第15話 揚げ玉伝説


 その日、王都の広場は大いに盛り上がっていた。


「おい知ってるか! あの『舌の吟遊詩人』が下手くそな詩でべた褒めした食べ物が売ってるらしいぞ!」

「なんだって!? 舌の吟遊詩人と言えば、美味しい料理ほど詩が下手になることで有名なのに!?」


 とある男二人組が歩きながら話している。


 舌の吟遊詩人。それは美食において極めて優れた舌を持ち、肝心の詩に関しては壊滅的に下手であることで有名な男だ。


 特に美味しいモノを食べた時の詩は、興奮のあまり意味不明なことをのたまう。


 だからこそ彼の下手くそな詩を作った食べ物は、間違いなく美味であると太鼓判を押されていた。

 

「それでその食べ物ってなんだよ。どんな詩が作られたんだ?」

「揚げ玉コロッケっていうものらしい。油の球で揚げたもので、まるで罠付き宝箱のように美味しい食べ物だと」

「やべえ微塵もおいしさが伝わってこねぇ……ってことはめちゃくちゃ美味いんじゃないか!? でも油って高いから、俺らで出せる値段じゃないよなあ」

「それが銀貨一枚で売ってるらしいぞ」

「はあ!? 銀貨一枚!? 魔法使いが買い占める油を使ってるのに!?」


 油は魔法使いの火力アップアイテムとして、かなりの需要がある。ゲームでもかなり高価なアイテムであり、ボス戦などで使うような代物だった。


 ゆえに庶民の手には入らないため、油を料理に使うという発想はなかった。


「おい買いに行こうぜ! あの油を使った料理が銀貨一枚なんて、今日を逃したら手に入らないかもしれねぇ!」

「ああ!」


 こうして二人はコロッケの売っている場所まで走ると、三十人以上が並んでいる屋台が見つかった。


「ミアレスちゃん! 一番揚げ球のコロッケ揚がったよ!」

「は、はい! すぐ取ります!」


 その屋台では油がいくつも球体となって宙に浮いていて、その数は六つもある。その六つ全てで同時にコロッケが揚げられていた。


 油を揚げた香ばしい匂いと、ジュワッという音が周囲に響き続けていて、その二つが更なる客を呼び続けている。


 油球六つでコロッケを揚げ続けているのに、客の列はぜんぜん減っていなかった。


「おひとり様、おひとつでお願いします! 二度並びも辞めてください!!」

「ねえこれボクの分残るの!?」

「諦めろ!」

「そんなあ!?」


 もはや限定プレミア商品のように売れ続けるコロッケに、とうとう購入制限までかかってしまっていた。


 そしてコロッケを買った者たちは屋台の近くでかぶりつき、


「う、うまいいいいい!!! これが揚げ玉コロッケか!」

「油でこんなに美味しい料理ができるなんて……!」


 あまりのおいしさで叫び出し、その声がまた新たな客を呼んでいた。


 男の二人組もその叫びを聞いて、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「う、美味そうだな……! 早く並ぼうぜ!」

「おう!」


 そうして二人はしばらく待っていたが、彼らの順番が来る五人ほど前に、


「すみません! コロッケ売り切れです!」


 というスレインの声を聞いて、並んでいた者たちはため息をつく。コロッケという宝箱のような料理を食べたかったが故だ。


「ただ代わりに鳥の揚げ物を用意してます! 唐揚げというのですが、よろしければいかがでしょうか!」


 そんながっかりした彼らのお詫びとばかりに、スレインはまた声をあげた。


 並んでいた者たちは「まあせっかくだからなあ」、「ここまで並んだし……コロッケ食べたかったなあ」とから揚げを受け取り始めた。


 から揚げは紙皿に三個ほど置かれて、お客に向けて配られ続ける。


「唐揚げなあ。揚げ球コロッケが食べたかったが……鳥ならどこでも売ってるしなあ。揚げたところで……」

「仕方ねえよ。出遅れた俺らが悪い」


 明らかに残念な様子でから揚げを受け取った男たちは、パクリとから揚げを食べた。


 その瞬間だった。


「う、うめぇぞ!? なんだこれ!? 中はジューシーなくせに外はサクッとしてて! これが本当に鳥か!?」

「やわらけぇし肉汁があふれ出るぞ!?」


 コロッケを気に入った者たちが、から揚げを嫌うわけがない。


 そうしてさらなる長蛇の列になり、この市場の一日売り上げの歴代最高を更新したのだった。


 そうしてスレインの出店は語り継がれることになり、揚げ料理の噂も広まっていった。


「これ貴族ご用達の食べ物になるかもなあ」

「そしたら油の人気が更に上がって、俺たち庶民は結局食えなくなるなあ……」


 



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 ネットのとあるスレ。


『リアルクラエリアを疑った奴ら、この画像見ても同じこと言えるか? ん?』


 添付でスーパーで買い物しているクラエリアたちの写真が貼られて、同時にスレが一気に盛り上がり始めた。


『は? 服装をゲームに合わせたらまじでクラエリアじゃん。むしろこの娘をモデルにしてキャラデザしたんじゃね? そういう話が他にもあった気がする』

『というか待って? クラエリアの後ろに写ってる娘が気になる。ミアレスちゃんっぽい』

『まじやん。この二人組何者だよ』

『服以外コスプレしてるんじゃね?』


『コスチュームをプレイしないコスプレ!?』

『ミアレスちゃんが揚げ物を見に行くって時点で、原作再現ではある』

『あの娘は油の聖女だからな。教皇でありながらラグナロク商会の会長やってるし』

『ラグナロク商会とかいう日本枠』

『ラグナロク商会の設定ほんまクソ。ファンタジーでから揚げを出すなよ。唐揚げは中国の唐由来だからおかしいだろうが』


 この後、しばらく醜い暴言争いが続いたので割愛。


『出たよファンタジー警察。じゃあ中国の商由来だから、商会も使えないだろうが』

『そもそも日本語喋ってる時点でおかしいよな! ゲームのセリフを全部理解できないようにしようぜ! %$#%$#%$#$@%$%$#%^^(訳:私はラグナロク商会好きです^^)』


『最後だけそのままで草』

『どこまで許せるかって話ではあるな。俺はファンタジー世界でから揚げは許すが、サツマイモはちょっと違和感あるわ』

『身近に感じ過ぎるのはマズいんだろうな。それこそ商人が中国の商由来なんて、知らないやつはまったく問題ないし』

『謎のファンタジー考察スレ始まって草』

『お前ら暇人なん? 異世界の妄想する前に現実生きたら?』


『というかクラエリアの写真、盗撮じゃね? ちゃんと許可得てるんか?』

『出たよ自治厨。許可得てるに決まってるだろ馬鹿か』

『このスーパーどこよ。場所分かればこの二人とお近づきになれるんだろ? 特定班はよ』

『チェーン店だけど商品の陳列である程度絞れるぞ。誰かこの娘たちをゲームのコスプレさせた写真撮ってきてくれ』

『この娘らでAV撮ったら売れそう』

『そういや思い出したけど、から揚げとコロッケのせいでアーレーン国が滅ぶんだよな。まさか国家滅亡の話で笑うとは思わなかった』

『ミアレスがアーレーン滅亡時のこと語った時か。あれ急にギャグになって困惑した記憶あるわ』





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