第86話 黒木瑠衣の真実(重大告知有り)
黒木瑠衣は、なぜ俺に拘るのか。
俺の家に来たあの日の帰り、忘れ物を取りに戻って来た黒木は、その理由を文化祭が終わったら話すと言っていた。
『諒太くんはわたしが完璧であり続けるために必要なの』
あの発言の意味を……俺はまだ理解できていない。
「そもそも……黒木はさ、中学の時に俺だけお前に告白しなかったから、それに納得できなくて俺に告白させようとしてるんじゃ無かったのか?」
「……あれ、本当は嘘だったの」
「う、嘘!?」
「中学時代に諒太くんだけが告白して来なかったとか、本当はそんなの気にしてないし。わたしはそんなことで完璧を目指すような女じゃないよ?」
淡々とそう口にする黒木。
でもあれが理由じゃなかったなら、なぜ黒木は俺に絡んで来たのだろうか。
「わたしが自分の完璧のために諒太くんが必要って言ったのはね、あなたはわたしにとってヒーローだったから」
「ひ、ヒーローって……さっきメイド喫茶で並んでた時に話してた?」
黒木は小さく頷いて、そのまま話を続ける。
「諒太くんは自覚がないのかもしれないけど、わたしは諒太くんに2回も窮地を救われてるの」
「それって……もしかして俺たちが中学2年の時の卒業式の?」
「知ってたんだ。放送部員だった田中さんに聞いたとか?」
「ああ……黒木、在校生送辞で読み上げる原稿を忘れたんだろ? でもあの時、体調不良で俺が倒れたから式が中断されて原稿が届いたって」
「うん。その通り」
常に完璧を目指す黒木瑠衣にしては珍しいミスだとは思って驚いたし、何よりそれを無意識のうちに俺が助けていたのも驚きだった。
「あの頃は陸上の全国大会とか、ジュニアオリンピックとかで忙殺されていて、卒業式に生徒会長がする在校生送辞の内容に、目を通してる余裕もなかった。だからあの時、制服のポケットに原稿がないことに気づいたわたしは絶望したの。今まで積み上げて来た完璧なイメージが、みんなの前で崩れてしまうのではないかと思って……今までで一番焦った」
あの黒木でも、焦ることとかあるのか。
何でもできて、常に完璧なのが当たり前のイメージがあったからこそ……意外だ。
「不幸中の幸いとはいえ、諒太くんのおかげでわたしは助けられたし、今の完璧なわたしがあるのは諒太くんのおかげ。もしあの時失敗して自信を失くしていたら、今のわたしは無いかもしれないから」
「……黒木」
「だからあの時はありがとう、諒太くん」
「……っ、べ! 別に俺は意図的にしたわけじゃないし」
黒木から謝辞と純粋な笑顔を送られて、俺はつい照れてしまう。
「出た、ツンデレ」
「ツンデレじゃない!」
俺が否定すると黒木はクスクスと笑う。
(ったく、俺のどこがツンデレなんだよ)
「てかそれよりも、俺が助けたのは2回って言ったよな? じゃあもう1回は何なんだよ? 全く心当たりがないんだが」
「うーん……もう1回は……小学生の時の事かな?」
「しょ、小学生? 俺たち別々の小学校だったのに?」
「それはそうだけど……ほら思い出して、前に話した猫の話」
「猫?」
さらに言っていることの意味が分からなくなる。
ね、猫の話……?
そういえば黒木って、猫を飼ってたとか言っていたが……ん? 待てよ。
「もしかして、駐車場で猫を逃しちゃった話か?」
「そう。前に話した時はやけに無反応だったから言わなかったけど……」
「無反応?」
「あの時ね、猫を救ってくれたのは諒太くんだったんだよ?」
「は……お、俺!?」
と、隣町の立体駐車場で黒木の猫を助けたって話の男の子が俺、だと!?
