第7話 隠しボスはどこ?


 俺たちはドラッグストアで買い物を終えた後、アーレーン国の王城へと戻って廊下を歩いていた。


 それとちょっと時間を確認したのだが、俺たちが地球にいた時間は経っていないように思える。おそらくだが俺がいる世界だけが時間が動いてる。不思議なこともあるものだ。


「ねーねースレインー。どこ行くの?」

「姫様の寝室だよ」

「わかった、夜這いだね! 病気で弱って抵抗できない姫様を好きにする……このゲス野郎! 見損なったよ!」

「そんなわけあるか! あのな、アーレーン姫はまだ予断を許さない状況なんだぞ」


 姫様の部屋の前についたので扉をノックすると、中からメイドが開けてくれた。


「姫様のお食事を用意しに来ました」

「承知しました。食事はそのマジックバッグの中に?」

「はい。このおかゆという食べ物を姫様に食べていただきたく」


 俺は背負っていたマジックバッグから、おかゆの入った手持ち鍋を取り出す。いやマジックバッグ便利だな。日本で売ったら大儲けできるのでは。


「穀物を湯に入れていたものです。柔らかいですし消化によいのでぜひ」

「わかりました。少々お待ちください」


 メイドは部屋の中に入って、またすぐに外に出てきて頭を下げてきた。


「申し訳ありません。姫様はスレイン様にはお会いするのが難しそうで、おかゆだけ頂いてもよろしいでしょうか?」

「承知しました。熱いので気を付けてくださいね。それと姫様の体調はいかがでしょうか?」

「少し熱はありますが安定しています」


 姫様の病気はなんとかなりそうだな。それなら俺がすることはなさそうだ。


 彼女に会えないのは仕方ない。そもそも男の俺が姫様の部屋に入るのもどうかと思うしな。


 メイドに手持ち鍋を渡して退散することにしよう。


「薬はかかさず飲ませてくださいね」

「もちろんです。私の命に代えましても。飲ませ忘れたら首が飛ぶので……」


 真剣な顔で告げてくるメイド。


 この場合の首とは解雇という意味ではなく、文字通りの首ちょんぱである。つまり首が飛ぶ(物理)。処刑とかある世界だから是非もなし。


 あ、そうだ。おかゆのレトルトパックも渡しておこう。


「これはおかゆのレトルトパックです。袋ごとお湯で温めれば作れますので、もし姫様が気に入りましたら。ではよろしくお願いします」


 レトルトパックってものすごく便利だよな。腐らないしかさばらないのに、お湯で温めるだけで食べられるんだから。


 俺もアイテムバッグを手に入れる前は、リュックとかに干し肉とか詰めてたし……。


 メイドにおかゆパックを二十枚ほど渡すと、姫様の部屋から離れることにした。


 今のメイドの様子を見る限り、姫様の容態はかなり安定してそうだし大丈夫だろう。もしヤバイ状態だったら顔に出ているはずだ。


「さてと。じゃあ次はどうするかな」

「地球に戻ってディアボロス・クエストをやりたい!」

「なんでそこまでやりたがるんだよ」

「だって面白そうだもん! 自分を使えるんでしょ?」

「お前は敵キャラだから使えないぞ」

「え”っ」


 どうやらクラエリアのアテは外れたようだが、彼女が要求してきたことはなるべく答えてやらないとな。


 俺は彼女と契約している。その要項は『クラエリアが俺に従う代わりに、俺は彼女を楽しませる』だ。


 なので彼女が求めていることにはなるべく答える。代わりに俺は隠しボスの強さや能力を借りられるというわけだ。


 ……美少女にせがまれたら、つい聞いてあげたくなるのも否定しないけど。


「じゃあ日本に戻るぞ。手に掴まれ」

「はーい」


 相変わらずクラエリアは俺の腕に抱き着いてきた。ドキッとするが役得だしいいかと思いながら、転移魔法で日本の自宅へと戻る。


 もう外は暗くなっていた。時計を見ると夜7時過ぎだ。


