★2巻発売中★追放転生貴族とハズレゴーレムの異世界無双――隠し機能がチート過ぎ――え!?ゴーレムが倒した敵の経験値も俺に入るの!?
鏡銀鉢
第1話 女神像の正体ってどう考えても・・・
「これより、スキル授与の儀を執り行う!」
王立学園高等部入学式。
それは、僕らにとっては人生に一度の晴れ舞台であり、もっとも期待と緊張が入り乱れる日だ。
高等部の制服に袖を通した僕らが列をなして入場すると、万雷の拍手に包まれ、手厚い歓迎を受ける。
王城のそれにもひけを取らない大広間を埋め尽くし、僕らを迎えてくれたのは保護者を含めた、国内の貴族たちだ。
皆、王国の未来を担う若き才能に期待する熱いまなざしと笑みに顔を輝かせている。
僕も、これから自分が授かるスキルに胸の高鳴りが抑えられない。
スキルとは、神様から授かる異能の力だ。
授かる時期は十五歳から十八歳の間だけど、神官様の力を借りればすぐに授かれる。
僕の育ったシュタイン伯爵家は、代々続くゴーレム使いの名門一家だ。
親戚のほとんどがゴーレム関連のスキルを貰っている。
着飾った貴族たちの中で堂々と佇む父上もそうだ。
隣に立つ護衛の騎士型ゴーレムは、シュタイン家当主に相応しい威厳に溢れている。
――僕も父上や兄上みたいに鋼の騎士型ゴーレムスキルだったらいいなぁ。
胸に響く拍手を浴びながら、隣の生徒が大きく息を吐いた。
今朝から顔色も悪いし、不安ばかり口にしていた。
無理もない。
全ての人が平等に授かるスキルだけど、中にはハズレスキル、何て呼ばれるものもある。
凡人が凄いスキルを得て人生逆転するのは小説の中だけだ。
領地を守り発展させるのが貴族の本分。
ハズレスキルを授かれば、それだけで周囲は落胆する。
とりあえず、戦闘系スキルなら御の字だろう。
――僕の場合は十中八九ゴーレム生成スキルだけど、叔母さんみたいに錬金術スキルとか、叔父さんみたいに土石操作スキルだったらちょっと肩身が狭いなぁ。やっぱり、貴族は戦ってこそだ。
生徒が揃うと、広間の奥で教会の大神官様が一人ずつ生徒の名前を呼んでいく。
呼ばれた生徒は大神官様からみことのりを受ける。
それから全身に淡い光が宿って、大神官様がスキルの名前を高らかに告げた。
新たなスキルの名前が挙がるたび、広間は熱い拍手に包まれる。
その熱量で、そのスキル、ひいては生徒の価値がなんとなくわかる。
ナイフ術スキルと剣術スキルでは、拍手の大きさが明らかに違った。
「続いて、クリス・シュタイン!」
うちの分家筋の生徒が前に進み出て、スキルを授かる。
「この者のスキルは、ゴーレム生成スキルだ!」
その言葉に、歓声と拍手が響く。
クリスが誇らしげに笑った。
途端に、床に光が走り、魔法陣が描かれた。
そこから、マネキンみたいな赤銅色のゴーレムが出現した。
「ほぉ、銅の人型ゴーレムか」
「流石はシュタイン家、今年も魅せてくれる」
拍手喝采の中、クリスはマネキンとハイタッチ。
人型ゴーレムの姿に、拍手の熱量が上がった。
ゴーレムは人間に近いほど、高等とされている。
理由は神話だ。
聖典に記された神話によれば、二〇〇〇年前に魔王がドラゴン型やグリフォン型など、魔獣の姿をした巨大ゴーレムの軍勢を率い、世界を滅ぼそうとしたらしい。
そんな時、女神様が降臨して巨大な人型ゴーレム、通称巨神兵の軍勢を操り、世界を救った。
以降、魔獣型のゴーレムは魔王の象徴となり、人型ゴーレムは女神の象徴として、世界に認識されるようになった。
一族のほとんどが女神と同じ人型ゴーレムを生成、使役できる。
それが、シュタイン家がゴーレム使いの名門と言われる理由でもある。
