第22話 チャリパイvsブタフィ軍①

「なんだ、あれは……」


宮殿から双眼鏡でチャリパイの様子を覗いていたブタフィは、顔をしかめた。


(あの金ピカの衣装はなんだ?顔を白く塗っているのは何の為なのだ?………ニッポンの伝統文化に『カブキ』というものがあると聞いたが、あれがそのカブキというものなのか?)


あのバカ殿扮装を、日本の由緒ある伝統文化の歌舞伎と思われては堪らないところだが……それは良いとして、意味不明な出で立ちといい、たった四人でこの軍に立ち向かって来る事といい、ブタフィはこのチャリパイの行動を、ブタフィ軍に対する侮辱と受け取った。


「イベリコ姫には申し訳ないが、あんな連中は我々の軍に掛かればものの五分、いや一分で捻り潰してご覧にいれます。ヘタな希望は抱かぬ方が身のためですぞ」


ブタフィはチャリパイを迎え撃つ為に兵を送り込むのだが、驚いた事にブタフィは、たった四人のチャリパイを撃退するのに宮殿で待機していたほぼ全ての陸軍部隊を出動させたのだ。


「あの愚かな四人に、我が軍の圧倒的な戦闘力を見せつけてやるのだ!」


凄まじい砂埃を巻き上げながら、出て来る、出て来る、およそ三十数機の戦車とその倍は有りそうな数の装甲車。そして、ライフルを抱えた兵士が、ずらりと二百名はいるだろうか……まさに、圧倒的な力の差を誇示するように宮殿の前に立ちはだかり、チャリパイを威圧した。


対峙するブタフィ陸軍部隊とチャリパイ。その距離はおよそ五十メートル位だろうか……ブタフィ軍の放つ威圧感たっぷりのオーラに、興奮したダチョウ達が雄叫びを上げた。


クエエェェ~~~~ッ!


『いいか、殺すんじゃないぞ! 生け捕りにして、ここに連れて来い!』

『了解しました! 将軍!』


ブタフィの指令が無線で伝えられると、二百数十からなるブタフィ陸軍部隊はゆっくりと前進し、チャリパイとの距離をじわりじわりと縮めていった。相対するチャリパイは、その場にとどまり皆真剣な表情で近づいてくる部隊を睨み付けている。ただ、睨み付けているといっても顔はバカ殿メイクなので、いまいち迫力に欠けるのは否めないのだが……


「アイツら、撃ってこないでしょうね……」

「撃ってくるかもしれないが、狙ってはこないと思う。ブタフィはオイラ達を自分の目の前で痛ぶりたいと思っている筈だよ」


シチローの言う通り、陸軍兵の発砲は殆ど威嚇目的のものだった。戦車から発射される大砲もチャリパイを直接狙ったものでは無く、遥か頭上を通り過ぎるだけであった。しかし、それでも嵐のような集中砲火の前にチャリパイは身動きひとつ取れない。


「みんな怯むなよ! ここが気合いのいれどころだ!」

「イエッサァ!」


恐怖に必死で耐え、一歩も退かないチャリパイだったが、そんな様子を宮殿から双眼鏡で見ていたブタフィは、愉快そうに嘲笑っていた。


「ワッハッハッ。所詮四人ごときではなにも出来まい! 『最後のサムライ』が聞いて呆れるわ!」


ブタフィ陸軍部隊との距離は、しだいに縮まっていく。五十メートルから四十メートル……三十メートル……二十メートル…………………そして……………………


(何か攻撃でもしてくるのかと思ったが、意外とあっけなかったな……)


あの距離まで近づいてしまえば、もう取り逃がす事も無いだろうと確信したブタフィは、双眼鏡から顔を離してニンマリと不敵な笑みを洩らした。


「最後のサムライとやらも、大したことは無いですな。イベリコ姫、少し邪魔が入りましたが改めて続きを開始しましょう。さぁ、用紙に署名をお願いします」


すっかり勝ち誇った表情のブタフィ将軍。だが、チャリパイの奇襲攻撃はこれで終わった訳ではなかった。むしろ、ここからがチャリパイのイベリコ救出作戦の始まりだったのだ。


突然、まるで落雷でもあったかのような大きな音が宮殿の外から聞こえてきた。


「何事だ!」


宮殿の窓ガラスが振動するほどの大きな物音に、慌てて外の様子を双眼鏡で確認するブタフィ将軍。双眼鏡で覗いた外の様子は、もうもうと巻き上がる砂煙で視界が悪く、そこで何が起こっているのか直ぐには確認出来なかった。何か悪い胸騒ぎを覚えつつも、砂煙が収まるのを待って双眼鏡で食い入るように外の様子を窺うブタフィ将軍。


そして、やがて砂煙が収まると……

そのあり得ない光景に、ブタフィは口をあんぐりと開けて驚愕した!


「一体どういう事だ! これはっ!」


「ぐ…!」








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