第24話 感謝

「あの方法も、すぐ禁止になるだろう」

「でしょうね」


 精霊の契約を使って、自分勝手に婚約を破棄する。事後報告で、認めないと面倒なことになる。だけどそれは、かなり無茶苦茶な方法。このやり方が広まったら、すぐ禁止されるのは目に見えている。


「そうなる前に、参考にさせてもらった」

「なるほど、そういう事だったのね」


 これまでの経緯について、彼の話を聞いて納得した。世話になったという一言には、そういう事情があったのね。


「今の俺があるのは、君のお陰だよ。ありがとう」

「いえ、そんな。私はただ、自分のしたいように動いただけだから」


 あの時の私は、どうにかして婚約破棄を成立させて、自由に生きたかっただけだもの。それを見られただけ。感謝されるようなことは何もしていない。さっきも助けてもらったから、むしろ感謝を伝えるのは私の方だと思う。


「それでも、君のおかげで俺の人生が大きく変わったのは確かだよ。そのお礼は何度でも言わせて欲しいな」

「そこまで言うのなら、受け取っておきます」


 これ以上言い合っていても仕方ないし、素直に感謝の言葉を受け取ることにした。ユーグも満足したのか、嬉しそうに微笑んでいた。




 彼は言葉だけでなく、行動でも示してくれた。具体的には、私が経営するカフェをサポートしてくれることに。


 どうやら彼は、ただの商人ではなかった。かなり大きな商会を経営しているらしい。


 新しい販売ルートを開拓してくれて、食材を今までよりも安く仕入れてくれたり、今まで手に入りにくかった珍しい食材や調味料を入荷してくれるようになった。


 おかげで料理目当てのお客様も増えて、お店の売り上げに貢献してくれている。


 彼と出会ってから、お店の経営はさらに軌道に乗った。これはもう、感謝するしかないわね。




 それから今までと変わりなく、お店の常連として足繁く通ってくれているユーグ。今日もいつものように一人でやってきて、カウンター席に座った。


「いつものコーヒーを頼むよ、店長」

「かしこまりました」


 笑顔で注文してくる彼に、私も笑顔で応える。コーヒーの香りが店内に広がる中、静かに待つ彼。少ししてから、出来上がったコーヒーを差し出す。


「お待たせしました」

「ありがとう」


 カップを手に取り、口を付ける。一口飲んで、満足そうに頷く。相変わらず美味しそうに飲む人だなと思う。


「とっても美味しいよ」

「ありがとうございます」


 彼に褒められて、つい嬉しくなって声が弾んだ。これが私の新たな暮らしの日常。そして、この先も続いてほしいと思う日々だった。

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