第21話 アカデミー賞ものの演技?

 翌日早朝


 ヨロヨロと歩きながら瀕死のルルが、俺が使っている部屋へと帰って来た。


「よく頑張ったな」

「ニンゲン⋯⋯コワイ⋯⋯ニンゲン⋯⋯オソロシイ」


 死んだ目をしながらぶつぶつと何か呟いている。

 どんな目にあったか気になる所だけど、ここは恐怖を思い出させないために、聞かない方がいいんだろうな。

 そして朝食を食べた後、俺はザインとリリシアと合流する。

 俺達はスロバスト帝国に出発するため正門へと向かうと、そこには国王陛下とテオ王子がいた。


「リリシア、気をつけて」

「はい。お兄様もお元気で」

「ユートよ。リリシアのことを頼む」

「任せて下さい」


 前の時間軸のリリシアは、これが今生の別れになるなんて思わなかっただろうな。

 だが今度こそ、無事にリリシアを二人の元へと返してみせる。

 俺はそう心の中で二人に誓うのだった。

 国王陛下とテオ王子に見送られながら、俺達は馬車に乗り東方にあるスロバスト帝国へと向かう。

 何もなければ五日でスロバスト帝国に入れるはずだ。

 ちなみに帝国に向かうメンバーは俺とザイン、リリシアに兵士の護衛七人と帝国の使者の計十一人だ。

 そして旅は順調に進み四日程経った頃。

 フリーデン王国とスロバスト帝国の国境付近へと到着した。


「明日には帝国に入れそうですね」

「リリシア王女は帝国に行かれたことがあるのですか?」

「残念ですが、これが初めてですね」


 馬車の中には帝国の使者もいるので、一応敬語を使っている。


「まあこれまでは仲がいいとは言えませんでしたから」


 使者であるホールドさんが神妙な顔で答えた。


「疫病の蔓延、異常気象、凶作と世界の情勢は変わっています。皇帝陛下も国王陛下も争っている場合ではないと考えたのでしょう。だからこそ、ルドルフ皇子とリリシア王女との婚姻は成功させたかったのですが、こればかりはご本人の気持ちもあるので⋯⋯」

「申し訳ありません」

「いえいえ、責めている訳ではありませんよ。それに⋯⋯この結果の方が良かったかもしれません」


 ホールドさんの呟きに対して、リリシアは何のことかわかっていないようだが、俺にはわかる。ルドルフ皇子は野心家で他人のことを省みない性格なので、結婚するとリリシアが不幸になるかもしれないと言いたいのだ。

 今の言い方からすると、どうやらホールドさんは第一皇子派ではないようだ。

 皇帝陛下には三人の息子と一人の娘がいるのだが、現在第一皇子であるルドルフと第二皇子が後継者問題で争っているらしい。

 このままだと国が割れる戦いが始まってしまうのだが、今はリリシアの安全確保が最優先事項だ。


 俺達は国境前にあるヴォラリヒトの街にたどり着いた。ヴォラリヒトは帝国の侵攻を防ぐための要所であるため、街は栄えている。そしてこの街の北側には、迷いの森と呼ばれる広大な敷地が拡がっていた。迷いの森とは文字通り入ったら最後、二度と出ることが出来ないと言われている。

 時刻は昼前、予定ではこの街には滞在せず、今日中にスロバスト帝国へ入国する予定だが⋯⋯


「ぐああっ! あ、頭がいてえ!」

「ザイン殿、どうされましたか!」


 突然ザインが苦悶の表情を浮かべながら大声を出したため、ホールドさんが駆け寄る。


「だ、だめだ。このままだと激痛で死んじまう」

「それは大変です! すぐに医者に診てもらいましょう」

「あっ、いや⋯⋯そこまでしてもらわなくても。たぶん一日宿屋で休めば、元通りになると思うぜ」


 俺はザインの言動に頭を抱える。


「それは大変ですね。わかりました。今日はヴォラリヒトの街で休んで行きましょう。ホールドさん、よろしいでしょうか?」

「ええ、こちらは一日遅れても問題ないです」


 リリシアもホールドさんも人が良いのか、ザインの言うことを信じてしまう。

 二人共誰かに騙されないか心配になってしまうな。

 そして俺達はザインを宿屋に寝かせ、明日の朝までこの街に滞在することになった。


(今の茶番はあなたが仕組んだことですか?)


 宿の部屋に荷物を置いた時、ルルが頭の中で話しかけてきた。


(俺の考えを読んだのか?)

(そのようなこと、わざわざ考えを読まなくてもわかります)

(実はどうしても行きたい所があってな。せっかく近くに来たので寄って行こうと思って。ザインには金を貸した恩があるから一人芝居を打ってもらったんだ)

(大根役者でしたが)


 俺はルルのごもっともな意見に苦笑いを浮かべる。


(それでどこへ行くつもりなのですか? 仕方ないので私も行ってあげます)

(これから行くところ? それはこの街の北にある迷いの森だ)

(えっ!)


 俺の言葉にルルは驚きの言葉を発するのであった。

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