割れたいちご飴をあげたい

名似紫名

ゆいが居なくなった~1通目の手紙

神様へ 

 ゆいにもう一度会わせてください。 


 夏休みが終わって、9月1日、学校に行った。

「颯太たちがゆいの事をからかっていたから来ないんじゃないの?」

 唯花にそう言われた。


 ゆいは僕たち4人より年下で、いつもいじられキャラだった。でも、ゆいが気にしていると思ってからは、僕はからかうのをやめていた。


 よくからかっていた僕と湊斗、彰で話し合って、4人で謝りに行く事になった。

学校から帰る時、校門に先生がいっぱいいた。その中で、ゆいのお母さんが何か叫んでいるようだった。


 ゆいのお母さんは、僕たちを見ると、こっちへかけ寄ってきた。僕の両肩を持って、前にしゃがんだ。


「ゆいは! ゆいは今どこにいるか知らない?」

 僕たちは、目を合わせた。


 すぐに先生たちが、ゆいのお母さんを連れて行った。

「何もないから大丈夫だよ?」

 校長先生が僕の顔をのぞいてそう言った。


 僕たちは、その場を急いで離れた。

「家に帰っていなかったのか?」

「そうみたいだね」

「僕たちが原因で、ゆいは家にも帰ってないのかな?」

「先生にも、バレるかな?」

「とりあえず、僕たちで先にゆいを見つけよう。それで先に謝ろう」


 僕たちは、ゆいの行きそうな場所をまわって、よく行く森へ来た。


 僕が先頭で歩いていると、急なくぼみがあった。ここに大きい岩がなければ、今頃、つまずいて落ちているところだった。

 下を確認して、鳥肌が立った。斜面の下に、血が付いている石を見つけた。その上の木には、ゆいがあの日持っていた巾着がかかっていた。



 夏休みに、5人でお祭りに行った。

 湊斗が、屋台の物をたくさん食べるために「みんなで分けて食べよう」と言って、いちごあめを分ける事になった。

 僕が、ゆいにいちごあめを渡そうとした時、いちごあめが落ちてあめが割れてしまった。

 僕はゆいに「ちゃんと持ってよ」と言った。

 彰も「ゆい、落とすなよー」と言った。

 その後、ゆいとははぐれてしまった。


 探しながらお祭りをまわっていたけど、ゆいとは会えないままだった。

「もう遅いから帰るんじゃよ」

「でも、ゆいとはぐれちゃって……」

「きっともう帰ったんじゃないか?」

「そっか。町会長さん! さようなら!」

 最後に会ったのはその時だった。



 その次の日、学校でゆいは引っ越して行ったと言われた。


 絶対にウソだと言いながら、僕たちはゆいの家に向かった。

 ゆいの家の前で、ゆいの両親が引っ越しのトラックに荷物を積めてもらっているのを見た。

「……本当に引っ越すの?」

 僕たちは、ゆいのお母さんの所に行った。

「うん。この間はさわいでごめんね。私、かん違いしてたみたいで」

「ゆいは?」

「ゆいは、先に行ったの」


 僕たちは、少し遠くで引っ越していくのを見ていた。

「何かあった?」

 高等部の制服を着たお兄さんが話しかけてきた。

 僕たちが小さい頃によく遊んでもらったお兄ちゃんだった。


「颯太、ゆいのお母さんはなんて言ってたの?」

「引っ越したって言ってたけど、絶対ウソだよ」

「その子は?」

「先に行ったって言ってた」

 お兄ちゃんはスマホで、写真を見ていた。その写真は、玄関でゆいのお母さんと男の人がだき合っているみたいだった。男の人は背中しか写っていなかったけど、なんだか見覚えがあるような気がした。

「あ、そうだ。お兄ちゃん、巾着取ってよ」


 僕たちは、お兄ちゃんに場所を案内して、巾着を取ってもらった。

「あっ! 背伸びしてる」

「うるさいなあ。これでも背は高い方だよ?」

 お兄ちゃんはそう言いながら、彰をくすぐっていた。

 

 湊斗と目が合って、口パクで何かを伝えようとしてきた。何だろうと思っていると、後ろから音がした気がした。湊斗はその事を言っているようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る