第34話
「こんにちは、月見先輩。待ち伏せですか?」
「いや、全然そんなつもりは。偶然だね」
天底くん。
私が知っている唯一の後輩であり、友人である。
「ああ、そういえば先輩のクラスでしたよね。事故が起きたの」
「そう。私のクラスなんだけど…、亡くなった人の影響力が強すぎて、授業とか全然授業になってない」
「へえ、そんなに凄い人物だったんですね。月見先輩とはご知り合いで?」
「まあ、そんなところ。ただのクラスメイトだけど」
「なんだ、『ただの』ですか。ところで、何か引っかかるところがあるんじゃないんです?」
「え?」
「だって、じゃないと先輩、答えてくれませんよ。答えてくれる時は」
何か引っかかっている時だけです、と天底くん。
「ほらやっぱり。知ってます?人間って図星を突かれると目が少し細くなるんですよ」
「……まあ、ないわけじゃないよ」
「へえ、聞かせてもらっても?」
「一番最初に引っかかったところは、『未明』ってところ」
「はあ、0時〜3時くらいの時間帯ですね」
「まず、その時間に学生が歩いているのがおかしいところ。」
「不良生徒ではなかったということですね?」
「少なくとも不良じゃないかな。夜のコトに手を染めていた感じでもないし」
この辺りの地域は巡回してる警察官が多いはずだ。
その警察官たちに見つかって、補導されていないところが引っかかる。
一応、朝の4時までは補導の対象だったはずだ。
「そして、もうひとつは、『トラック』。」
富士田くんの家の周りでは、トラック制限地域だったはず。
早朝や深夜の走行は禁止されていたはずだ。
だから、その制限地域の先まで出ていった?
「確かに、そう聞くと不思議ですねえ」
「私が引っかかったのはこれくらいかな。」
「いえいえ、まだあるじゃないですか」
「え?」
「なぜ死因が隠されているのか、でしょうに」
***
「富士田ん…」
「…」
昼休み、達也くんと二人で飲食中。
やはり、どうしてもご飯が喉を通らない。
「ねえ、前にもあったよね、事故」
「あった。あれも車かなんかに轢かれたんだよ」
「……」
重苦しい雰囲気が流れる中、
屋上の扉が力強く開けられた。
それはもう、扉が外れてふっとぶくらいに。
「ごめん、食事中に!」
「え?あ…と、扉…?」
「……は……???」
入ってきたのは月見さんで、なんだか焦っている。
そして、屋上の高いフェンスをがしがしと登る。
「ちょ…っ!!月見さん!!」
「大丈夫!ちょっと落ちるだけ!」
フェンスの一番上まで登ったかと思うと、
深く深呼吸をしてこちらを見た。
「お願い、うまくやって。私は絶対、死なないから」
そう、静かに、微かに呟き、
ぴょん、と空高く飛んだあと。
薄紫の髪の毛が、フェンスの先を通り越した。
そして。
どこかでぐしゃりと、嫌な音がした。
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