Act.1-28 七百一層を探索せよ!!! 天職とスキルを確認しつつ、魔物討伐。PART THREE.

「ワーブウェポン・弧月刀クレセント!」


 黒い筒にワーブルを流し込み、純白の刃を形成したガラウスは地を蹴って加速した。

 ワーブルで作られた戦闘体への換装によって大幅に身体能力が強化されたガラウスは瞬く間に三つ首の猛犬サーベラスへと肉薄する。


 そのまま眩い刀を振るって三つ首の猛犬サーベラスの首を一つ落とした……までは良かったが、三つ首の猛犬サーベラスの残る二つの首がガラウスの方へと向いた。

 そして、「やられた真ん中の首の仇!」と言わんばかりに口から容赦なく極寒の吹雪と電撃の奔流をガラウス目掛けて吹き掛ける。


「――危なッ!? ワーブル体じゃなければ死んでいたじゃないですか!?」


「……ちっ、そのまま吹雪と雷を生身で受けていれば良かったのに」


 万が一ワーブル体が致命傷を負っても即座に保存されていた元の身体に戻るだけである。しばらくワーブル体への換装ができなくなるという弱点はあるものの決してそのまま命を落とすことはない。

 つまり、ブレスで仮にワーブル体が破壊されていてもガラウスの生存はあり得たのだが、そもそも三つ首の猛犬サーベラスの攻撃にはガラウスのワーブル体を破壊できるほどの力は無かったようだ。


 ワーブル体でいれば、まず死の危険がないことが明らかになったとはいえ、生身で受ければ当然ながら死を免れないほどの一撃である。ワーブル体に換装済みで余裕があるとはいえ、流石のガラウスも敵の攻撃の強さに恐怖を覚えたようだ。


「確か、魔法を使うためには体内の魔力と呼ばれるエネルギーを知覚して、そのエネルギーにどのような形を与えたいのかを意識すれば良いのよね。……よし、できたわ! この魔法、闇の鞭ダーク・ウィップと名付けようかしら?」


 一方、フィーネリアはというと、闇魔術師の力を使って闇属性を付与した魔力に鞭という形を与え、漆黒の鞭を作り出していた。

 フィーネリアは全く鞭を使った経験は無かったが、適当に鞭を振るうとその軌道が【鞭操術】によって補正されて美しい軌道で魔物達へと殺到した。


「無縫君、魔法は使えたわ! でも、【反魂魔法】ってどう使えばいいのかしら?」


「魔法発動成功おめでとうございます。そうですね……俺は取得したことがないのであくまで【万象鑑定】で反魂魔術師の天職を取得した波菜さんのスキルの詳細を調べた時に得た情報ということになりますが、まず反魂魔法には大きく二つの効果があるようです。一つは神聖属性の最上位魔法の一つである蘇生魔法や、蘇生術師と呼ばれる極めて稀な天職の持ち主が使用できる蘇生術、後は有名どころだと高位の陰陽師が自らの命と引き換えに蘇生を行う裏・泰山府君祭……これらと同様に死者を蘇生させることが可能です。ただし、他の死者蘇生魔法と同様に魂が輪廻していない場合という制約があるため、基本的に死亡後十五分……最大で死後三十分以内に発動する必要があります。しかも、反魂魔法は他の蘇生魔法と違ってかなり魔力と術者自身の生命力を消費するようです。乱用は避けた方がいいでしょうね。ちなみに、使用方法は体内の魔力を燃やしながら、遠い場所にある魂を呼び戻し、目の前の肉体の中へと押し戻す……あるいは、死者が死亡する以前の状態へと時間を巻き戻すイメージ、とも書かれていましたが、その辺りは術者ごとに違うのかもしれませんね。とりあえず、先立はいるので固有系天職では無さそうですね。まあ、珍しいというのには違いありませんが」


「……なかなか凄い魔法ね。代償が大きいのも納得できるわ。もう一つの効果はどういうものなのかしら?」


「もう一つの効果は本来あるべき現象の性質を反転させる魔法のようですね。魔力を意図的に暴走させることで属性を反転されることができるようですが、スキル無しで無理矢理行おうとすれば逆流した魔力によって体内の魔力の経路をズタズタに破壊してしまうことになるようです。発動方法は、例えば炎属性であれば、炎属性の魔法の詠唱をしつつ、脳内で氷のイメージをする……みたいに、イメージをダブらせて魔法を発動するという感じらしいですね。可能なのは、光と闇、炎と氷のように明確に反対のイメージが思い浮かぶもので、燃え盛る氷、相手を凍らせる炎、みたいな魔法が生み出せるようですよ。光と闇の反魂は両方の属性を使える場合には威力が上がる程度の効果ですが、片方の属性のみを使用できる場合や片方の適性が高い場合には得意属性と同じ水準の反対属性の魔法が使えるという意味では利用価値があるかもしれませんね」