しかも、女神と同じ金属製のゴーレムのことが多い。
女神と同じ金属製ゴーレムを操り魔獣を倒し、領民を守る姿は神話のミニモデルとして大評判だ。
王室でもおぼえめでたく、父上は伯爵だけど、公爵家や侯爵家と一緒に何度も王族の晩餐会に呼ばれている。
そこで自慢の騎士型ゴーレムをお披露目するのがお約束だ。
こうして入学式に大柄なゴーレムを連れているのに邪魔扱いされず、むしろ周囲から好感を得ているのもそのおかげだ。
むしろ、みんなこぞって父上のゴーレムを見たがる。
――やっぱり、僕も鋼の騎士型ゴーレム生成スキルかな? でも僕の才能は兄上には少し劣るし、最悪、岩のゴーレムでも我慢しよう。けど、次男とはいえ本家の人間だし、木製ゴーレムだとちょっと恥ずかしい。泥のゴーレムだけは許してくださいね女神様。
「続いて、ラビ・シュタイン」
「はい!」
期待に胸を高鳴らせながら前に進み出て、大神官様の前で両手を合わせた。
みことのりが終わると、すぐに僕の体は淡い光に包まれた。
続いて、知らない知識、感覚が頭に流れ込んでくる。
これがスキルを使う感覚というものか。
僕の心と体は、自然とスキルを発動させていた。
――わかる、わかるぞ。スキルの名前が、発動のさせ方が、使い方が。そして日本、東京、高校、ソシャゲ、ネット、漫画、ガチャ、ドローン、チャット、3Dプリンタ……へ?
何故か、スキルの情報と一緒に流れ込んでくる記憶に、僕は全てを悟った。
――いや俺、異世界転生してんじゃん!
冴えないボッチな中学高校生活。
そして十八歳で死んで気が付けばこの世界でものごころをついた。
なんてベタベタな異世界転生だろう。
心の中でツッコミを入れる間にも、大神官様は俺のスキル名を告げようとして、表情を困惑に歪めた。
「この者のスキルは……? スキルは……じりつがたゴーレム生成スキル? である」
――自律型って、ようするにAIってことか?
拍手は起こらない。
貴族の皆様は一様に頭上に疑問符を浮かべるような表情でぎこちなく隣近所と目配せし合った。
当たり前だ。
文明レベルが地球の中世時代に魔法文化を足したこの世界に自律型、つまりは人工知能の概念は存在しない。
この世界におけるゴーレムとは、使い手の命令通りにしか動かないマリオネットだ。
すると、広間がざわめき、我に返った。
一〇〇〇人以上の視線が集まる先を追うと、俺の足元にはちっちゃいハニワが立っていた。
体はねずみ色で、大きさは赤ちゃんぐらいか。俺の股下よりもだいぶ低い。
フォルムは全体的に丸くて可愛い。
首は無くて頭は体と一体化している。腕は短くて指は無い。足なんて本当にちょこんと、申し訳程度にしかない。
顔のパーツは丸い点みたいな目のみというシンプルさだ。
――なんか、ゆるキャラみたいだな。
つい、頭をなでてしまう。サラサラしていて手になじむ、なかなかの手触りだ。
すると、ハニワは両腕を挙げながらちょこちょこと歩み寄ってきて、俺の脚に抱き着いて、体をこすりつけてきた。
甘えているらしい。可愛い。
心が和む。
「ゴーレムスキル? ラビ君、君のじりつがたゴーレム生成スキルとはどういうものなのかな?」
大神官さんの問いかけに、俺は顔を上げた。
「あ、すいません。なんかゴーレムを作って操る能力みたいです」
ただし、操るだけではなく、ゴーレム自身がある程度自分で判断して動けることを説明しようとするも、大きなどよめきに俺は言葉を飲み込んだ。
「人型じゃないぞ……」
「なんだあの不格好な姿は? トロール型か?」
「それか太った大ねずみだな」
――なんだ、この反応?
