第32話 きっとあの二人は名のある冒険者に違いない。
レイとノヴァが救い出した冒険者パーティのリーダーことウェイレン・クライボーンはレイたちがただの子供ではないと思っていた。それは当然で、Bランク冒険者でさえパーティでようやく倒せるオーガを、たった一人で五体も処理するノヴァはただただ異常だし、神に祈るようにして幻惑魔法を使った(本当は使ってない)レイも異常だった。
まあ実際、レイたちはただの人間の子供ではなく魔族なのでその考えは当たっているのだけれど、ウェイレンが間違っていたのはレイたちをまったく別の存在だと思ったことだった。
彼はレイたちをお忍びの英雄だと思った。
ウェイレンはBランクで冒険者の中でも熟練と言っていい。そんな彼に言わせればレイたちの年齢でこんなことができるなどあり得ない。
(だから、きっとこれは仮の姿。何か魔道具を使って変装してるんだろう。本当はもっと歳がいっているのに、俺たちが襲われているのを見てたまらず助けてくれたに違いない)
かなり突飛な発想ではあったが、彼は過去にそういう魔道具を見たことがある。だからこそ、目の前の異常現象を理解するにはそういう理屈が必要だった。
ウェイレンはノヴァがトドメを刺さなかったオーガたちを切り裂いて、討伐すると、彼女たちに近づいて頭を下げる。
「助かりました。まさかこんなことになるとは思いもせず」
「ふふん! いいのよ! 冒険者なんだからお互い様じゃない」
と、ノヴァはそれっぽいことを言っているけれど、お前は今日が冒険者初日だぞわきまえろ。
そんな尊大な態度だとは思いもせず、ウェイレンは「やっぱりこの人たちはお忍びの英雄だ」と自分の考えを確信に変えて、こそりとノヴァとレイに顔を近づけて、
「お二人はこっそりここにやってきたのでしょう?」
「え? あ、ばれちゃった?」
ノヴァは頭を掻いたが、彼女は単純に「EランクなのにDランクの依頼を受けようとした」のを責められたくらいの認識しかしていない。そしてそれはレイも同じで、彼は慌てて謝った。
「す、すいません」
「え? (オーガ討伐をしようとした俺たちの邪魔をしたとでも思ったのか?) ああいや。助かったので謝ることはないですよ。むしろこちらが謝らなければ。あなたたちのことは秘密にしておきます。口が裂けても言いません」
ウェイレンは言ってにっこりと笑い、レイはほっと安堵のため息をついた。
とは言え、目の前のオーガ五体とゴブリンの集団に関してはギルドに報告しなければならない。これは明らかな異常事態であり、放置する訳にもいかない。熟練冒険者であるウェイレンはそこら辺をしっかりと解っていて、
「さて、これはどうしたらいいでしょう? 俺たちにはオーガ五体を倒す力はありません。かといってあなたたちが倒したと言ってしまうと信憑性に欠けてしまいますよね?」
「え? そうかしら? じゃあ、あたしたちが一緒に倒したってことにすればいいんじゃないかしら?」
ノヴァはランクを上げたいのでそう言ったが、ウェイレンは慌てたように首を横に振った。
「いえ、そうなるとほとんど俺たちが倒したように思われて終わりでしょう。俺たちへの依頼難易度が上がってしまってそれはそれで困ります。俺たちオーガ五体なんて倒せませんし」
「うーん」
と言うことで、話し合った結果、レイたちは「何者かによって討伐されたオーガ五体をみつけ、その周りにたむろしていたゴブリンだけを討伐した」という報告をすることにした。
ウェイレン主体でギルドに報告すると、彼が熟練だからだろう、すぐにその報告は受理されて、近く調査隊が派遣されることになった。
一方、レイとノヴァは「ゴブリン討伐に参加した」という成果でランクアップまであと少しと言われて、満足そうに帰っていった。
見送ったウェイレンはパーティの魔法使いに声をかけられる。
「私たちは今日のことを黙っていればいいのね?」
「ああ。きっとあの二人は名のある冒険者に違いない。どんな事情があるのか知らないが……きっと姿を隠したいんだろう」
ウェイレンは言って、縛っていた黒髪をほどき、ほっと息を吐く。
「何があろうと俺たちは黙っていよう。そうするのがあの二人への恩返しだ」
と言うことで、ウェイレンはノヴァたちの活躍を黙ることにしたのだけれど、それでも、「何者かがオーガを五体討伐した」というギルドへの報告はたちどころに噂になった。
それが後々あらぬ勘違いを生むことなどウェイレンたちはまだ知らないし、レイたちもまた知るよしもない。
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