第32話 『ゴミの日』
身体に毛布を纏いながら、眠そうにベッドから足をおろし、床に立ち上がったドク博士は、何か思い出したかのようにこう言いました。
「あ~……今日は、ゴミ回収業者が来る日じゃったの〜」
「え? 博士?」
助手くんは、その言葉に少し引っかかるものがありましたが、ドク博士は、染み付いた癖のようにベッドの側に置いてあるゴミ箱に歩いて行き、あらかじめ床に用意しておいた国指定の透明なゴミ袋にゴミ箱の中身を入れ始めます。
ちなみにドク博士の研究所は、その建築場所と大きさから、ゴミの回収は決まった曜日に指定のゴミ回収所に置きに行く、というのではなく、研究所内部にある【廃棄物回収場】に燃えるゴミや、缶、ビニール、鉄といった金属系をそれぞれに区分けされた大きな金網籠に仕分けして入れ、契約した廃棄物回収業者に週に一度引き取ってもらう、という形をとっていました。
「ア、博士! ベッドから降りる時は、スリッパを履イテ! アト、服もチャント着て下サイ!」
一糸まとわぬドク博士の後ろ姿を、助手くんは、読者から覆い隠すようについていき、手にしていた下着や服、スリッパ等を、まるで手品のようにひとつずつ優しく着せていきます。
「ほら、ホラ!」
「分かっとる〜」
毛布を引きずり、まるで分かってないような声を出しながら、寝室を出ていこうとするドク博士。助手くんは、そのドク博士の足元を、スリッパから靴に履き替えさせると、瞬時に立ち上がり、くるりと一回転します。すると、どうでしょう? ドク博士が引きずっていた毛布はするりと取れ、その中からはドク博士がいつも着ている白い服に黒いズボン、その上から白衣を纏っている姿が出てきたではありませんか。
「はよ、ゴミを集めんと〜」
「博士〜、待って下サイ〜!」
ドク博士は、まだ眠気まなこでした。
それから1時間半後、すっかり目が覚めたドク博士は、研究所内の廃棄物を集め終え、【廃棄物回収場】の部屋の中心で仁王立ちしながら胸元で腕を組み、隣にいる助手くんにドヤ顔でこう言いました。
「これで、準備万端じゃな!」
「博士、廃棄物回収業者が来ルノは、明日デスよ」
瞬間、ドク博士と助手くんの間に沈黙が走ります。沈黙は、4コマ漫画でいうと、2コマほど続きました。3コマ目に入るタイミングで、ドク博士がようやく口を開きます。
「助手くん……今、なんと言った?」
「デスから、廃棄物回収業者が来るノハ、明日ダト申し上ゲタノです」
直後、赤面したドク博士は、思わず助手くんの目の部分にあたる黄色い【◎】を人差し指で突きますが、逆に自分の指を痛くしてしまうのでした。
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