とけちゃうよメルトペンギン

瀬戸 森羅

メルトペンギンのいる町 編

第1話 はじめましてペンギンさん

「今日は特に寒いね」

  ママが持たせてくれた暖かい魔法石を握りしめながらミラちゃんに話しかけた。

「ほんとね…私もう…凍っちゃいそう」

  ミラちゃんは防寒着で目元しか出てないくらいモコモコなのにプルプルと震えている。

「こんなに寒いの今までではじめてかも…」

「ほんとね…私もう…凍っちゃいそう」

  ミラちゃんは同じことを言ってた。

「ねぇミラちゃん、学校まで走らない?そうしたらきっと身体がポカポカして暖かくなると思うよ!」

「…この格好で…?」

  …ミラちゃんは防寒着のせいでまるで雪だるまさんのようにまん丸になってました…。

「…私のことはいいからさ…メグは先にいきなよ」

  ミラちゃんはぽつりと言った。

「それはいや!だって私、ミラちゃんと一緒に登校したいんだよ?」

「私は…歩くのもいやかも」

「じゃあ私と一緒に学校行くのもいやなんだね!」

  私は悲しくなって走り出してしまった。

「む…それは違う」

  ミラちゃんが何か言ったのも聞かずに。



「えー…ミラ・ジューリスは欠席か?」

  ミラちゃんは学校に来なかった。

  私はもう怒ってなかったから、ミラちゃんが心配で仕方なかった。

「ミラちゃん…どこかで凍ってるんじゃ…」

  私は教室を飛び出した。

「マーガレット!どこへ行く!」

「私ミラちゃんと途中まで一緒だったの!探しに行ってくる!」

「そういうことなら行ってこ~い」

  ものわかりのいいセンセイで良かった!



  さっきミラちゃんと別れた場所に行ってみると、そこには雪だるまのようなものがあった。

「…ね、ミラちゃんでしょ?」

「……ぐすん」

「…さっきはごめんね、勝手に走り出しちゃって」

「…私が行けって言ったんだから…行くよね」

「そんなことないよ!私が早とちりしたのがいけなかった!」

「……ごめん」

  ミラちゃんは防寒着の雪を取り払うと、ゆっくりと歩き出した。

  その身体はさっきのプルプルを通り越してブルブルと震えていた。

「ミラちゃん!これ使って!」

  私はママに借りた魔法石をミラちゃんに渡した

「ん…ありがと…」

  ミラちゃんは嬉しそうに目を逸らした。


「先生!ミラちゃん連れてきました!」

「よし、じゃあこれで全員揃ったな。それじゃあ授業を始めるぞ」

「だるぅい…」

  ミラちゃんはせっかく来たのに眠そうにしている。

「それにしても今日は寒いな…こんな日は、もしかしたらアレが出るかもしれないな」

「先生!アレってなんですか?!」

「ききたいか?そうだなぁ…」

  もったいぶった挙句先生は話し始めた。

「今日なんかは雪の降る日の中でも特に寒いだろう?これはな、大気中の魔素…つまりはエネルギーのようなものが高まっていることからとある生物が発生する前兆なんだ。その生物っていうのが…」

