第14話 子豚救出作戦①
「よし!じゃあ、明日はコブちゃんを救出に行くぞ!」
突然、シチローが『子豚救出作戦』の決行を宣言した。勿論、その為にはるばるこのブタリア王国へとやって来たのが、下準備とか作戦の計画は大丈夫なのだろうか?
他の三人も、その事を心配した。
「ええ~~っ、明日行くのお~~!だって、見張りの兵とかもいるんだよ?」
「作戦はどうするのよ?何か考えがあるの?シチロー」
ひろきとてぃーだの当然ともいえる疑問に、シチローは自信満々に胸を張った。
「大丈夫、作戦はもう考えてあるよ。では、これからその作戦を話すから」
そう言ってシチローは、にこやかな顔で自分の荷物の中から一冊のノートを取り出し、三人の目の前に広げて見せた。実戦の為に訓練された一国の軍隊相手に、シチローが編み出した作戦とは、いったいどんな作戦なのだろう?
♢♢♢
そして翌日。時刻は午後5時。太陽がゆっくりと傾き、辺りの景色が薄暗くなってきた頃である。宮殿の前に現れたチャリパイの三人、そして今回の作戦にどうしても参入をと志願したイベリコは、緊張の面持ちで現在子豚がいるであろう宮殿の一室を揃って見つめていた。
暫くして、シチローが引き締まった表情で口を開いた。
「これから、『子豚救出作戦』を敢行する!昨日伝えた手順を間違えないようにな!」
今日の作戦の為にシチローを中心に夜遅くまで綿密な打ち合わせをしたメンバーは、ぶつぶつと何か口ずさみながら頭の中でその内容を整理していた。
「表の見張りの兵の数は十人。いずれもよく訓練された兵士達のはずだ!みんな、油断するんじゃないぞ!」
「イエッサァ~~ッ!」
軍隊式の敬礼をビシッと決めたひろき、てぃーだ、そしてイベリコは、シチローの後に続き子豚の待つ宮殿へと足を向けていった。
自分達より人数の多い敵を相手にする際の戦法の基本とは……決してまとまった人数をいっぺんに相手にはせず、一人ずつを本隊から隔離させ、不意をついて確実に倒していく。これは、アメリカ合衆国の陸軍特殊部隊【グリーンベレー】の戦闘マニュアルにも載っている、ゲリラ戦の基本である。
「じゃあ、打ち合わせ通りイベリコとティダは建物の東側から、オイラとひろきは西側から片付けよう!」
「イエッサ~~ッ!」
シチロー達は二手に別れ、それぞれのターゲットに向かって走って行った。
西側、シチロー・ひろき組……
「じゃあ、ひろき。まずは【シチュエーションA】から行くぞ!」
「オ~ケ~、シチロー」
そう声を掛け合うとシチローは、建物の西側の壁に背を向け、銃を構えて直立不動で外を見張る兵士のひとりのもとへ、息をはずませて大声を上げながら走って近付いて行った。
「兵隊さ~~ん!大変だああ~~っ!」
いきなり自分の方へと向かって来たシチローに、兵士は銃を持つ手に力を入れ、身構える。
「何だお前!いったい何が大変なんだ!」
「兵隊さん!あっちの木の上に、あの伝説の大蛇『ゴールデン・キングコブラ』がいるんだよ!」
宮殿から四~五十メートル程離れた大木を指差し、シチローが叫んだ。
『ゴールデン・キングコブラ』とは、このブタリア王国で、
『一生に一度その姿を見る事が出来たら、その人間は生涯の幸福を得る事が出来る』と噂された伝説の生物であった。
「何!それは本当かっ!」
「ホントだよ!早く見ないとどこかへ逃げちゃうよ!早く、早く!」
「そ、そうか。そうだな……そんな珍しいものなら……」
伝説の生物の誘惑に負け、持ち場を離れた兵士は、シチローに手を引かれゴールデン・キングコブラがいるという大木に向かって走って行った。
「どこだ!どこにいるんだ?ゴールデン・キングコブラはっ!」
「ほらっ、あそこ!もっと木に近づかないと見えないよ!」
大木の上を指差しながら、兵士を出来るだけ木の傍へと誘導するシチロー。
そして、兵士が木の枝の真下まで近付いたその時だった!
「えいっ!」
木の反対側に隠れていたひろきが、ロープの先端を持って現れ、兵士ごとその木の周りをぐるぐると回った。
「うわっ!何だ!何をするっ!」
木にぐるぐる巻きに縛られもがく兵士の隣りで、ハイタッチするシチローとひろき。
「畜生~っ!騙しやがったな!」
「はい、一丁あがり~」
まずは、見張りの一人目を攻略である。
変わって東側、イベリコ・てぃーだ組……
「何をしている!そこの女!」
東側の見張りから二十メートル程離れた所で、地面に這いつくばっているイベリコの姿を見つけた兵士は、当然のごとく声を掛けた。勿論、兵士はウイッグやマスクで変装している彼女の事をイベリコとは気付いてはいない。イベリコは、兵士の声がまるで聞こえないそぶりで、まだ地面の上を這いつくばっていた。
「おい、女!」
呼びかけに反応しないイベリコに対し、兵士は仕方なくイベリコの方へと近付いて行った。
「何をしていると聞いている!ここは部外者立入禁止区域だぞ!」
「すみません、兵隊さん……実はここでコンタクトレンズを落としてしまって……見つけたら、すぐ出て行きますので!」
「何、コンタクトレンズ?」
思わず、自分の靴の裏を上に向け確認する兵士。兵士と言えど人間である。困っている若い女性を目の前にして、あまり手荒な行動はとれないものだ。
「わかった。じゃあ、一緒に探してやるから、見つけたら帰るんだぞ!」
「ありがとうございます!兵隊さん」
「無いな……本当にここで落としたのか?」
「ええ、確かにこの場所で……」
イベリコと一緒になって、地面に這いつくばってコンタクトレンズを探す兵士。もはや、その背後からてぃーだが忍び足で近付いている事にさえ、気付かないでいた。
そして……
ガン!
「◇★∞◆○☆」
鈍い音がして次の瞬間、兵士は地面にうつ伏せに伸びていた。琉球空手の名手てぃーだの、必殺『踵落とし』が見事に決まった瞬間だった。
「相変わらず、シチローの考える作戦って姑息なんだから……」
「ごめんなさいね、兵隊さん……」
ちょっと申し訳なさそうに、兵士の手足をロープで縛るてぃーだとイベリコ。
こんな調子で、チャリパイの三人とイベリコは、見張りの兵士を一人ずつロープで縛り上げていった。
「シチロー、次はあたしが主役ね~」
「よし、順調、順調~これぞ名付けて『小芝居で油断させて、不意をつく
作戦!』」
夕べのシチローのノートには、こんな小芝居の台本が山のように綴られていたのだった。
勿論、こんな作戦は【グリーンベレー】の戦闘マニュアルには載っていない。
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