第11話 第2次晋州城(チンジュソン)の戦い
空想時代小説
文禄2年(1593年)6月、第2次晋州城攻撃が始まった。主将は宇喜多秀家である。総勢4万3000。政宗の朝鮮での初陣である。と言っても、やることは土木工事であった。水堀の水を南江(ナムガン)に流すための土方仕事であった。政宗の武の側近である成実殿は、文句を言いながらも鍬を握っている。
「オレの戦はこんなもんじゃねぇ!」
と言いながらも、人一倍動いている。本人いわく鍛錬だということである。
晋州(チンジュ)の守りは前回ほど厳しくなかった。守勢は7000ほど。後で知ったことだが、朝鮮王朝内部で対立があり、漢城守備を重視する派閥が優位になり、明軍もそれに同調したとのこと。よって、晋州城には反主流派の将だけが集まったようである。前回活躍した権(クォン)将軍もいなかった。
今回は高櫓も用意してある。そこから弓矢や鉄砲で攻撃すると、石垣の上の敵兵はばったばったと倒れた。亀甲車も頑丈に作られ、少々の攻撃には耐えられるようになっていた。3日目には、門を破ることができ、黒田長政配下の後藤基次が先陣で城内に突っ込んでいった。城内にいる者はことごとくなで斬りにされた。前回の晋州城攻めの失敗を取り返すべき、鬼の仕業であった。
政宗らは、侵攻が終わった後に入城した。やっと堀の水を流し終わって、攻め込むことができると思ったら、既に終わっていたのである。成実殿は
「なんということだ! 終わってしまったではないか!」
と嘆いている。政宗は配下に犠牲がでなかったので、むしろホッとしているようであった。小十郎が十兵衛に話しかける。
「お主の書いた日記をやっと読み終えたぞ。北方ではだいぶ苦労したのだな。それと先の晋州城で夜襲におそわれて多くの配下を失ったこと。半分、涙目になったぞ」
「おそれいります。何とか生き延びたという感じです」
「そうだな。よくぞ生き延びた。それに朝鮮のことばも覚えたのだな」
「はっ、ふだんの生活には困りませぬ」
「まず、何を覚えればいい?」
「そうですな。まずはモラヨーですな」
「モラヨー? なんだそれは?」
「わからない。です」
「たしかに生半可にしゃべるよりは、モラヨーと言った方がいいかもな」
その夜、政宗と小十郎は宇喜多秀家に呼ばれて、戦勝祝いの宴に行った。十兵衛たちにも酒がふるまわれた。しかし、政宗と小十郎は渋い顔をして帰ってきた。
宴の途中に、酔った武将が一人の妓生(キーセン)を伴って、外に連れ立っていった。まわりの者は
「うまくやれよ」
とか言っている。だが、しばらく後「ドボーン!」というすさまじい音。
「落ちたか!」
と皆が騒いで、川の方にいくと、その武将と妓生が抱き合ったまま浮かんできた。妓生の指全てには指輪がつけられ、抱きしめたら簡単に手が離れないようになっている。妓生が武将を抱きしめ、そのまま川に飛び込んだことが明白だった。宴はそれで終わったということだ。呼ばれた妓生は、即席の者たちで夫を亡くした者たちも多かった。飛び込んだ妓生も夫を晋州城の戦いで失ったということを後日知った。
民衆の憎悪の深さを心底知り、政宗と小十郎はこの戦いの意味を考え直したようだ。
翌日、日の本軍に衝撃の知らせが入った。長政公の配下3000人が朝鮮側に投降したというのだ。よくよく聞くと、元々は清正公配下の将で、鉄砲隊の将である。名を雑賀達樹という。置き手紙には
「この戦に大義なし」
と書いてあったとのこと。十兵衛は西生浦(ソソンポ)で何度も会った。鉄砲隊の本隊の隊長だから、いろいろなことを教えられた。実直な武将だとは思っていた。今回の清正公の帰国や長政勢への編入に際しても不満があったことは明白である。
鉄砲隊の将が寝返ったことは、日の本軍には大打撃であった。3000人の兵とともに1000挺の鉄砲が敵に渡ったのである。鉄砲の技術も敵に伝わってしまうのは目に見えている。これからは朝鮮の抵抗が強くなることが容易に想像できた。政宗と小十郎が暗い表情になるのは十兵衛にはわかる気がした。
そんな中、政宗勢に金海山(キムメサン)にいる浅野勢への救援要請がやってきた。敵に取り囲まれているということで、早速出陣することとなった。
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