第13話 一緒にゲーム
「もしもーし」
私は充電コードを伸ばして絨毯の上で携帯状態のままゲームをする。そばに、スマホを置いてスピーカーモードに。
「もしもし。聞こえてる?」
「うん、大丈夫」
電話しながら男の子と一緒にゲームをする。何かすごい仲いい二人みたいな感じで、ちょっと恥ずかしい。もちろん、悪い気はしなくて。
「何しようか? ストーリー?」
「それは長そうだし、ボスを倒しに行かないか」
「りょーかい」
このゲームはストーリーモードとは別に、オンライン専用のモードがある。それは、自分なりのアバターを作り、世界の人やNPCと共闘してミッションをクリアするもの。これなら短時間でも沢山遊べる。
ログインして中世ヨーロッパ風の街に降り立つ。
前回の止めた場所の酒場から出てから、外への出口まで行くと、強そうなゴツい黒鉄の鎧や紅の剣を装備した男の子のアバターがいた。
「めっちゃ強そう」
「一応、最強装備だから」
「ひぇーすごい」
水無月くんは戦士キャラクターで防御も攻撃も高い。対して私は女の子の魔法使いで、そこそこ強い紫色のローブとか青色の杖を装備している。
「あんま上手くないし、足を引っ張っちゃうかもだけど、その時はごめん」
このモードでは、四人パーティを組むのだけど、敵のレベルが上がると、コンピューターの仲間だけでは、難しくなる。一応ランダムに世界の人と一緒に組んで出来るのだけど、足引っ張るのが怖くて出来なかった。
「いいよ、気にしなくて。ゲームだし楽しくやろ」
ガチ勢かなとちょっと怖かったけど、安心する。
「そうだね。じゃあ何をしようか?」
「そっちがクリア出来てないのとかある?」
「えーとね」
メインメニューから未達成のクエストを見ると、一番上にあるレベル八十のボスモンスターの討伐があった。
「青龍討伐クエストかな」
「それか。そのクエストからレベル最大でも、コンピューターだけだときつくなるんだよな」
突然難しくなったわけだ。何回もチャレンジしたのだけど、無理すぎて詰んだ苦い思い出が蘇る。
「あの日のリベンジだ」
頭の隅の隅に悔しさが残っている。それを晴らす時。
「やろうか」
「うん」
装備確認よし。出口にキャラを動かし、リロードを挟んで、コロシアムにワープ。二足歩行の青色のドラゴンが降り立つ映像が流れてから、戦闘スタート。
コンピューターの仲間は回復役の僧侶とサポート役の踊り子。
「俺が引き付けるから後ろから攻撃お願い」
「わかった」
水無月くんが前線でボスに果敢に剣を振るう。尻尾で薙ぐ攻撃が来れば回避や盾で防御。私は後方からひたすら炎、氷、雷の魔法を放つ。
「やばっ」
広範囲攻撃の回避を失敗してもダメージを受けてしまう。体力ゲージが一気にゼロに近づいて赤色になる。しかも、ドラゴンがこっちに。
「大丈夫」
けれど、水無月くんの一定の範囲の人を守るスキルで助かる。
「ありがとう」
僧侶に体力の回復をしてもらい危機を脱した。さらに、踊り子の踊りで魔力上昇して、さらに魔力ポイントも回復。
「よーし」
再び攻勢に出る。カチカチとボタンを速攻で押して魔法のオンパレード。
「体力半分きた」
「はやっ」
水無月くんが強すぎてボスの体力ゲージがゴリゴリ減っていく。
「こっから、攻撃が強くなるから気をつけて」
「わ、わかった。……あ」
広範囲巨大火炎放射をもろに受けて体力がゼロになりダウン状態に。
「忘れてた……」
他の二人もダウンしてしまっている。確か、ここからで全滅してしまうことが多かった。
すぐさま水無月くんに助けてもらう。ダウン状態は、ボタンの長押しで復帰可能だ。何度もやられると時間がかかる。更には、ダウン状態で攻撃を受けると復帰もできなくなるので注意しないといけない。
「助かったー」
「とりあえずまた引き付けるから、その間に」
「オーケー」
少しずつ連携が取れてきている気がする。通じ合う感じで楽しくなってきた。
「よしっ。そっちは大丈夫?」
「少しやばい」
「私が注意を引くから回復して」
彼が後方に下がっている間、私が魔法を打って、相手の攻撃を回避。当たれば一発アウトのギリギリの攻防に画面に意識が集中する。
「うわっ」
ボタン操作を避けるではなく攻撃にしてしまい、もろに鋭利な爪に切り裂かれた。
「ごめんやられた」
「時間稼ぎナイス。下がって」
最強戦力の戦線復帰だ。攻撃が当たらないよう祈りながら心を持たない味方の下へ。なんとか踊り子に助けてもらい一安心。体力を癒やしてもらい強化を貰う。
「後ちょっとで倒せるぞ」
ボスのゲージが赤色になってほとんどない。後一歩だ。
もう捨て身の勢いで魔法を連打。彼も防御を捨てて一騎加勢に攻めたてる。僧侶や踊り子も杖と踊りで微かなダメージを与える。
コツン。僧侶の杖の弱々しい音と共に青龍が倒れ込む。
「……ええ」
余りにスッキリしない終わりで、嬉しさより困惑が勝ってしまった。
「はは。まさか僧侶が倒すとは」
「ふふっ。まさかだね」
意外な結末だけど、ちょっと面白いからいいや。頭の隅の隅の悔しさも開放されたし。
街に戻るとクリアしたことによる報酬を得た。新たな杖が手に入ってさらなる強化に繋がる。それに、また次のレベルのミッションも増える。
「水無月くんまだ行ける?」
「ああ」
「次のやつやろ」
それを皮切りに私のミッショをサポートしてもらいクリアをしていった。
談笑しつつ夢中になってしばらく遊んだ。時間が圧縮されたかのように時間が経つのが早くて、いつの間にかもう窓の外は藍色に。時計を見ると七時だった。
「そろそろ終わりにしようか」
「そうだな」
あれから七つのミッションをクリアして一気に進んだ。達成感と充足感に浸ってしまう。
だけど、頭の端っこにいた冷静な自分が、宿題の二文字を囁いてきた。
「……やば、数学の宿題出てるの忘れてた」
完全に失念していた。
「そういえば、俺のとこも出てたな」
成績優秀な彼なら何の苦もないのだろう。努力の結果なのだけど、羨ましい。
「数学苦手?」
「というより勉強全般無理。学ぼうとするともう頭がいーってなる」
テストの点も平均を常に下回っていて、成績も芳しくない。
元々の資質もあるのだろうけど、それだけじゃなくて勉強をしていると、塾に通っていた頃の嫌な記憶が蘇って、やる気が萎えてしまい捗らなくなってしまう。
「そうか……その」
言葉が途切れて無言に。電話が切れたのかと不安になる。
「教え……ようか? 良ければ」
またも想定外の提案だった。
「いや、ごめん。変なこと言った」
返答が遅れたせいで、すぐさま撤回されそうになる。
「ううん。その、ちょっと驚いちゃって」
じわじわと距離が詰まっていることが明確になってきて、嬉しくなる。
「その、水無月くんが良いならお願いしたいな」
「あ、ああ。全力で教える」
「ふふっ、ありがと」
この水無月くんとの通話を通して、私の心の中心に一つの炎が灯った気がした。
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