第21話 戻りたい、わけがない
「貴方、レイティアと一緒になったんでしょう?」
差し出された手を無視して、私は問いかける。あのパーティー会場で、本気で愛している相手で妻にすると宣言していたレイティアのことについて。彼女はどうしたのか。
「彼女のことは、今は別に考えなくていいよ。大切なのは、君と俺の関係を元通りにすることだから」
「いえ、ですから」
伸ばしていた手を下げて、ランドリックは説明した。露骨に話をそらして、自分の都合を押し付けてくる。
「このままだと、マズいんだよ。次期当主の座も危うい。君に戻ってきてもらわないと困る。だから、俺と一緒に戻ろう」
人の話を聞かない男だ。私には、戻るつもりは一切ない。
「お断りします。私は王都に戻るつもりなど、ありません。一人で帰ってください」
そう言うと、彼は苦々しい表情で私を見つめた。それから、小さく舌打ちをする。
「君だって、貴族の生活に戻りたいと思っているはずだ。あの馬鹿な契約を破棄して、元の関係に戻ろう!」
「そんな事、全然思っていませんけど」
「強がる必要はないよ。さあ、一緒に王都へ帰ろう。その方が、君も幸せになれる」
「ちょっと、止めてください!」
ランドリックが再び手を上げると、強引に私の腕を掴もうとしてくるので避ける。強く拒否した。
「ぐあっ!?」
すると、彼は自分の手首を掴んで苦しみ始めた。契約した金色の証がある箇所ね。うめき声を上げて、歯を食いしばり顔色が悪くなっていく。いい気味ね。
精霊の契約には、こんな効果があった。貴族の身分を放棄して一般庶民になった私を、貴族に戻そうとするのは契約違反に抵触する。それで、罰を受けているようだ。
「せっかく優しく言ってやったのに、キミという奴は! ワガママを言っていないで、さっさと帰るんだ! これ以上抵抗するのなら、メディチ公爵家の力を使って、この店を潰してやる! そうなったら、もう逃げられないぞ!」
本当に馬鹿なのかしら。そんな脅し文句まで口に出して。
会話だけで済ませようと思ったが、不可能。ここまで話が通じないなんて予想していなかった。この男を、どうやって店から叩き出すか。考えていると、近付いてくる影が見えた。
「あっ」
「そこまでだ」
「ぐはっ!?」
怒鳴りながら掴みかかろうとしてくるランドリックの背後から、割って入ってくる人が。ランドリックの腕を掴むと、地面に叩きつけるように倒してから、拘束した。一瞬の出来事。
「だ、誰だ……っ! こんな事をして、メディチ家が黙っていないぞッ! さっさと離せっ!」
地面に這いつくばったまま、喚き散らすランドリック。しかし、男は拘束を解かない。
「店長さん、安心してくれ。もうすぐ、警備兵が駆けつけると思う」
「は、はい……」
「おい!」
私を助けてくれたのは、常連のユーグ様だった。ランドリックの言葉を無視して、私に教えてくれた。そして彼の言う通り、すぐ警備兵が来てくれた。バロウクリフ家の兵士だ。彼らは、ランドリックを連行していった。
ようやく、店内が落ち着く。私も、ホッとした。
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