俺が首をかしげていると、列席者の中から父さんが大股に歩み寄ってきた。
その顔は鬼面そのもので、憎しみすら感じられた。
わけがわからず俺が唖然としていると、父さんが声を張り上げた。
「この非国民がぁ!」
至近距離から浴びせられた耳をつんざく怒声に、ビィィンと背筋が伸びて体が強張った。
俺は呆気に取られて何も言えなかった。
「……へ?」
父さんはすぐ俺に背を向けて周囲へ振り向くと、深く頭を下げた。
「皆様! このような晴れの舞台を汚して申し訳ありません! まさか我が家からかの魔王と同じ魔獣型ゴーレムを作る者が生まれるとは痛恨の極み!」
怒りから一転、悔恨に駆られ口惜しそうに吐露してから、父さんは声を張り上げた。
「この者は即刻、我がシュタイン家から追放致します。よって、本校からの退学処分を嘆願致します!」
「ちょっ、どういうことだよ父さん!?」
脊髄反射で叫んでしまう。
この世界は王族貴族を頂点とした身分社会だ。
平民は、ろくな人権も認められない。
貴族の命令は絶対だし、逆らえば不敬罪で裁かれる。
貴族からの一方的な暴力を受けても泣き寝入りだ。
ここで平民にされては、一生貴族に怯えながら暮らすはめになる。
けれど食って掛かる俺を、父さんは激しく叱責してきた。
「父さんだと!? なんだその口の利き方は!」
――しまった!
普段は貴族らしく、父上、と気取った呼び方をしているのに、前世の記憶が蘇ったばかりの影響か、生前の父さんを呼ぶようにしてしまった。
「で、ですが父上、納得できません。何故僕が追放されなければいけないのでしょうか!?」
「馬鹿者! 魔王と同じ魔獣型ゴーレムスキルなど恥を知れ! まして敬虔な神の信徒たる貴族家の中でも我がシュタイン家が授かるなど前代未聞だ!」
「いえ、私のゴーレムは人型です。手足があって直立二足歩行ではないですか!?」
「痴れ者が! では足首はどこだ? 指はどこだ? 腰は? 首は? 人型ゴーレムとはクリスや私のゴーレムのような姿を指すのだ!」
父さんが指で差したのは、すぐ傍らに佇む自身の騎士型ゴーレムだ。
父さんの言う通り、鎧の騎士には足、足首、膝、腰、ウエスト、肩、肘、手首の先にはきちんと五指があった。
首の上のフルフェイスの隙間からは、ハンサムな顔も見受けられる。
まるで、動く英雄銅像だ。
「それをそんなブタ型かトロール型かわからん出来損ないを召喚しおって!」
「え? あ……」
前世の知識を思い出したことで認識が遅れたけど、俺も理解した。
どうやら、ゆるキャラや二頭身キャラという概念を知らないこの世界の人には、まんまるボディから指の無い手足が生えている姿は、人型に思えないらしい。
――デフォルメの概念が未発達だからなぁ。
「でも神話は神話でしょう? イメージ悪いかもしれませんが、追放はやり過ぎですよ! だいいち魔王のゴーレムが本当にスキルかどうかもわからないですし」
「口の利き方には気を付けろ! 貴様はもう我が家の人間ではない! つまりは平民だ! 不敬罪で切り捨てるぞ!」
父さんの意思を受けたのだろう。
ゴーレムは全身の関節を滑らかに駆動させて、優美に剣を構えた。
「うっ」
剣の切っ先を向けられて、俺はたじろいだ。
「そもそも世界を滅ぼすほどの巨大ゴーレムを操るのだ、スキルに決まっているだろう!」
「それは……」
残念だが、それが貴族社会における神話の解釈だった。
だけど、俺のスキルは魔王とは別物だと言おうとして、俺は口をつぐんだ。
実のところを言うと、とある事情で俺のスキルが魔王とは別物と否定しきれないのだ。
俺が口をつぐむと、父さんは俺のゴーレムを見下ろした。
「まして、女神様の巨神兵のように立派で神々しいならともかく、こんなみすぼらしく貧相なゴーレムで言い訳などしおって、恥を知れ!」
言って、父さんはゴーレムをボールのように蹴り飛ばした。
「あっ!?」
俺のゴーレムは無言でコロコロと転がって、列席者と生徒たちの間で止まった。
すると、他の貴族や貴族科の生徒たちも侮蔑を含んだ視線でゴーレムを見下ろした。
そして邪魔だ、あっちへ行けと蹴り飛ばした。
コロコロと転がったゴーレムは、クリスのマネキンゴーレムの足にぶつかった。
マネキンゴーレムは微動だにしないも、クリスは怪訝な顔をした。