「じゃあゲームやらせて! この世界なら遊んでも問題ないんでしょ?」


 クラエリアはさっそく俺に手を差し出してきたので、俺は背負っていたマジックバッグからゲーム機を取り出した。


「わーい! 早く貸して!」

「待て待て。お前用のプレイデータ作ってやるよ。ゲームの最初からやりたいだろ?」

「ボクといつ戦える?」

「五十時間くらい後かな」


 クラエリアは隠しボスなので、ゲームクリア後の追加エピソードで戦える敵だ。そのため最初からやると戦えるのはだいぶ後になる。

 

 ただ普通にプレイすれば三十時間後くらいなのだが、クラエリアはゲームに慣れてないから多めに見積もらないとダメだろう。


「そんなに時間かかるの!? なんでボクそんなに出てくるの遅いの!? もっと早く出してよ! スレインのケチ!」

「なんで俺が怒られてるんだよ!? 知らんゲーム制作者に言ってくれ!」

「ぶー! なんとかならない? ボクがこの小さな箱にいるのを見たいのに!」


 クラエリアはゲーム機を見ながら俺に訴えかけてくる。


 ディアボロス・クエストがプレイしたいというよりも、自分がゲームに出ているのが見たいということか。


「わかったよ。それなら俺のプレイデータでクラエリアと戦える場所に行けるぞ。ただ途中からになるから、ストーリーが意味不明になりそうだがいいか?」

「やったー! 流石クレイン! よろしくね!」


 などと言われたのでさっそくゲームを起動。悪逆非道絶許魔王軍が俺のマイホームを燃やすシーンは飛ばして、クラエリアと戦う直前のセーブデータをロードする。


 クラエリアはかなり好みのキャラなので、いつでも戦えるようにデータは残してあった。そんなキャラが俺の家にいるのか……。


「ほら。これでまっすぐ進めばクラエリアと戦えるぞ」


 道化の鏡屋敷にいる主人公を確認。このステージはクラエリアと戦える場所だ。


「わーい! ……まっすぐ進むってどうやるの?」

「十字のボタンがあるから上を押せ」

「あ、進んだ! よし覚悟しろ、ボク! 倒してやる!」


 斬新な自分殺しになるがいいのだろうか。いいのだろうな。


 食事でも作ろうかなと部屋の扉に手をかけて、台所に向かおうとする。久しぶりにカップ麺とか食べた……、


「スレインー。ボク見つからないんだけど」

 

 するとクラエリアがゲーム画面を魅せながら呼びかけてきた。


「ん? そんなバカな……」


 ゲーム画面を確認すると屋敷の一番奥にある、クラエリアと戦える舞台ステージだ。


 ここに彼女は必ず立っているはずなのに誰もいない。


「ぶー! 戦えるって言ったのにー。カワイイボク見たかったのにー!」

「おかしいなあ……また調べておくから今日は許してくれ」

「じゃあ代わりに面白いことちょうだい!」

「そうだなぁ。アイスクリームでも食べるか?」

「うん!」


 俺は部屋を出て台所に向かい、冷凍庫からカップのアイスクリームをひとつ取り出した。


 そしてすぐに部屋に戻ってきて、


「ほらアイスだ。スプーンですくって食べろ」

「わーい!」

「それと食べながらでいいんだが、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」

「あっまーい! 白くて綺麗で甘くて美味しい! こんな美味しいモノがあったなんて!」

「そうか。それで今後にどう動くか話したいんだが」

「アイスもうひとつ欲しい!」


 ダメだ、聞いてくれる気配がない。


 結局クラエリアはアイスを三つも食べてしまい、


「むにゃむにゃ、アイス……」


 気持ちよさそうにすやすやと、ソファーの上で寝てしまったのだった。ダメだこりゃ。

 


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