第10話 まんまるゴーレムは全てを解決する!
『ただいまー』
「おかえりみんな」
俺が五人をストレージにしまうと、黄色い悲鳴が聞こえてきた。
「クラウス君! あたしと組もう!」
「いや、アタシと組もうぜ。後衛は任せろ!」
「お前は昨日も同じチームだったろ」
「うちのチームと連携しただけでチームは別だったんだよ!」
女子を中心に大勢の生徒からアプローチをされているのは、艶やかな茶髪が麗しい美形の男子だった。
背は高く、品格があって洗練された軽装鎧の腰にはロングソードを提げている。
貴族科にいた俺は知らない生徒だけど、きっと平民科でのクラスカースト一軍、といったところだろう。
どこの世界にもそういうのはあるんだなと思いながら、俺は陽キャオーラから逃げるように背を向けた。
すると、クラウスとはうってかわり、すげなく断られている生徒もいた。
「いやよ、あんたトロいじゃん」
「サポーターのクセにアンタのサポートが必要とかわけわかんないんだけど」
そう言って女子たちから避けられた女の子は淡い紫髪のショートヘアに大きなタレ目が可愛い、ちょっと小柄でおとなしそうな、とびきり可愛い女の子だった。
ようするにハロウィーだった。
どうやら、隣のクラスだったらしい。
可憐な彼女が困っていると、不細工な男子たちが近づいていく。
「ハロウィーちゃーん、余っているならオレらんとこ来なよ」
「だいじょうぶ、オレらがちゃんと守ってあげるから」
と、気持ち悪い猫なで声を出している彼らの視線は、彼女の小柄な体躯には不釣り合いな胸とお尻に集まっていた。
顔に注目している男子も、不自然なぐらい体を傾けて下から覗き込むようにしている。
女子に責められても毅然と言い返せるハロウィーも、たじたじだった。
「い、いやぁわたしはそんな、遠慮しようかなぁ。みんなの輪を乱しても悪いし」
やんわりと断るハロウィーに、男子たちは下心を隠そうともせず鼻息荒く、まばたきも忘れて詰め寄った。
弁護の余地が無いほどの犯罪臭に、俺はドン引きだった。
控えめに言って、ハロウィーはかなり可愛い。
アニメの美少女キャラを実写化したような、2・5次元美少女だ。
俺はまたソロか、あるいは余った人と組む予定だ。
つまりは隣のクラスのハロウィーと組むか、またソロかだ。
「あ、だいじょうぶだよ。オレらの輪なんて乱れないから」
「そうそう気にしなくていいぜ」
「これで問題解決だな」
「え? いや……」
今までの俺なら君子危うきに近寄らずとばかりに無関心を決め込んだだろう。
でもそれは、あくまでも俺に力が無かったからだ。
今の俺にはレベル十の肉体とゴーレムたちがいる。
それに……。
――俺が貴族に戻るには、あの子の助けが必要だ。
彼女の狙撃能力を知る俺がストレージからイチゴーを取り出したのは、男子がハロウィーの肩に手を回そうとした時だった。
「じゃあこれで問題ないってことでチーム結成だな。早く行こうぜ」
「おーい、どうしたイチゴー?」
俺がわざとらしく声をかけると、男子たちの動きが止まった。
彼らの視線の先で、イチゴーがちっちゃな足でちょこちょことハロウィーに駆け寄った。
そして、彼女の脚にむぎゅっと抱き着く。
「かわいぃ」
という可愛い声がハロウィーの口から漏れる。さっきまでの困り顔が消えて、ほにゃっと頬を染めている。
「あ、なんだこんなところにいたのか。探したぞ。じゃあ早く行こうか。イチゴーも君と一緒に森に行くの楽しみにしていたんだぞ」
俺の顔を見るや、ハロウィーの口が小さく開いた。
その表情が「あ、昨日の」と語っている。
けれどそれは一瞬、すぐ笑顔に戻った。
「そうなの? うれしいなぁ」
ハロウィーは細い手で、イチゴーの頭をなでまわした。
「ほら行こうぜ」
「うん♪」
ハロウィーは太鼓のように太いイチゴーを器用に抱き上げると、すばやくステップ。
男子たちの輪から飛び出して俺の隣に立った。
「おい、テメェ急に出てきて何勝手なことしてんだ?」
男子たちが苛立つように呼び止めてきたので、俺は素早く言葉を返した。
「悪いけどこの子は俺と組む予定なんだ」
「は? んなわけないだろ」
「お前あの噂の平民落ちだろ? なんで隣のクラスのハロウィーと知り合いなんだよ」
「それは……」
昨日の、女子たちの会話を思い出した。
「昨日森で知り合ったんだよ。エリーも一緒にいたから知っているぞ。おいエリー!」
俺が声を張り上げると、昨日の女子の一人、エリーと呼ばれていた女子が反応した。
「あ、あんた昨日の!」
エリーがしっかり指を差してくると、男子たちは言葉に詰まった。
「ほらな。本当だったろ? じゃあ俺らはこれで」
「じゃあごめんね。先約優先だから」
尻馬に乗るようにして、ハロウィーもついてくる。なかなかノリの良い子だ。
他の女子からはトロいなんて言われていたけど、どん臭いというわけではないらしい。
◆
男子たちからエスケープすることに成功した俺とハロウィーは、しばらく小走りになってから足を止めた。
「ここまで来れば、追ってこないだろう」
「うん、ありがとう」
俺が振り返ると、ハロウィーはイチゴーを抱きすくめながら、リラックスした声で感謝をくれた。
彼女の安堵した表情に、俺も満足だ。
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