第53話 妖精さんのお引越し
「アサツキさん、妖精さんをお引越しさせるというのは、どういう……」
「そのまんまの意味さ。そこの水晶にいる妖精をウラハイル聖国の教会にある神託の大聖鏡の中に引っ越しさせるんだ。そしたら問題は全て解決さ」
「まあ、ビャクヤの問題は解決するかもしれませんけど……」
冒険者ギルドに出ていた依頼は、鏡や水晶、水面に現れて占いを邪魔する妖精の対処。
それがこの鏡面の妖精、ウォーリーちゃんなわけで、この子がビャクヤからウラハイル聖国に行けばもう邪魔をされることも無くなるだろう。
「でもそれじゃあ、ウラハイル聖国の人たちが困るんじゃ」
「あの国は少しくらい困った方が良いんだ。女神を盲信して、人の話を全然聞いちゃくれない」
アサツキさんは元々、ウラハイル聖国で勇者候補の魔法使いとして活躍していたんだけど、価値観の違い的なやつで国を追い出され、今は放浪の魔女をしている。
そんな感じで、ウラハイル聖国の人たちには何か思うところがあるのだろう。……解散した元バンドメンバーみたいね。知らないけど。
「というわけで、この妖精に神託の邪魔をしてもらおう」
「ええ……わたし、どうなっても知りませんよ」
「大丈夫大丈夫。責任はボクが取るから」
絶対取らないでしょ。
「おひっこしー? めんどくせー」
「でも、どうするんです? これからウラハイル聖国まで行くんですか?」
ウラハイル聖国はサンベルク王国の南東にある国だ。
わたしがこれから行こうと思ってる、妖精さんの教会があるレイキュリー中立国とは正反対の位置にあるので、これから向かうのはちょっとなあ……
「めんどくせーけど、ちょっと行ってくるかー」
「えっ? ウォーリーちゃん?」
そう言うと、ウォーリーちゃんは水晶の奥に引っ込んでしまった。
えっなに? どこ行ったの?
「アサツキさん、妖精さんがいなくなっちゃいました」
「あれじゃない? 鏡の中を通って他の鏡に行けるみたいな」
「な、なるほど……」
それからしばらくウォーリーちゃんが戻って来るか待ってみたけど、帰ってくる気配はなかった。
__ __
ウォーリーちゃんが消えてから丸1日が経ち、依頼人の占い師さんからもクエスト達成の承認を貰った。
ギルドに張り出されていた他の『占いを邪魔する妖精』系のフェアリークエストも、妖精が現れなくなったということで依頼が取り下げられたらしい。
「やっぱり、ウォーリーちゃんが色々邪魔をしてたのね」
鏡面の妖精のウォーリーちゃん。どうやら本当に鏡や水晶の中を移動して他の所へ行けるらしい。
今ごろはウラハイル聖国の教会に来た人たちにちょっかいかけてるのかしらね。
「それにしても、綺麗な泉ね」
ビャクヤの街外れにある小さな泉。
この泉には魔力が含まれていて、子供たちが占い遊びなんかをする遊び場になってるらしい。
ここもフェアリークエストのひとつとして、街の管理者から依頼が出されていた場所だった。
「泉よ泉よ泉さん。この世で1番可愛い女の子はだーれ? なーんちゃって」
「おれおれおれおれー!! Ahh~↑↑↑真夏のJamboree~レゲエ砂浜」
「きゃああああああああ!?」
なんとなく泉を覗き込んでたら、水面に見たことのあるまっ黒の妖精が現れる。
「ウォーリーちゃん!? えっなんで!?」
「ちょっと里帰り―」
里帰りって。
「ウラハイル聖国の教会には行ったの?」
「行ったよー。軟弱なやつらがいっぱいで邪魔しがいがあるねー」
「そうなんだ」
それはそれで、うーん、どうなんだろ……ウラハイル聖国の人たち、ごめんなさいね。
「ちょっとベルベルに用事あってなー」
「わたしに用事? なあに?」
「ちょっと手を泉に入れてくれー」
「ん? うん……」
わたしはウォーリーちゃんに言われた通り、泉の中に手を入れる。あ、冷たくて気持ちいいかも。
「よーし、もういいぞー」
「はーい」
ざばっと泉から手を出す。
うーん、特に変わったとこはないかな……?
「ウォーリーちゃん、何かやったの?」
「ベルベルになー、魔法を教えたんだ―」
「へー、わたしに、魔法を……」
…………
「えっ!?」
「反応遅いなー」
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