第16話 少しでも還元を

 お店は順調で、資金にも余裕があった。バロウクリフ家から毎月定期的に援助金が送られてくるから。


 バロウクリフ家の一員だけど貴族ではなくなった私は、そこまでしてもらう資格はないだろうと思った。それで一度、援助金を受け取るのを断ったことがある。


 そうすると、お店に大勢の客を送り込んで売上金を増やすという、遠回しな手法で援助されてしまった。


 結局、受け取りを拒否することは出来ないみたい。拒否しても、余計な手間を増やしてでも渡してくる。だから、素直に援助金を受け取ることにした。


 この領地で暮らしている限り、バロウクリフ家の援助を断ることは出来ない。家族には迷惑をかけたくないと思うけれど、この領地に居続ける限り心配させてしまうのだろう。援助金を受け取ることで、家族の心配が少しは軽くなる。


 資金があれば、お店で提供するコーヒーや料理の品質も上げられるし、従業員の数だって増やせる。新しい商品を開発することだって出来るだろう。


 巡り巡って、バロウクリフ領の民に還元されるはず。そう考えることにした。




 両親を亡くした孤児や、貧しくて食べられない子たちには無償で料理を提供した。そこから得た情報を、バロウクリフ家に報告したり。訳ありで暮らしが大変な女性を雇って、うちで働いてもらったり。


 援助金で余裕があるので、そういう事がしやすかった。援助金がなければ、自分が生きるだけで精一杯だっただろう。気持ちにも余裕があるから、周りの人を思いやることが出来る。


 ただ、私の活動による影響なんて微々たるもの。しないよりもマシかな、といった程度でしかない。でも他に、領民に還元する方法なんて思いつかないし。


 庶民になった今の私にやれることを、やるしかない。そう思って日々を暮らす。


「店長。こちらの注文を、お願いします」

「すぐ用意するわ」

「店長。こっちは任せてください」

「えぇ、任せるわね」


 店内は、とても賑やか。忙しい中、次々と声がかかる。それらをこなすために動き回りながら、作業を進めていく。


 新しく雇った数名の従業員と共に、業務に取り組む。忙しい日もあれば、暇な日もあった。その差が大きいと大変なので、なるべく無駄がないように指示するのが私の役目だが、なかなか難しい。


 でも、それが楽しい。お客様の笑顔を見るだけで頑張ろうと思える。従業員たちも一生懸命に働いている。良い職場環境だと思う。


 お金のために働いているのではない。やりがいのある仕事をして、人のためになることが出来たなら嬉しい。そんな気持ちで働いていた。

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