ハロー異世界ワーク
Ryu
第1話 お祈りメール、後の転生
「では、当社を志望した理由を教えてください」
「はい! 給料がそこそこあって福利厚生がしっかりしていて休みを取りたい時に自由に取れると思い、気楽にお金が稼げると思って志望しました!」
シーン、と沈黙が支配したのち、俺、
(あ、ダメだこれ)
「ありがとうございましたー」
面接を終えて、人事の方にやけに丁重に帰されてしまった。
会社を出て、スマホを取り出す。何度目か分からない、お祈りメールが来ていた。
鈴谷樹。現在23歳。就活スーツに身を包むが、男子中学生の平均身長ほどしかないため、未成年に間違われることもしばしばある。就職浪人。未だ内定はもらえず。
もらえない理由はある程度察しがついている。質問に対し馬鹿正直に答えてしまうことが、きっとよくないのだ。
馬鹿正直に質問に答えずあらかじめ用意していた、相手に対し媚び媚びの回答を答えるつもりでいた時もあったが、どうにも相手を騙すのは気が引けて、結局本音で喋ってしまうのだ。
「嘘つくのって苦手なんだよなぁ、はぁ……。というか志望動機ってなんだよ。働きたい理由なんて金のためしか無いっつーか、御社に魅力なんか感じるかっちゅーの!」
誰もいない場所で一人、盛大に愚痴る。就活やめてぇー、と心の中で締めくくり、嘆きながら帰路を歩いていく。
信号が赤になったので歩みを止める。
時刻は18時26分。周りの社会人も我先にと帰ろうとしているのが歩く速度からわかる。交通量も多くなる時間である。
ざわ……ざわ……
なんだか騒がしいな、そう思い目線を向けると猫が車道に飛び出ていた。
そうとは知らずトラックが突っ込んでくる。どうやらトラックからは死角らしく猫の姿が運転手には見えていないようだ。
危ない!そう思ったと同時に体は動いていた。
猫を抱きかかえた、味わったことのない衝撃が襲ったのはほぼ同時であった。
鈍く、おどろおどろしい音が辺りに響いた。
吹っ飛ばされている最中に、俺は後悔することも特になくぼんやりと思った。
(あぁ、社会に出て働くこともなく死んじまうのか。まぁ、社畜になるよりは、今ここで死ぬ道も悪くないかもな……)
ほとんど痛みを感じる間もなく、意識は深い闇に飲まれていった。
「起きてください」
声が聞こえる。さっき轢かれたはずなのに。偶然にも生き残ったのだろうか。
「もしもし、起きてください」
体をユサユサと揺らされる。
まぁ待ってくれよ、こっちはトラックに轢かれたんだ、もう少し丁寧に扱ってくれ。
「起きて……くだ、さいっ!」
「あいたぁ!?」
「お寝坊さんはいけませんよ! 社会人失格です!」
起き上がってみると羽の生えた高校生ぐらいの女の子がいた。
白いドレスを着ていて背中まで伸びた透き通るような青い髪、大きく吸い込まれそうな瞳。完璧なまでに整った顔立ちに見とれてしまった。不思議なことに周囲は暗いのだが、その女の子の周りだけ明るくはっきりと見える。
それを差し置いても一番気になることがある。
「……今、叩いた?」
「イツキさん起きてくれないんですもん。当然です」
「それで叩いたの……?」
「? これで、ですけど」
少女の手にはバールのようなものが握り締められていた。
「まったく、全然起きてくれないので困りましたよ」
「死ぬ! そんなのでぶっ叩かれたらもう起きなくなるでしょうが!」
「大丈夫ですよ、イツキさんはもう死んでしまっているんですし」
「どうして俺の名前、というかやっぱり死んだのか俺・・・」
自分の体を見てもどこにも傷はない。死んだ、という実感はない。
「安心してください!」
成長途中の胸をどーんと張り声高らかに宣言した。
「イツキさんは、異世界で働いてもらいますから! 社会に貢献できるまで私がお手伝いします!」
「……はい?」
「だから、働くことができるんですよ。私と一緒に、よかったですね、イツキさん♪」
働く、ですと? 天国で安らかに暮らせる、だとか第二の人生を送る、生まれ変わり、ではなく?
「・・・俺の日頃の行いが悪かったのか」
「いえ、そんなことはありませんよ? 天寿を全うしたのであればイツキさんは天国へと送られてもおかしくないんです、ただ・・・」
「ただ?」
「その先はワシが説明しよう」
「おわッ!?」
突如として神々しいおじいちゃんが少女の隣に出現した!
「あ、神様!」
「神様!?」
「ほっほっほ。いかにも、ワシが神様じゃよ」
確かにこの少女よりもまぶしい感じがする。というか物理的にまぶしい。
「鈴谷樹。お主、職を探している最中に命を落としておるな」
「え、ええ。そうですけど」
「職に就く前の不幸な事故、まだまだ未来の可能性を持った若者がこれではあまりにも不憫、それに例外的であるためワシがお前の魂をすくい上げたのじゃ」
神様と名乗る老人は顔をしかめさらに続ける。
「魂を元の世界に復活をさせることは禁じられている。そのために異世界で働いてもらおうというわけじゃ」
「はぁ……そうですか……」
「露骨に残念そうじゃな」
「すみません……働かないで済むと思ってたので……」
「ほほほ、正直者じゃの」
表面上だけでもお礼を言いたかったが、内心はとてもじゃないが喜ぶ気にはなれなかった。
「イツキさんはやればできるんですから、働かないなんてもったいないです!」
「左様。鈴谷樹、お主なら異世界でもなんなくやってゆけるじゃろう」
そう言われても、ハイそうですかと納得できる話ではない。そもそも就活落ちまくってるんですよワタクシ。
「……あの、断るという選択肢は」
「では、神様!転移をお願いします!」
「あれ、無視されてる? というか異世界に行くの俺!?」
「うむ、では達者でな〜」
神様が手を振ると同時に視界が光で覆われていく。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね」
その瞬間、少女の笑顔を見た。
「私はルト!今日からあなたの、アドバイザーです!」
こうして、俺の異世界での職探しが始まったのだった。
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