「メルトペンギンですね!」

  委員長のノッドが答えた。

「あぁ…知ってたの…」

「メルトペンギン!それは極寒の神秘!その身体はアイスクリームでできている!って聞いたことあります!」

「アイスクリーム!」

  教室中がざわめいた。

  もちろん私も例外なく。

「そう、アイスクリームでできていて…色んな味のメルトペンギンがいるんだ。それも絶品の味なんだぞ!」

「ですが…メルトペンギンは生き物…なんですよね?」

「魔法生物っていうくらいだしねぇ」

「うぅむ…どうやらそこのところはあまり良くわかっていないらしいんだ。あれを天候と同じような"現象"として考えるのが一般的らしいぞ」

「雨や雪と一緒ってこと?」

「そうだな」

「じゃあいくらでも食べてもいいってこと?!」

「そうだが…食べ過ぎは良くないぞ。お腹を壊すからな」

「わー!」

  教室中が歓喜の声を上げた。

  もちろん私も例外なく。

「とはいえ!授業はやらねばならん。さあ、教科書を出せ~」

  教室がブーイングに満ちるも先生は何事もないかのように授業を始めた。



  それは3時間目の授業が終わるころ。

  教室の端っこの方の席にいたケイシーが声を上げた。

「あーっ!あれあれ!あれあれあれ!」

  急に大声をあげたケイシーの方へ皆の目線が集中する。

「一体どうした?!」

「雪の中にアイスクリームが!」

「ま…まさかっ!」

  みんなで窓際に詰め寄ると……。

「メルトペンギンだー!」

  もうみんな大騒ぎ。

  外に行きたくて仕方ない。

「わかったわかった。あと10分だから!落ち着け!な!」

  先生は困り果てた様子。

  みんなでそわそわしながら授業を受けた。

  当たり前だけど内容なんて頭に入ってこなかった。

  10分が経ち…。

「はい、授業終わり…」

  先生がそう言い終わらないうちに、せっかちな生徒はもう校庭に走り出した。

「まったく…ほら、みんなも行ってこ~い」

  そうして私たちも校庭に飛び出した。



「ミラちゃ~ん!こっちこっち~!」

「…さむい」

  私はミラちゃんと一緒に水色のメルトペンギンの群れがいるあたりにきた。

「あ!見て見て!こっちにくるよ!」

  メルトペンギンは私のところにやってきて、楽しそうに踊った。

「…ほんと…かわいい…」

  ミラちゃんもメルトペンギンの方に近づいた

 のだけど…。

「え…なんで…」

  メルトペンギンはミラちゃんが来ると踊るのをやめて驚いたように逃げ始めた。

「…私…やっぱりお外に出たくない…」

「ミラちゃん…」

  ミラちゃんはまた雪だるまモードになってしまった…。

「メグ…私がいたらペンギン…逃げちゃうから…もうほんとに…いいよ?」

「だーめなのー!ほら!行くよ!」

  私はミラちゃんの手を引っ張って逃げていった群れを追った。

「待ってー!なんでなのー!」

  全速力で走るとメルトペンギンにはあっさりと追いついた。

  でも、さっきと違ってあんまり近づこうとしない。

  怖がらせちゃったかな?

「待って…メグ…」

  動きづらそうなミラちゃんが後ろからやってきた。

「ふぅ…ふぅ…はやいよ…」

  ミラちゃんは汗だくになってる。

  私はミラちゃんを待ってる間にすっかり走っ

 た疲れはとれちゃったんだけど。

「さ!もう1回チャレンジ!大丈夫!私のことも怖がってるみたいだから!」

「ほんと…?」

「うん!だってさっき追いかけたからびっくりしてるよ!」

「メグ…嘘つき…」

「え?」

  後ろを振り返るとメルトペンギンの群れが私の後ろを囲い始めていた。

「どわーっ!なんでなんでー?!」

「じゃあこっち…おいで…」

  ミラちゃんも近づいたんだけど…またメルトペンギンは怯えるように逃げ出した。

「むむ………ぐすん」

「あーーっ!だめだめ!泣かないの!」

「……泣いてないし…」

「ん?そういえば…」

  私が走った後にメルトペンギンは逃げて…息切れがなおったらまた戻ってきた…ミラちゃんは汗だくで……まさか!

「わかった!わかったよミラちゃん!」

「…なにが?」

「さっき貸した魔法石!私に渡しなさい!」

「む…さむくなった?」

「そうじゃなくて…とにかく!」

「…はい」

  私は魔法石を受け取った。

「よーし!じゃあ行ってらっしゃーい!」

「…ん?…なに?」

「もう1回チャレンジ!」

「…もういいよ…だってこないし…」

「まあまあ!じゃあこれみて!はい!」

「む…どうせまた寄ってくるんでしょ…」

  私がメルトペンギンの群れに近づくと…メルトペンギンはさっきミラちゃんにしたように怯えて逃げていった。

「あれ?なんで…」

「今度はミラちゃんの番!はい!」

「なんなのよ…」

  ミラちゃんがメルトペンギンにのそのそと近づく。

  するとメルトペンギンはミラちゃんを囲い始めた!

「わ…わわ…!」

  ミラちゃんがみるみるうちに笑顔になっていく

「やったー!」

「これ…どういうこと?」

「多分だけど、メルトペンギンは熱いのが嫌いなんだよ!」

「あ、もしかして…」

「そう!私が朝貸した魔法石が熱かったからだよ!」

「そうだったんだ…よかった…」

  ミラちゃんは安心したように笑っている。

「じゃあちょっとこれは置いておこう」

  私は魔法石を近くにあったバケツの中に入れた。

「ねぇねぇ…じゃあそろそろ…」

「…む?」

「…食べちゃおっか?」

  私はミラちゃんの耳元でこっそりと囁いた。

「…かわいそうかも」

「そう言われると…そうだけどね」

  目の前でくるくると踊るメルトペンギンを今から食べてしまう。

  それを想像すると少し怖い気がした。

「でも先生はすごく美味しいって言ってたし…」

「いいこと教えてやろう」

  近くに先生が立っていた。

「先生!」

「メルトペンギンはな、食べられる時は逆に嬉しそうだぞ。食べられるために魔素がそんな姿になったからとか或いは食べられるっていうことを理解できないのだとかって言われてる。実際はまだわかんないんだけどな」

「じゃあ…食べても問題ない…と…?」

「そういうことだな」

「ミラちゃん!食べよう!」

「でも…熱いのはあんなに嫌がってたのに…」

「あれは本能的なものらしいぞ。実際太陽光にじっくりと溶かされる時でも踊り続けてるらしいし」

「むむ…そうなのか…」

「じゃあ私、食べる!」

  我慢できなくなって私はもうミラちゃんを待たずにメルトペンギンを手に乗せた。

「はじめまして、ペンギンさん!」

  メルトペンギンは手の上でも踊り始めた。

  冷たい身体が体温で徐々に柔らかくなっていく。

「体温でとけちゃうから早めに食べるんだぞ」

「はーい」

  私はそのメルトペンギンを口に含んだ。

「もにゅもにゅ…これは…!」

  透き通るようなミントの爽やかな味と甘味が口の中いっぱいに広がった!

