第37話 トラブルの予感
「わあ、デュラちゃん速い速い! もうちょっとゆっくり!」
「……御意」
ヘイリオスから魔女の街『ビャクヤ』へ向かって街道を爆走するデュラちゃん。
いやちょっと、想像してたよりもスピードが出るのね。
バイクどころかスクーターも乗ったことないわたしには刺激が強すぎるわ。
「デュラちゃんは普通の馬よりもかなり速く走れるみたいだね。いや……よく見ると走ってないね」
「走ってない? 何言ってるんですかアサツキさん」
「乗ってるベルベルちゃんには見えないかもしれないけど、デュラちゃん地面からちょっと浮いてるよ」
「ええっ!?」
どうやらデュラちゃんは自分の脚で地面を蹴っているわけではなくて、ペガサスのように宙を駆けているらしい。
見た目は魔物っぽいけど、そういうところはとっても妖精って感じなのね。
「デュラちゃんよ、君はどうやって飛んでいるんだい? 翼もないのに不思議だね」
「そうですねえ……まあわたしはアサツキさんのその鞄の方が不思議ですけど」
デュラちゃんに乗りながら横を見ると、空飛ぶ鞄に横座りして並走するアサツキさんが視界に入る。
この世界の魔女はホウキじゃなくてカバンに乗るのが常識なのかしら。
「アサツキさんのその……カバンちゃん? はどれくらい速く走れるんですか?」
「カバンちゃんて。名前なんて考えたこともなかったけど、まあそうだね。カバンちゃんは魔石ニトロを使って魔石ブーストを発動することで一時的にかなりのスピードを出すことが出来るよ」
「ま、魔石ニトロ? ブースト?」
「魔石ニトロっていうのは、ボクが開発した赤の魔石と緑の魔石を組み合わせた超加速燃料で……おっと、詳しい生成方法は企業秘密だよ。これを使うことで超加速ブーストが発動してね」
「あ、大丈夫ですもう色々と大丈夫です」
マリカのキノコ……いやキラーみたいなものかしら。
身体が弱くてほとんどインドア生活だったから、一時期ゲームばっかりやってたのよね……懐かしい。
「まあ、燃料が長くは保たないから何かあったときの最終手段だね」
「な、なにかあるんですか……?」
「長く旅をしているとね、まあトラブルの一つや二つ経験するものさ」
「巻き込まれたくないんですけど……デュラちゃんは全速力出したらどれくらいスピード出る?」
「……御意」
「えっあ、今全速力でってことじゃなくて、ちょっと待っ」
ビュウウウンッ!! と急発進を決めるデュラちゃん。そしていきなりの超絶向かい風でオールバックになるわたし。
「あばばばばばば!! 無理無理無理!! 止まってええええええ!!!!」
「すごいね、あっという間にあんな所まで……もしかしたらカバンちゃんの魔石ブーストより速いかも」
「アサツキさんたすけてえええええええ!!」
さっそくトラブル発生です!
__ __
サンベルク王国、王都ヘイリオス城。
城内にある勇者育成施設では、魔物を殲滅するために異世界から集められた、強力なスキルを持つ勇者候補生が日々研鑽を積んでいた。
「勇者候補のスカウト、ですか?」
「ええ、マモル君にはそちらの作戦に参加して頂きたくて。マモル君は『白馬の戦乙女』についてご存知ですか?」
「そうですね、一応噂くらいは」
「実は、彼女が王都を出て西の街道に向かったと目撃情報がありましてね。最近入ったばかりのフレッシュな勇者候補生である君に勧誘活動を任せたいのです」
「教官、なんで俺は不参加なんですか? 俺だってマモルと同じフレッシュな勇者候補生っすよ」
「教官として、ヒカル君に勧誘は向いてないと判断しました」
「なんでですか!!」
「まあ、僕もそう思います……それで教官、その『白馬の戦乙女』というのは、見た目の情報などはあるのでしょうか?」
「ええ、情報提供者から王都を出る際に撮影した転写画像を貰いました。こちらです」
「そ、それって盗撮なんじゃ……ってこの子、どっかで見たことが……あ」
「異世界だし、盗撮なんて気にしねえだろ。マモル、俺にも見せてくれよ」
「ああ、この子なんだけどさ、これって……」
「どれどれ? ……っ!! こいつ、あの無能スキル女じゃねえかっ!!」
「おや、二人とも知り合いでしたか」
「教官! 俺にも勧誘活動に参加させてください!!」
「いや、君は……」
「絶対この女を捕まえてきます!! 実力行使もやむを得ない!!」
「ダメだよヒカル君。勧誘って言ったでしょ」
「あの女、なんだよ白馬の戦乙女って……絶対に見つけて問い詰めてやる!!」
…………。
「くしゅんっ」
「ベルベルちゃん、風邪かい?」
「いえ、なんだか急にくしゃみが……」
な、なんだか更にトラブルの予感……?
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