第7話 絵画の女の子



「それじゃあメイドさん、短い間だけどお世話になりました」



「ベルベル様、どうかお元気で……」



「うん。あなたも元気でね」



 翌朝、わたしの勇者候補外しが無かったことに……なんてことはなく、普通に出ていくことになった。

多少の路銀と衣服を貰えたので、まあしばらくはなんとかなるでしょう。



「とことことこ」



「あなたがいなくなるから、またこのスリッパを履いてかないといけないのだけれどね」



「ぺらぺらすりっぱ?」



 メイドさんに貰った魔法使いみたいな可愛い服に、このなんともいえないあずき色の病院スリッパは絶望的に合わないわね。



「街に行ったらまずは靴を買おうかな」



 異世界の靴ってどんなのがあるのかしら。安くて可愛いのが売ってると良いんだけど。



 コンコン。



「ベルベル殿、入ってもよろしいか?」



「あ、はい、どうぞ……」



 昨日の大臣さんかな? 出発の準備ができたので、呼びに来たのかしら。



「うむ、失礼する」



「えっ、国王様……!?」



「実はベルベル殿にひとつお願いがあってな……勇者候補から外す指示をした私が言えることではないのだが」



「い、いえ、なんでしょうか?」



「うむ、これから私の妻と会って欲しい」



 __ __



「あなたがベルベルちゃんねえ。女の子の召喚者さんなんて久しぶりだわ」



「こ、こんにちは王妃様、ベルベルといいます」



 そう、わたしはベルベル。勇者候補として召喚されたけど、『フェアリー・テレパス』とかいう妖精さんとお話しできるスキルが弱すぎてお城から追い出され……る前に、何故か王妃様に会うことになりました。



「まあまあ可愛らしいお嬢さんじゃないのお。こんな子を追い出すなんて、一体どういうことかしらアナタ?」



「い、いやそれは、出資貴族の方々の総意でな……」



「もう信じらんない。国王がそんなんじゃあダメだわ」



「す、すまん……」



 なんか、株主総会の後に奥さんから怒られてる社長さんみたいね。



「私も出席してればビシッと言ったんだけど、ごめんなさいねえ、ゴホッゴホッ……」



「奥様、あまり無理をなされては……」



 昨日の勇者候補のお披露目にも、そのあと行われたらしい出資貴族との話し合いにも、王妃様は参加していなかったらしい。

今いる所は王妃様の寝室だ。数年前に体調を崩されて、それからは寝たきりなんだとか。

昔の自分を思い出して、ちょっと気の毒な気分だ。



「ベルベルちゃん、もう行ってしまうのねえ。この人ったら私に隠してたのよ。最後に会えてよかったわ」



「わたしも王妃様に会えて嬉しいです。勇者候補としてサンベルク王国に貢献することは出来ませんでしたが、せっかくこちらの世界に来たので、なんとか暮らしてみます」



「まあまあ本当に良い子ねえ。そういえばベルベルさんが泊まっていた部屋はね、私が幼かった頃の子供部屋なのよ」



「えっ! 王妃様の部屋だったんですか?」



 ということは、前の王様の直系の血筋は王妃様……もしかして王様、婿養子だから立場が低いのかしら。



「……あ、それじゃあ部屋に飾ってあった絵画の女の子って」



「あれは昔の私よ。懐かしい……あの頃は何も気にせず元気に走り回ってたのだけど」



 あの女の子が王妃様ってことは、もしかして……



「ともだーち!」



「うわっ!」



 さすがに病院スリッパで王妃様の部屋に行くのはどうかと思ったので、靴の妖精さんを履いてきたら、いきなり妖精さんがすぽーんと足から脱げて王妃様に近づいていく。



「あら? あなた……もしかして、てくてくちゃんなの?」



「ひさーしぶり!」



 その子、てくてくちゃんって言うんだ。ということは、もしかして周りにはてくてく言ってるだけに聞こえてるってことかしら。



「あらあらまあまあ! 久しぶりだわ~! もうずっとこの部屋から出ていないから、てくてくちゃんに会えなくて寂しかったのよ!」



「ひさびさのともだーち! うれしみ!」



「『久しぶりだな、友達~! 会えて嬉しい!』って言ってますね。ふふ、再会できてよかったね、てくてくちゃん」



「えっ? ベルベルちゃん、てくてくちゃんが言ってることが分かるの?」



「はい、そういうスキルなので……」



「アナタ!」



「は、はい!」



「どうしてこんな素晴らしいスキルを持ってる子が勇者候補から外されるの!!」



「め、面目ない!」



 国王様……なんかごめん。



「てくてく?」

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