「邪魔」
クリスの意思を受けたであろうマネキンゴーレムが突然動き出した。
右足を振り上げ、俺のゴーレムを踏みつける。
ゴーレムは手足をばたばたと動かして必死にもがいている。
ゴーレムには表情が無いけれど、頭の上にちっちゃなステータス画面が展開した。そこに泣き顔マークが表示された。
それを目にした途端、俺はたまらない気持ちになって駆け出した。
「やめろ!」
マネキンゴーレムの蹴りが、俺のゴーレムをまた床に転がした。
俺はすぐに駆け寄り、ゴーレムを抱き上げた。
和太鼓のように太い体なので、両腕を回し抱えるようにして驚いた。
――軽い。まるで猫みたいだ。
すると、周囲から口々に「出ていけ」という罵声が浴びせられた。
その舌鋒から逃げるように、俺は広間の出入り口を潜り抜けた。
入学式の今日は、一部の警備兵以外は全生徒、全職員が式に参加している。そのため、外には誰もいなかった。
突然の前世の記憶、スキルへの覚醒、実家からの追放、平民落ち、色々なことが頭の中を巡りながら、俺は顔を上げた。
すると皮肉にも、視線の遥か先には、王都最大のモニュメント、自由の女神のようにそこに佇む超巨大女神像を正面から拝めた。
かつて女神様が生み出し操ったとされる巨神兵の一体で、世界中に点在するうちの一体だ。
この世界に生まれて十五年間、何の疑問も持たなかった。
だけど前世の知識がある今ならわかる。
女性的な丸みを帯びたヒップラインにくびれたウエスト、ふくらんだバストがなまめかしい軽装鎧姿の女騎士風の巨神像は……だけどバイザーの仮面をかぶり、肘には駆動系関節、両肩にはミサイル格納ハッチ、側頭部から生えるのは髪飾りではなくおそらくアンテナだ。つまり何が言いたいかというと……。
「あれ、どう見ても巨大ロボだよな?」
しかも、無数の機体を同時に世界中で展開していたとなると、人が乗り込んで操縦するタイプではないだろう。
十中八九、自律思考型だ。
――もしかして二〇〇〇年前の聖戦って、俺と同じスキルを持つ二人の異世界転生者による一大決戦だったんじゃないのか?
前世の記憶を思い出した俺には、そうとしか思えなかった。
だとするならば、父さんの言う通り、俺は魔王と同じスキルの使い手なのだ。
――俺、これからどうなっちゃうんだろ……。
抱えられたまま、ゴーレムが短い腕を伸ばして、俺の頭をなでてくれた。
視界の中に、SNSのようなメッセージウィンドウが表示された。
『げんきだしてー』
「慰めてくれるのか? ありがとうな。それとだいじょうぶ、お前は悪くないよ」
言って、俺もゴーレムの頭をなでてやる。
片手でも丸い体を落とさないように、重心を意識しながら支えた。
すべすべとした手触りの良いねずみ色のボディに癒される。
初めて会ったゴーレムなのに、何故だか愛着が湧いていた。
「ん?」
更新されたメッセージウィンドウを目にして気づいた。
文章の横には、のほほんとしたゴーレムの顔アイコンが表示されている。
でも、その右上に二点のマークがある。
知っている。
あらためて女神像を見上げた。
その胸元に輝くエンブレム。それと同じだ。
「お前、やっぱあれの仲間なのか?」
『?』
これを見せれば父さんも考え直してくれる。
そう思って戻ろうとして、足が止まった。
――なら、もう一つのマークは?
まっさきに思い浮かんだのは、魔王だった。
魔王が操ったゴーレムは残されていない。
だけど、表示された二つのエンブレム。
一つが女神のものなら、もう一つは何か。
妙な不安に襲われて、推理をやめた。
証拠が無い以上、何を考えても妄想でしかない。
それこそ、こいつをいじめた父さんたちと一緒じゃないか。
自分にそう言い聞かせて、ゴーレムを強く抱きしめた。
◆
翌日。
俺は平民科高等部の教室にいた。
あれから学園に掛け合い、なんとか退学は免れたものの、貴族ではない俺が学園に残るには平民科への転科が必然だった。
貴族科高等部の制服は、一日でチェスト行きだ。
貴族科の校舎に比べて粗末な造りの教室を見回すと、周囲の席に知っている顔は皆無だ。
正直、かなり居心地が悪い。
――まずい。
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