第11話 お店を繁盛させよう!
「妖精さんを追い出さないで、お店を前みたいに繁盛させる方法かあ……」
あ、デザートも美味しい……って、そうじゃなくって。
「……あなたたち、デザートは食べさせようとしてこないのね」
「タベテタベテ」
「ふふ、オムライス激推しなのかしら?」
妖精さんはこのお店のオムライスが好きみたいだ。うん、わたしも大好きになっちゃった。
こんなに美味しいオムライスが食べられるわたしはきっと特別な存在なんだわ。
「このオムライスは今日からコロボックル・オリジナルって名前にしましょう」
「ええ? なんか大仰すぎない?」
デザートを持ってきてくれたホップちゃんに呆れられてしまった。どうやら不評だったみたいね。
「そういえば……ねえホップちゃん、妖精さんが現れ出したのって最近なのよね?」
「うん、そうだよ。『妖精が棲みついてる家には幸福が訪れる』ってお年寄りの人とかは言ってるけどさ、それでウチのお客さんが減っちゃったんだから、どうしたもんかなー」
「なにか、妖精さんが現れる時期くらいにお店で変わったこととかはなかった?」
「うーん、そうだなあ……あ、オムライス!」
「オムライスがどうかしたの?」
「ウチのオムライス、前はもっとシンプルなトマトソースだったんだ。でもお母さんが色々試行錯誤して、今の美味しいソースを完成させたの。それでかなり美味しくなって、注文する人も増えたんだけど……」
妖精さんがわたしの口にオムライスを突っ込もうとしているのを見ながら微妙な表情を浮かべるホップ。
「タベテタベテ」
「ちょ、ちょっと待ってねー……えっと、オムライスが美味しくなって人気が出て、そのときにこの子が?」
「うん。評判になってきたあたりから急に現れ出して、今みたいな感じでいつの間にかオムライスを注文したお客さんの食器になりすまして無理やり食べさせようとするの」
「それじゃあ、オムライス以外の料理は?」
「そういえば、他の料理のお皿になってるの見たことないや」
「オムライス、ウマイウマイ タベテタベテ」
「な、なんて?」
妖精さんがホップちゃんに話しかけてるけど、言葉が理解できなくて困っている。ふふ、なんだか外国の人から道を聞かれた日本人みたいね。
「ベルベルさん、なんて言ってるか分かる?」
「そうねえ、とにかくこのオムライスをみんなに食べて欲しいみたいね。やっぱり、オムライスが美味しくなったから現れたのかしら」
「なるほど、だからお客さんに食べさせて布教しようと……じゃあオムライスのソースを元に戻したらいいのかなあ。でもそうしたら味が落ちちゃうし、妖精さんもいなくなっちゃう」
「ねえ妖精さん。あなた、無理やり食べさせるのはよくないわ。逆効果になっちゃう。お店の中で見てるだけとかはできないのかしら?」
「ミテルミテル。オムライスモッテモッテ」
モッテモッテ……盛って……盛り付けてってことかしら。
「なんて言ってる?」
「『見てるだけでもいいけど、それはそれとしてオムライスは盛り付けて欲しい』ですって」
「まあ、それくらいなら別に良いかも」
「オムライスモッテ、タベテタベテ」
「『でもオムライスが乗ってたら食べさせたくなっちゃう』ですって」
「やっぱダメかも……」
どうしたものかしら……と二人で頭を抱えていたら、キッチンにいたタイムさんがこっちにやって来る。
「ホップ、ちょっと出かけてくるからお店の方はしばらく飲み物とデザートの提供だけでお願い」
「わかったー。なんか材料足りなくなったの?」
「注文してた“オムライスの見本細工”が出来たって連絡貰ったんで取って来るよ」
「ああ、そういえば今飾ってるのって前のやつだもんね」
「そんなに見た目は変わってないんだけど、見本詐欺になるのはよくないからね。それじゃあしばらくお店の方よろしくね」
「いってらっしゃーい」
カランコロン。と心地よいドアベルの音を鳴らしてタイムさんは出ていった。
「ホップちゃん、見本細工って、もしかしてお店の前に飾ってあるやつ?」
「そうだよー。あれはお母さんが作った本物の料理に、見本細工を作る専門の人が魔法をかけて固めてるんだ。魔法を解除しない限り腐らないし、形も崩れないよ」
「それだわ!」
「えっなにが?」
「妖精さん、あなたオムライスの見本細工担当になりましょう!」
「……なにそれ?」
「ウマイウマイ?」
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