第二話 消えてしまった存在
シューイン、どさっ。
「あた、あたた。うん? こ、ここは?」
私はバイト帰りに自動販売機で温かい飲み物を買おうとしたら、突然謎の光に包まれたはず。
なのに、気がついたら私は全く見覚えのない場所に転がっていた。
真っ白な何もない世界。
私は床のような所に転がっているけど、周囲を見回しても本当に何もない。
距離感も全く分からない状況に私は困惑してしまい、ぺたりと座ったまま全く動けないでいた。
きらー!
「えっ、なになに?」
そんな私の目の前が、黄色い光で溢れ出した。
私は目の前の光の奔流に、咄嗟に腕で顔を覆った。
そして、暫くして腕を下ろすと、目の前に二人の人物がいた。
一人は何故か宙に浮いていて、もう一人は綺麗な土下座をしていた。
「シンドウ、マイさん、ですね」
「あっ、はい……」
宙に浮いている人が、私に話しかけてきた。
金髪のウェーブのかかったロングヘアに青い目、スタイル抜群の体に白いローブの様な服を身にまとっていていた。
私は女性の声に、呆けた声で返していた。
「私達は、マイさんに謝罪しなければなりません。本当に申し訳ありません」
「えっ、あっ、はい……」
突然宙に浮いている女性が私に頭を下げてきたので、私はより一層困惑してしまった。
目の前にいる人達が、一体私に何をしたのだろうか?
「まずは、お互いに落ち着いて話をしましょう」
スッ、シュイン。
「わっ、テーブルと椅子にお茶?」
「はい、そうですわ。マイさんも座っている下さい」
私と宙に浮いている女性の間に、突然テーブルセットと日本茶が出てきた。
私は、女性に言われるがままに椅子に座った。
宙に浮いていた女性も椅子に座ったけど、土下座している人は何故か土下座のままだった。
「はあ、少し落ち着きました」
「それは良かったですわ」
私はお茶を一口飲むと、とても心が落ち着いた。
やはり、お茶は良いものだなあ。
私が落ち着くまで目の前に座っている女性は待ってくれて、そして何故こんな事になっているかを話してくれた。
「えっと、私は土下座している人のミスで元の世界の存在を消されて、バックアップしていた情報を元に今の姿でいると」
「はい、まさにその通りになります」
そして暫くの間、目の前の女性が話してくれた事をお茶に口をつけながら何とか理解しようとしていた。
いや、理解できているのか私にも分からない。
それほど、目の前の女性が話した事は信じられない事だった。
「そちらの土下座をしている人のミスで、私の存在がごっそり消されてしまったと」
「はい、その通りになります。それこそ、元の世界ではマイさんは存在しない事になっています」
まず目の前の女性が話をしてくれたのが、何故私が不思議な光に囲まれて消えたかだった。
要は、あの光は私をデリートする為に現れたそうだ。
「私達は、皆さんの様な方々が生活している世界の管理をしています。基本は殆どやる事がないのですが、たまに微調整を行う事があります」
「そして、そちらの土下座をしている人が作業を失敗して私の存在を消してしまったという訳ですか」
ぴくっ。
「はい、その通りになります。作業の根本である手順を間違えて、あろうことか周囲へのプロテクトをかけ忘れてしまいました。その結果、本来デリートするべき存在と共にマイさんまでデリートしてしまったのです」
ぴくぴくっ。
目の前に座っている女性が何故私が消されたかを説明している度に、未だに土下座をしている人がぴくぴくと反応していた。
目の前の女性は何やら難しい言葉を言っているけど、要はいい加減な作業をした結果として作業対象と共に私まで消されてしまったみたいだ。
「つまり、私は完全に巻き添えにあったという事ですよね?」
「ええ、その通りです。本当にお詫びのしようもありません。作業ミスに気が付いて急いでマイさんの情報をバックアップしたのですが、全てを行なう事はできませんでした」
ぴくぴくぴくっ。
現状を理解したいけど、中々理解はできなかった。
分かっているのは、私が元いた世界から情報がバッサリと消えてしまった事だ。
家族も学友も誰もかもが、私の事を忘れてしまったのだ。
そして、死んだ事にもなっていない、最初から存在していないのだから。
「はあ、この先どうすれば良いのだろうか……」
「マイさん……」
私は何をどうすればいいか分からず、溜息をつきながら完全に途方にくれてしまった。
そんな私に向かって、女性が真面目な表情をして話し始めた。
「結論から申します。先ず、マイさんは元の世界に戻る事はできません。また、このままこの空間に長く留まる事もできません。バックアップを取ったマイさんの情報を元にマイさんの体を再合成した結果、ある世界と適合する事が判明しました。マイさんはその世界に行って頂きます」
女性は説明する感じで話しながら、私に関する決定事項を話した。
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