと同じだ。

 あれも、あくまでネットの情報を元に質問に答えてくれるものだった。

 ネット上に無い知識は、聞いてもわからないと言われてしまう。


 俺は首をひねった。


「一応、休み時間の間に色々考えてみたんだけど、ピンと来るものがないんだよなぁ。そもそも再構築スキルってどんな形状のモノでも作る能力だろ? だけど魔獣は人間と違って物作りそのものをしないからな」


 さっきの今だけど、またイチゴーに頼ってみる。


「なぁ、せめて予想できないか?」

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チャットGPTに鏡銀鉢を知っているか聞いたら

知りません、私は2021年までの情報しかわかりません。

と言われた。私がデビューしたの2012年なんだけどなぁー、なぁー、なぁー。

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