パズル・ウォーズ 〜謎解きの街で、ご当主様始めます!?〜

しぎ

Q1.謎解きの街の新生活

謎解きの街

「おーい! すずめさーん!」

 わたしが改札を出た瞬間、男の子の声がした。初めて聞く声だ。

「すずめさーん! 俺だよ俺!」

 初対面とは思えない気軽さでわたしを呼んだ男の子が、通路の反対側で大きく手を振っている。きっとあの子が、わたしの待ち合わせ相手だろう。

 わたしはスーツケースを引きずりながら、人の合間をすり抜けて彼の元へ。Tシャツにジーパンというごく普通の格好は、気を抜くとすぐ見失いそうだ。

「じゃあ、あなたが、おばさんが言ってた」

たかだよ。これからよろしくな!」

 クラスでの背の順はいつも真ん中だったわたしが、少し見上げるぐらいの身長。

 彼はなれなれしく、わたしに向けてにこりとほほえむ。その顔はすっと鼻の筋が通っていて丸い目で、とても整っている。

「……すずめです。よろしくお願いします」

 わたしが軽く頭を下げると、目の前の彼がCMでやっている足の速くなる靴を履いてるのがわかった。少し汚れて茶色い砂がついているあたりは、前の学校の同級生男子と変わらない。

「同い年だよね? すずめって呼んで良い?」

 彼――たかくんはそう言いながら、早くも春の日差しが照らす外に向かって歩き始めている。

「別に、良いけど……」

「あ、もしかして緊張してる? 大丈夫だよ、俺たちいとこ同士なんだし」

 そうだ。

 わたしは何も見知らぬ他人のところに行くのではない。

 実際に会ったことは今まで無かったにしろ、わたしがこれからお世話になるのは自分の親戚の家なのだから。

 両親を交通事故で失ったわたしは、母さんの実家がある海老川えびがわ市に来た。

 赤崎あかざき すずめ、この春から小学5年生――そんなわたしの新生活は、男の子との出会いから始まった。


 ***


「どうだ、海老川! いい街だろ!」

 駅の外に出ると、鷹くんはそう言ってわたしの前に広がる景色を指さした。

 わたしが今いるところは、駅から左手にある巨大ショッピングモールまで続く高架の遊歩道になっている。目線を下に向けると、色とりどりのバスが忙しく動き回っていて、遠くには緑の山々が見える。

「いい街と言われても、普通の駅前だけど……」

 ――そこでわたしは、右手にある建物が目に入った。

 きっとそっちも何か大きな店なのだろう、『大売り出し』と書かれた長い幕が垂れ下がっているのだが、わたしが気になったのはその隣の幕に書かれた文字。

「あの、『謎解きの街・海老川』って何?」

 わたしがそう聞くと、鷹くんは待ってましたと言わんばかりの顔になった。

「海老川の人は、みんな謎解きが大好きなんだよ。パズルとか、ミステリとか」

「そうなの?」

「すずめは?」

「えっ、わたし?」

 聞き返されてびっくりするわたしに、鷹くんはぐいっと顔を近づける。

 母さんの妹で、わたしが新たにお世話になる朱那しゅなおばさんの言葉を思い出す。

「本当はわたしが駅まで迎えに行きたかったのだけど、仕事があるの。代わりに息子を迎えに行かせるわ。すずめさんとは同い年だから、仲良くしてね」

 だからさっき鷹くんが自分で言っていた通り、わたしと鷹くんはいとこ同士。

 でも、そうとは思えないぐらい鷹くんは顔が良い。わたしはごく普通なのに。

「まあいいや。謎解きの街らしく、こういうのは問題を出して確かめないとな」

「え? 問題?」

 わたしが鷹くんの顔に驚いている間に、鷹くんは問題なんて言い出した。


「あそこにショッピングモールがあるだろ? あれが建つときに日光が入らなくなる、とか言って一部の近所の人達が猛反対したんだ。で、あるおじいさんは『ただでかいだけの店なんてもう見たくすらないわ』って言ってたんだけどさ」

 なるほど、確かにあんな大きな4階建ての建物が家の近くにあったら、時間帯によっては日差しが全く入らなくなりそうだ。

「ところがなんと、そのおじいさんはショッピングモールが完成すると、毎日その中の喫茶店に通ってコーヒーを飲んでるんだ。……なんでだと思う?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る