【21】昔のように
結局、日替わりで俺は寝床を変えなければいけなくなったらしい。
ならば、もう一部屋寝室をつくればいいだけだ。そう提案したところ、なぜか猛反対されてしまった。
とにかく、俺には自室という居場所が無いみたいです。可哀そうすぎるな、うん。
そんなわけで、昨日まで空き部屋件来客用だった部屋がサナのものになった。
「疲れた。もう寝る」
生地の良いワンピースに身を包み、髪を梳いたサナはそのままベッドにダイブした。俺と二人きりだと、少々気が抜けるところは変わっていないようで安心だ。
「もっと端に寄れ。俺の寝る場所が無いだろ」
「何言ってる? いっぱい空いてる」
そう言いながら床を指さすサナ。
「俺に床で寝ろって言うのか……」
「冗談。お兄はもうおじい。だから、身体は大事」
「不名誉な韻を踏むな。あと、まだ俺は二十二だ」
それから、しばらく沈黙が続いた。反対を向いて横になるサナの表情は見えない。まだ寝てはいないようだけれど。
サナとこうして二人で夜を過ごすのはいつぶりだろうか。それこそ、まだパンプフォール国に出てくる前が最後だ。それを機にサナは学生寮に入ってしまったから、年に数回顔は合わせても、食事がてら近況を聞くくらいだった。
「なんか、懐かしいな」
「……何が?」
「こうして二人で寝るのがだよ。十年ぶりだ」
「……そう」
また静寂。
年頃の妹と話すのって、難しくないか?
頭を悩ませていると、
「お兄、私学校卒業したよ?」
とサナが呟く。
「おう、偉いぞ」
頭を撫でると、少しの間の後、勢いよく払われた。
「お金、いっぱいかかった?」
いつもより抑圧された声に思えたのは、そういうことだったか。本当、昔も今も変な心配ばかりしやがって。
「そんなことないさ」
色々考えて、そんな言葉しか出てこなかった。
「嘘。
「サナが気にすることじゃない。現に今は金に困ってないじゃないか」
「……ここに来る前に、パンプフォール国寄って来た」
心臓がキュッと音を鳴らす。
「話しておくべきだったな。辛かっただろ?」
パンプフォール国での出来事は、もちろん妹には話していなかった。
わざわざ言う必要なんて一切ない。でも、そのせいで妹には嫌な思いをさせてしまったかもしれない。
「そんなことない。お兄の方が辛かったはず」
「……まあ、そりゃ生きてるんだ、辛いこともあったさ」
「安心して。お兄の悪口言った人たち、全員星屑にしてきた」
「おい、何したんだ!?」
「ちょっと、礼儀を教えてきただけ。大したことはしてない」
サナが裏路地に連れ込んでボコボコに殴り倒してる姿が容易に目に浮かんだ。あの国の冒険者でサナを止められる奴はいないだろう。
気の毒だとは思わないけれど。ああいう奴らは標的が消えたら、また新しい標的を探す。一度、痛い目を見るのも悪くは無いだろう。その相手がサナだったのは少々運が悪かったとは思うが。
それにサナは自分が悪口を言われたことに対してではなく、俺のために怒ってくれたらしい。嬉しいことじゃないか。
「私、これからはお兄と住む」
「いいのか? サナなら引く手数多だぞ? お兄ちゃんとしては早く良い相手でも見つけてほしいんだが」
「そんなのいらない。私はお兄と暮らしたいだけ。……昔みたいに」
サナの言葉に思い出がフラッシュバックする。
田舎の村で俺とサナ、母親の三人で過ごした日々。父親はいないようなものだったけれど、確かに幸せだった。
サナも同じ思いなのだろう。それに俺だって、サナにいて欲しくないわけじゃない。サナはもう成人した大人だ。いつまでも親の代わり面したって仕方がない。
「じゃあ、しばらく一緒にゆっくりするか」
「……うん」
背中越しにサナが表情を崩した気配がした。
「お兄?」
「なんだ?」
「……色々、ありがとう」
ちょっと、驚いた。だから、一拍遅れて俺は小さく笑った。
「
数秒後、案の定わき腹に鈍い痛みが飛んでくる。
チラッと見えたサナの顔はやっぱり淡泊だったけれど、どこか嬉しそうに見えた。
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