第18話 ユートVSリリシア

 結論から伝えると勝負は一瞬でついた。


 それは俺の本気という言葉に、リリシアが応えてくれたからだ。

 俺は対峙したリリシアに集中する。瞬き一つしようものなら、その隙をつかれて、一瞬で距離を詰められてしまうからだ。


「この勝負、リリシアちゃんの勝ちだろ。あのスピードをユートが見切れるとは思えねえ」


 さすがザイン。わかってるな。

 この頃の俺の剣の技量は、ザインと同じかもしくは劣っているくらいだろう。

 そのザインがあっさり負けたのだ。本来なら俺が勝てる道理はない。


「父上はどちらが勝つと思いますか?」

「ネクロマンサーエンプレスを倒したとはいえ、リリシアには敵わないだろう。我が国の騎士団長でも勝てぬのだぞ」

「だけどユートは何か勝つための策があるんじゃないかな。僕はユートが勝つ方に賭けるよ」

「神速と呼ばれたリリシアが負ける? そんなバカなことがあるか」

「それは結果が教えてくれるよ」


 国王陛下はテオ王子の突拍子のない言葉に、驚きを隠せずにいた。


「それでは始めましょう」


 リリシアは開始の合図を出すと共に、猛然とこちらに迫ってきた。

 俺は予定通り剣を下段に構える。

 これは一気に勝負をかけてかけてきたな。

 ザインの時のように、少しずつスピードを上げていく気はないようだ。


「フィアブリッツ!」


 リリシアが技名を口にすると、閃光のような一撃が放たれた。

 さっきは離れた位置から見ていたので、見切ることが出来ていたけど⋯⋯今の俺の実力ではかわすことも防ぐことも難しそうだ。

 だが実力はなくとも、俺には何十回とフィアブリッツを見てきた経験がある。

 まずはエストックが左肩に迫る。

 俺は攻撃のタイミングに合わせて、右に移動しかわす。

 次は右肩にエストックが向かってきたので、今度は左側に動きギリギリ攻撃をかわすことに成功した。

 リリシアの攻撃は下手に受け止めると体勢を崩されてしまう。それだけフィアブリッツの威力は凄まじいものがある。実際ザインはそれで体勢を崩されて敗北した。

 だからこのかわさなくてはならなかった。

 そして三撃目が右脇腹に飛んできた。

 俺は迫ってくるエストックに向かって、剣を下段から振り上げ弾く。

 すると金属音が鳴り響くと共に、エストックが宙を舞った。

 俺は透かさず首を目掛けて剣を突きつける。


「まだ終わっていませんよ」


 リリシアはエストックを手放したことに動じず、身を低くして剣をかわす。そしてそのまま頭を目掛けて右足で蹴りを放ってきた。

 普通なら丸腰にした時点で心が緩むだろう。しかし俺にとっては想定の範囲内だった。

 俺は向かってきた蹴りを左手で掴んだ。

 だがリリシアの攻撃はまだ終わらない。

 今度は空いた左足で再び顔面に蹴りを放ってきたのだ。

 俺は右手に持っていた剣を手放す。そして向かってきた左足を今度は右手で掴む。

 そのため、今リリシアは逆さ吊りのような体勢になるのであった。


「わ、私の負けです」


 さすがにこの体勢から攻撃することが出来ないのか、リリシアは涙目になりながら降参した。

 ん? 涙目?


「ユ、ユート様。下ろしていただけると助かります」


 リリシアの攻撃を凌ぐことに気を取られていたため、どうして涙目になっているかわからなかったが、今わかった。

 リリシアは逆さ吊りになっていたため、両手でスカートが捲れないように抑えているのだ。


「ご、ごめん!」


 俺は慌ててリリシアを地面に下ろす。


「ユート様ひどいです。辱しめを受けてしまいました」

「えっ? いや、これはその⋯⋯リリシアの攻撃を防ぐためには仕方なく⋯⋯」

「これは責任を取っていただかないといけませんね」

「せ、責任って⋯⋯」


 た、確かにスカートを履いているのに逆さ吊りにするのはやり過ぎたか。だけど責任ってどうすればいいんだ。


 俺が困っているとリリシアがクスクスと笑い始めた。


「冗談ですよ。これは真剣勝負ですから、何をされても文句は言えません」

「驚いた⋯⋯リリシアでも冗談を言うんだな」

「冗談くらい言いますよ」


 俺は口にして気づいてしまった。これだと昔からリリシアを知っているような言い方だ。

 前の時間軸のリリシアを思い浮かべ、思わず口にしてしまった。俺の知っているリリシアは冗談なんか言わなかったからな。


「王女だからといっても、私は普通の女の子ですから。幻滅しました?」

「いや、今のリリシアは楽しそうでいいと思う」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 笑わず、ただ敵を倒すだけの人生よりよっぽどいい。これが本当の姿だと思うと前の時間軸のリリシアは、自分を押し殺して生きていたことがわかる。

 俺はそんな絶望した未来を回避するためにここにいるんだ。


「また私と戦ってくださいますか? 次は負けませんよ」

「ああ。またやろう」


 リリシアは再戦の約束が嬉しいのか笑顔を見せ、初めての手合わせは俺の勝利で終わるのであった。

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