ドラゴンとドルヲタ、そんな二人の魔物語。
楽駄。
第一話「心優しいドラゴン」
「タランチュ様、そんなところで寝たら、飛行系の魔物の餌食ですよ。」
屋根の上で寝っ転がる一人の子供に、狐のホースが話しかける。
それに反応してダラダラと身体を起こした。
「わぁ~てるよ、ちょっと目を瞑ってただけだって……」
そんな事を言ったが、今は深夜の何時か………分からないが、このまま眠りについたら確実に朝までぐっすりだろう。
悔しいが、狐の言う通りに屋根から飛び降りる。
ここは、かつて森に住んでいたドラゴンによって助けられた魔物が暮らす屋敷。
しかし、今はドラゴンの姿はどこにもない。
ある時を境に姿を消したのだ。
なので、自然と魔物たちは一人の子供を主として暮らしていた。
それが、最後にドラゴンが残した遺産であり希望である、ドラゴンの子供のタランチュである。
「俺は、ドラゴンだし、負けないけどな。」
「でも、痛いと嫌でしょう。」
「…………まぁな。」
確かに痛いのは嫌だな、とそう返事をする。
赤い髪に赤い瞳、長い二つの牙に額の黒い角。
ただ恐怖というイメージは薄い。
「………タランチュ様は、本当にドラゴンなんですよね?」
「あぁ?何が言いたいんだよ!?」
「いや、私の知ってるドラゴンってのはもっと大きくて、威厳がたっぷりなんですよ。
タランチュ様は、なんて言うか可愛らしいな、と。」
「うるせぇーんだよ!!!
ホース、お前は明日のおやつ抜きな!!」
「嘘ですって、凄い恐怖だ、ちょっとチビリました、今!!!」
普通は、ドシンドシンと音を立てる程に大きく、一つの咆哮で魔物も人も恐怖で震える……らしい。
俺は二足歩行だし、低級の魔物と同じぐらいの身長だ。
まぁ、成長すればなれるのだろう。
「ん?あれ、スギョはいないのか?」
「確かに姿が見えませんね。」
いつもはソファーでだらだらとしているはずの、モフモフの魔物であるスギョがいない。
アイツに埋もれて寝ようと思ったのだが、何処にいるのだろうか。
「大変だ、タランチュ様!!
スギョの奴が、怪しい奴がいるって屋敷を飛び出しちゃってよ!!」
「マジか……」
夜の森は危険。
それはこの世界の常識である。
しかも、人が寄り付かないこの森は各段と危険であるのはスギョも分かっているはず。
「チッ……ちょっと行ってくる!!」
「あ、任せましたよ、タランチュ様!!」
辺りで一番、高い木に飛び移る。
「さてさて……スギョの野郎はっと………」
あの白いモフモフなら、一目で分かるだろう。
目を凝らせて、見渡す。
そして………………いた。
誰かを追いかけている。
「魔物じゃねぇーな。
草木が邪魔で良く見えねーけど。」
そして、「トウッ」と木から飛び降り、スギョに向かって高速で落下していく。
若干に場所を見誤ったが、着地から再び飛んで、今度はピッタシに着地した。
「おい、何してんだ、スギョ。」
「タランチュ様!!」
追いかけていたのは、黒髪の女性だった。
だから夜闇に紛れて見づらかったのか。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
「ん?怪我してるのか?」
荒い息、肩口から流れる赤い血。
傷口は斬り裂かれたような感じだ……という事はスギョの攻撃で怪我したわけじゃなさそうだ。
「この人間、森で倒れていたんです。
夜の魔物に襲われたらしくて。」
「だから、助けにきた……と。」
「そうです。
でも、僕を怖がって逃げてしまって。」
「なるほどな。」
近付いて傷を確認する。
だいぶ深いな、このままにしていたら死ぬだろう。
回復薬でもあれば良いんだが、生憎、屋敷を飛び出してきたものだから、今は持っていない。
「触ら……ない…で…………」
最後の抵抗をした女性が、そのまま気を失う。
肩を抑えていた手が緩み、血が溢れてくる。
「おい!!おい!!クソ!!
スギョ、屋敷に運ぶぞ、手伝え!!!」
「わ、分かりました!!」
女性を担ぎ、タランチュとスギョは屋敷に急いだ。
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