理解が全く追いつかない上に、そんなことを言われても記憶にはない。
確かに小学生の頃は親の用事でよく隣町へ出かけていたが……。
「小学生の頃のことだから覚えてねえんだよなぁ……言われてみればあったようなやっぱり無かったような……」
「ねえ、諒太くんって小学生の頃、放課後遊びに行く時に名札を付けっぱなしにする癖がなかった?」
「えっ……! お、おい! なんでそれを」
黒木が言うように俺は小学生時代、胸元に付ける名札を外すのを忘れがちで、放課後も付けっぱなしで遊びに行ってしまうような癖があったのは確かだ。
小学生の頃はそれでクラス担任や親から毎回毎回怒られていた。
でもそれを知ってるってことは……。
「じゃあもしかして、猫を助けた男の子の名札に……俺の名前が?」
「うん。しっかり書いてあったよ? 『いずみやりょうた』って」
ま、マジかよ……。
揃った状況証拠的には、どうやら本当に俺が助けたようだ。
(てか咄嗟に相手の胸元にあった名札を見つけて名前記憶してるなんて……やっぱり黒木の洞察力は探偵並みに鋭いな)
「わたしはあの時もね、自分のせいで猫が逃げちゃって、泣きそうなくらい焦ってた。でも諒太くんが捕まえてくれたから、わたしは救われて……」
黒木は噛み締めるように思い出を想起しながら、俺に優しい眼差しを向けて来る。
「でもまさか、あれから数年後の中学生の時にもまたあの『いずみやりょうた』くんに助けられちゃうなんて、思ってもみなかったよ?」
まさか俺みたいな陰キャがあの黒木瑠衣を2回も助けていたなんて……無自覚とはいえ、昔の俺、ファインプレーすぎるな。
あの時助けたから、今に繋がって……って、待て。
「黒木は俺の名前を中学に入る前から知ってたんだろ? ならどうして高校2年になるまで声かけて来なかったんだよ」
「それは……」
「?」
「同姓同名の可能性も捨てきれないし、それにあの頃のわたしは、まだまだ乙女で、そっちは完璧じゃなかった、からかも?」
「は?」
これまでの中で最大級に意味が分からない発言なんだが。てか、そっちってどっちなんだよ!
ま、まぁ……別に俺は話しかけられたかったわけじゃないから、いいんだけどさ。
「はーい! もうこれで、わたしの昔話はおしまいっ!」
「おしまいって」
「つまりわたしが何が言いたいかって言うと、わたしは諒太くんに助けられてばっかりってことっ。だから今日は借りを返すために助けてあげたっていうか」
「ああ、それは……感謝してる」
今日は黒木に助けられなかったら、俺は完全に詰んでいたからな。
「これで前に言った『完璧であり続けるために諒太くんが必要』っていう言葉の意味が分かった? わたしは諒太くんと一緒なら……これからもずっと完璧な自分でいられる気がするの。ずっと、永遠に、一生……」
い、いやいや、もうこれってさ。
「だから諒太くんには……これからもわたしの側にいて欲しいな?」
とどのつまり……愛の告白、なのでは!?
く、黒木とっ! つ、付き合うってことなのか!?
あの黒木瑠衣と、俺が!?
「ま、待て待て! そりゃ! 俺も黒木みたいな超絶美少女と付き合えるのは嬉しいけど、なんつうか、急にそういう関係になるってのは、ちょっと」
「……っ」
「黒木?」
「ごめん諒太くん。盛り上がってるところ悪いんだけど、わたしが言ってるのはそういう意味じゃなくて」
「へ?」
「今年の生徒会長選挙——もしもわたしが生徒会長に当選したら、諒太くんに副会長をやって欲しいの」
「…………は?」
また、とんでもない事が始まりそうな予感がしていた。
— — — — — — — — — — — —
これにて本作の1stシーズンは終了……と同時に、超重大発表があります。
なんとこの作品の……
書籍化が決定だぁぁ!!!!!
うぉおおおおおおおお!!!
書籍化ということは、優里亜のデカモモと愛莉のデカパイと黒木のヘソがじっくり拝めるということですねえ!!!(あと田中)
気持ちィィィィ!!!
レーベルなど書籍化の詳細については徐々に発表していきますので、星野星野の作者フォローをよろしくお願いします!!(かなり凄いです)
それでは皆様、次回から始まる2ndシーズン(夏休み&2学期編)でお会いしましょう!
いつもありがとうございます!
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