パズル・ウォーズ 〜謎解きの街で始めるご当主生活?〜
しぎ
Q1.謎解きの街の新生活
謎解きの街
「おーい! すずめさーん!」
わたしが改札を出た瞬間、男の子の声がした。
今まで聞いたことない声。でも、わたしは思わず声の主を目で追ってしまう。
「すずめさーん! 俺だよ俺!」
会うのは初めてのはずなのに、まるで友達みたいな感覚でわたしを呼んだ子は、通路の反対側の壁際で大きく手を振っていた。きっとあの子が、わたしが待ち合わせしていた子だろう。
わたしはスーツケースを引きずりながら、人の合間をすり抜けて彼の元へ。
「えっと……じゃあ、あなたが、おばさんが言ってた」
「
クラスでの背の順は真ん中が定位置だったわたしが、少しだけ見上げるぐらいの身長。
彼はなれなれしく、わたしに向けてにこりとほほえむ。
「……
わたしが軽く頭を下げると、目の前の彼がCMでやってた足が速くなる靴を履いてるのがわかった。少し汚れて茶色い砂がついているあたりは、前の学校の同級生男子と変わらない。
「同い年だよね? すずめって呼んで良い?」
彼……鷹くんはそう言いながら、早くも春の日差しが照らす外に向かって歩き始めている。
「別に、良いけど……」
「あ、もしかして緊張してる? 大丈夫だよ、俺たちいとこ同士なんだし」
……そうだ。
わたしは何も見ず知らずの他人のところに行くのではない。
実際に会ったことは今まで無かったにしろ、わたしがこれからお世話になるのは自分の親戚の家なのだから。
***
わたし、
……この赤崎って名字も、なんだか慣れない。
つい数週間前までは全然違う、学年に同じ名字の子が他に2人いるぐらいにはありふれた名字だった。
それが良かった、というわけでは無かった。けどまあ、変に読めなくて難しい、小説やドラマの中の人みたいな珍しいやつよりは、ありふれたままの方が目立たなくて今のわたしには似合ってるかもしれない。もともと学校の成績が良いとか、スポーツが得意とかでも無かったし、クラス委員をやるようなことも無かったし。
でもわたしは名字を変えないといけなかった。
なぜなら、わたしの両親が交通事故で亡くなったから。
そしてわたしは、母さんの実家である赤崎家に引き取られることとなったから。
「――すずめさん?」
両親の葬式の日、涙が止まらないわたしにそっと声をかけてきた女の人がいた。
それが、わたしと赤崎家の人との最初の出会い。
「初めまして。わたしはあなたのお母さんの妹で、
「母さんの……?」
母さんの実家のことは、それまで一度も聞いたことが無かった。でも朱那さん……わたしのおばさんということになる……によると、母さんは他の家族とケンカして家を飛び出してきたから、実家のことを話したくなかったのだろう、ということらしい。
そして父さんの親戚にはわたしを預けられるような大人はいないらしく、必然的に朱那おばさんがわたしを引き取ることになった、と説明された。
「すずめさんには、
有無を言わさぬ口調と、わたしを見つめる朱那おばさんの厳しい視線が印象に残っている。
とはいえ、あそこでわたしが嫌だとだだをこねたところで、大人たちが決めたものは変わらなかっただろう。
クラスの友達と別れるのは寂しかったけど、仕方ない。
4年生の最後の日にはクラスでお別れ会をやってもらい、担任の先生と友達から寄せ書きをもらって。
春休みに入った最初の日に、引っ越しセンターの人が来て大きな荷物を全部持っていって。
そして4月に入った今日、わたしは残った荷物をスーツケースに詰めて、わたしが住む東京郊外の新たな街……
「どう、海老川! いい街だろ!」
駅の入っている建物の外に出ると、鷹くんはそう言ってわたしの前に広がる景色を指さした。
わたしが立っているところは、駅から左手にある巨大ショッピングモールまで続く高架の遊歩道になっている。目線を下に向けると、色とりどりのバスが忙しく動き回っていて、奥の方にはビルの合間に緑の山々が見える。
「いい街と言われても……普通の駅前……」
――そこでわたしは、右手にある建物が目に入った。
きっとそっちも何か大きな店なのだろう。『春の大売り出し』と書かれた長い幕が垂れ下がってるのだが、その隣に……
「……あの、『謎解きの街・海老川』って何?」
わたしがそう聞くと、鷹くんは待ってました!と言わんばかりの顔になる。
「海老川の人は、みんな謎解きが大好きなんだよ。パズルとか、ミステリとか、そういうの」
「そうなの?」
「すずめは?」
「えっ、わたし?」
聞き返されてびっくりするわたしに、鷹くんはぐいっと顔を近づける。
……朱那おばさんからは、『本当はわたしが駅まで迎えに行きたかったのだけど、仕事があるの。代わりに、わたしの息子がすずめさんを迎えに行くわ。すずめさんとは同い年だから、男の子だけど仲良くしてね」と聞いている。
だからさっき鷹くんが自分で言っていた通り、わたしと鷹くんはいとこ同士だ。
でも、わたしと血がつながってるとは思えないぐらい、鷹くんは顔が良い気がする。
少なくとも、前の学校の同級生男子よりは確実に。
「……まあいいや。謎解きの街らしく、こういうのは問題を出して確かめないとな」
「え? 問題?」
わたしの心臓が鷹くんの顔に驚いて忙しく動いてる間に、鷹くんは問題なんて言い出した。
「あそこにショッピングモールがあるだろ? あれができるときに日が当たらなくなる、とか言って近所の人達が猛反対したことがあったんだ。その中の一人のおじいさんは『ふん……ただでかいだけの店なんてもう見たくすらないわ』って言ってたんだけどさ」
……確かにあんな大きな4階建ての建物が家の隣にあったら、時間帯によっては陽の光が全く入らなくなりそうだ。
「ところがなんと、そのおじいさんはショッピングモールが完成すると、毎日その中にある喫茶店に通ってコーヒーを飲んでるんだ。……なんでだと思う?」
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