「……どう?」

「おいしい!おいしいよミラちゃん!」

「わわ…すごく美味しそう…じゃあ…私も…」

  ミラちゃんは近くにいたメルトペンギンを1匹手の上に乗せた。

「ぺろぺろ…」

  ミラちゃんがなめるとメルトペンギンはくすぐったそうに身を震わせた。

  私は一口で食べちゃったけど確かにメルトペンギンは逃げる素振りを見せない。

「…おいしい!」

  ミラちゃんは嬉しそうだ。

「一応言っておくけど食べすぎるなよ!」

「わかってますよー!」

「もにゅもにゅ…」

  その後休み時間が終わる直前まで2人でメルトペンギンを味わった。

  そして……。


「はい、4時間目終了。さぁお昼だぞー」

「どどど…どーしよう…」

  ミラちゃんが慌てている。

「どしたのミラちゃん」

「アイスクリーム…食べすぎて…お昼…食べられないかも……」

「あーそういうこと…実は私もなの!」

「メグも…?」

「うん!だから大丈夫!」

  なにが大丈夫なんだろう。

「…なにが大丈夫なの…?」

  やっぱりきかれてしまった…。

「その…ね、一緒だよ~…みたいな…ね?」

「そうか…!なら大丈夫…!」

  …いい子。

「とはいえ、対策を練らないと。少しでも食べられるように…もしくは食べなくて済むような…」

「今日の献立…はい…」

  ミラちゃんは私に献立を持ってきてくれた。

「えぇと…げーっ!」

  献立に載っていたのは、私の好きなカレーライス!

  本当だったらたっくさん食べたかった…でも今私のお腹は……。

「なんかあった…?」

「私の大好物…カレーライス…」

「………どんまい」

「えぇい!他は!?」

「これ…デザート…」

「デザート?!アイスクリームをあんなに食べたのに!」

「あんまり出ないのにね…」

「当てつけみたいな献立ね…」

「どう…?いけそう…?」

「カレーライスはお腹がいっぱいでも食べられる…デザートも別腹…ふふふ…余裕ね!」

  私はバッチリポーズを決めてミラちゃんに見せつけた。

  そして20分後。

  給食を前に項垂れる私がいた。

「どういうこと…メグ…?」

「どうもこうもないよ!油断した…!メインに気を取られすぎて忘れていたよ…こいつの存在を…」

  そこには山盛りにされた唐揚げがあった。

「いやね…これ単体ならいいんだけど…カレーライスもあって…しかも時間が経って油が重たくなって…きついです…」

「メグ…かっこわるい…」

「もー!しょうがないじゃんー!」

「でも…私も…がんばるから…メグもがんばろう」

「ミラちゃん…!私食べるよ!絶対に!」

  ミラちゃんに勇気をもらった私は見事全て食べきることが出来た。

  ちなみにミラちゃんは残したという。



「はぁ~っ今日は楽しかったねぇ~!」

  学校の帰り道、ミラちゃんと話した。

「ほんと…メルトペンギン…かわいかった…」

「まだどっかにいるんじゃない?」

「むむ…あれは…」

「え!ほんとにいた?!」

  夕陽が照らす先にチラチラと影が映っている。

「行ってみよう!」

  その影を追ってみると茶色いメルトペンギンが踊っていた。

「チョコ味…?」

「そうみたいね」

  でもなんだかドロドロになっていた。

「もしかして…」

「…うん…とけちゃってる…」

  メルトペンギンは夕陽を浴びてどんどん身体がとけていっている。

  それでもメルトペンギンは嬉しそうに踊り続ける。

「ペンギンさん…さようなら」

「またきてね」

  頭のおっきいクリームの部分だけになってもゆらゆらと頭を揺らして踊っているみたいだった

 でもそれもすぐに終わった。

  メルトペンギンはとけちゃった。

「……くすん」

「………」

  私たちは何も言わずにその場を離れた。

「ね、メグ…そういえば…」

「どうしたの?」

「今のペンギンさん…メグから逃げなかった…」

「あ!魔法石!」

  バケツの中に入れたままだった!

「私取ってくる!」

「…待って…私も…いく…」

「いいの?歩くの嫌なんじゃない?」

「…朝、言いそびれた…。…私、メグとなら……歩くのも…学校行くのも…楽しいんだよ…」

「ミラちゃんー!!」

  私はひしとミラちゃんを抱きしめた。

「あ…ふふ…」

  ミラちゃんは最初戸惑ったみたいだったけど嬉しそうだった。

「じゃ行こっか!」

「うん…!」

  夕陽に背を向けて来た道を戻る。

  朝よりも足取りがとっても軽かった。

  だってミラちゃんと、もっと仲良しになれたから。

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