第14話 旅の魔女



「はっはっは、そうか毒リンゴか。食べてみるかい?」



「たっ食べませんよ! って、本当に持ってるんですか?」



「魔物に襲われたとき用にね」



 私が借りた隣の部屋から出てきた長身のお姉さんが会話に入って来る。

なんだかいかにもデキる大人の女性~って感じでちょっと憧れちゃう。



「酔っ払い客に襲われた時の間違いじゃないかの?」



「それはマスターがどうにかしてよ」



「え? なんじゃって?」



「こういう時だけ耳が遠くなるんだから……困っちゃうね?」



「えっ? あ、あはは……」



 うう、背が高くてイケメンのお姉さん、ちょっと話すの緊張しちゃう……



「おっと、自己紹介がまだだったね。ボクはアサツキ。職業は魔女で、趣味は一人旅、かな」



「あ、わたしはベルベルって言います。職業は、勇者候補……だったんですけど、昨日クビになっちゃいました」



「なんだって?」



 アサツキさんが驚いたように眉をひそめる。う、そんな顔も美しい……



「ベルベルちゃん、よかったらボクの部屋で少しお話ししないかい? お茶をご馳走するよ」



「え、でも防護結界が……」



「部屋主が招き入れる分には結界は発動せんよ。それじゃあお二人さん、ごゆっくり」



 そう言ってマスターは階段を降りていった。



「さあさ、入って入って。大丈夫、取って食ったりしないから」



「そんな心配はしてませんが……」



 アサツキさん、わたしが勇者候補を降ろされたことを話したとき、ちょっと怖い顔してたかも。なにかあるのかな?



 __ __



「あ、このお茶美味しい」



「乾燥させたリンゴの皮に薬草を混ぜて煮出しているんだ」



「そ、それって毒リンゴの……」



「普通のだよ」



 自分の部屋に荷物を置いてから、アサツキさんの部屋にお邪魔する。

アサツキさんはもう結構長くここに泊まっているみたいで、部屋の中はなんというか、魔女の占い部屋(?)みたいな感じで色々アレンジされていた。



「それで、ベルベルちゃん。さっき勇者候補について話してたけど、君はもしかして、異世界から召喚されてここに来たのかな?」



「あ、はい。そうです。良く知ってますね」



「この国は異世界召喚によって勇者候補を育てることに力を入れているからね。他の国でも勇者を育成している所はあるけれど、異世界召喚ではなく、国民から才能ある者を選んだり、王族の血を引く者を選んだりと様々なのさ」



「へーそうなんですねえ」



 勇者はこの国以外にもいるんだ。それにしても、アサツキさんは旅をしているだけあって国の事情なんかにも詳しいのね。



「まあ、それは置いといて。ベルベルちゃんはさっき、勇者候補をクビになったって言ってたけど、それはどうしてだい?」



「わたしが女神様から授かったスキルが勇者向きではなかったと言いますか、まあ、使えない能力ってことで……」



「それはまた……召喚者が女神から貰えるスキルはどれも強力なものだと聞いているけど。ベルベルちゃんのスキルって、どんなのなんだい? 逆になんだか興味が湧いてきたよ」



「む、アサツキさん、わたしのことバカにしてます?」



「してないしてない。ほらいい子いい子」



「あ、頭撫でないでください!」



 胸キュン乙女ポイントがちょっと貯まったわ。



「わ、わたしのスキルは『フェアリー・テレパス』っていう、妖精さんとお話しできる能力です」



「ほう、妖精と……面白いスキルじゃないか」



「そ、そうですか?」



「まあ確かに、魔物との戦いで役立てるビジョンが浮かばないから、勇者向きではないかもしれないけどね。妖精のいたずらで困ってる人を助けることはできるかもしれない」



「あっそれはわたしも思いました」



 てくてくちゃんとか、昨日の食器の妖精さんの件を解決したことで、わたしのスキルでも何か役に立てることがあるんだって思えたのよね。



「ベルベルちゃん、今はいきなり勇者候補を外されてこれからどうしたらいいか分からないかもしれないけど、君のそのスキルがあればこの世界を自由に生きていけるよ。ボクが保証する」



「あはは、アサツキさんの保証があるとなにか良い事あるんですか~?」



 なんだかホストに上手く乗せられてるみたいな感じがするわ。いやそういうお店とか行ったことないのだけれど。

こうして日々の生活に疲れた女の人はホストに溺れていくのかしら。



「まあ、ボクも元勇者候補だからね。先輩からのメッセージってことさ」



「あ、そうなんですね~アサツキさんも元勇者候補……」



 …………。



「えっ!?」


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