「こっちの方が応用範囲が広そうね。とりあえず、試してみようかしら? 炎を凍らせる焔よ! 【凍える火焔フロスト・ブレイズ】!! あら、イメージ通り発動できたわ!」


 フィーネリアがイメージした通りの魔法が発動し、三つ首の猛犬サーベラスの頭を三つ纏めて炎で凍結させる。

 これで気を良くしたフィーネリアは次々と炎すら凍らせる万象を凍らせる焔・・・・・・・・を次々と魔物に向けて放っていく。


 魔法使いとしての才能があったのだろうか? 常人離れした速度で次々と魔法を発動させていくフィーネリアに恐怖を覚えたのか、魔物達は阿鼻叫喚の声を上げながらフィーネリアに背を向けて四方八方に逃げ出した。


「逃がさないわ! 【凍える火焔フロスト・ブレイズ】! 【凍える火焔フロスト・ブレイズ】!! 【凍える火焔フロスト・ブレイズ】!!! あははは、楽しくなってきたわ!!」


「……魔力切れにご注意くださいね」


 ドSな本性を垣間見させて怒涛の魔法攻撃を仕掛けるフィーネリアに苦笑を浮かべて一応注意事項を伝えつつ、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスも自身の魔物討伐に戻ろうとする。

 だが、最悪なことにこのタイミングでドルグエスの魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを呼ぶ声が耳朶を打った。


「無縫! 網羅武器士と勇者と武闘王の戦い方を教えてくれ!!」


「はぁ、なんでこのタイミングなんですか!? 朝比奈茉莉華こと阿呆アイドルに追いつかれそうになっているんですけど!?」


「無縫、貴方、日本語の使い方も分からないのかしら? 通称が先で名前が後よ!」


「……分かった上で言っているのが伝わらないんだね。様式美って奴が分からないつまらない人間だね、君は」


「――って、誰が阿呆アイドルよ!!」


「突っ込みが遅過ぎるよ! ワンテンポどこの騒ぎじゃないよ!!」


「まあ、別に教えてあげればいいんじゃない? その間に私が追い抜かしてあげるわ!」


「……ちっ、ここで断るとこいつに負けたみたいで癪に触る。ということで、ドルグエス! 巻きで説明するから着いてこい!! 網羅武器士はあらゆる武器を完璧に操れる上位天職、武闘王はあらゆる武術を完璧に使いこなせる上位天職だ。つまり、肉弾戦を得意とし、武器の扱いにも長けるドルグエスさんの能力を更に向上させる天職ということだ。逆に、できることは増えないということでもあるけど。じゃあ、以上で――」


「待ってくれ! まだ勇者とやらの説明が終わっていないではないか!!」


「はぁ……勇者とは聖剣を扱える唯一の天職で、魔王と対をなす存在だよ。聖属性を扱える剣士というイメージだ。とりあえず……聖剣、聖剣……おっ、あった」


 空間魔法を発動して亜空間から適当な聖剣を見繕ってドルグエス目掛けて放り投げる。


「基本的には聖なる力をイメージして、剣に乗せて放つ! そいやぁーー!! ってイメージだ。勇者固有技なんてご大層な名前で呼ばれている技が数多あるが、それぞれ様々な世界の歴代の勇者達が編み出したそれぞれに合った技の型ということであって、それを踏襲する必要は別にない。うちのクラスメイトのなんちゃって勇者様は『光を纏え! 聖なる輝き、飛翔して天を切り裂け! 【天翔光閃斬】』なんてご大層な詠唱と技名をつけて、剣に聖なる光を纏わせてから、振り下ろすことによってそのエネルギーを斬撃として飛ばしていたな」


「そういえば、無縫君。君も勇者の天職を持っていましたよね? 折角なのでお見せしてあげたらどうですか? ……茉莉華さんとの競争を続けるならば、勇者の剣技で魔物を倒せば一石二鳥ですし」


「内藤さん、そういうことでしたら。……久しぶりに振るってみるとしますか。聖剣オクタヴィアテイン!」


 人間の勇者に恋をし、純愛を貫こうとしたものの悲恋に終わってしまった人魚の姫の魂と勇者への想いが宿ったとされている美しい青の刀身の聖剣を鞘から抜き去った無縫は刀身に膨大な聖なる魔力を込める。


「おんどぉーりゃー! せーいー! そーいー!! 【至高天の白薔薇エンピレオ】!!」


 適当な掛け声と共に刀身を振るった瞬間、刀身に込められた膨大な聖なる力のほとんどは巨大な刀身と化して目の前の死を呼ぶ飛行者デスゲイズを両断した。

 更に、巨大な金色の刀身を形成しなかった聖なる魔力は無数の光の刃と化して縦横無尽に戦場を駆け巡る。まるで意思でも持っているのか、複雑な軌道を描いた刃は次々と逃げ惑う魔物達の急所を貫いていった。


「まあ、こんなところですかね。ドルグエスさん、どうぞ真似してみてください」


「……いや、流石に吾輩もこれは真似できないと思うぞ。ふむ、では吾輩はそのなんちゃって勇者とやらの真似をするとしよう! 光を纏え! 聖なる輝き、飛翔して天を切り裂け! 【天翔光閃斬】!!」


 その後、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスから一振りの聖剣を受け取ったドルグエスは春翔が習得まで五日掛かった勇者の技を伝聞だけで呆気なく一発成功させてしまった。

 どうやら、春翔よりも勇者の才能があったようだ。……本当に悪のドルグエスは侵略国家の幹部なのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る