残念ながら、契約したので婚約破棄は絶対です~前の関係に戻るべきだと喚いても、戻すことは不可能ですよ~
キョウキョウ
第1話 結婚発表の日に
とあるパーティーの真っ最中に、婚約者のランドリックが私に向かって突然こんなことを告げてきた。
「アンリエッタ、お前との婚約を破棄する」
いつもより自信満々で、高慢な態度。勝ち誇った表情。前々から計画していたのでしょう。
婚約者であるランドリックは胸を張って、そう言った。聞き間違いじゃない。
自分の行動が全て正しいと、信じて疑わないような口調だった。公爵家長男である彼は、それが許されていると本心から思っているようね。
周囲にいた人たちが一瞬、止まる。そして当然、注目を集める。パーティー参加者たちの視線を肌で感じた。私はその視線を浴びながら、演技を続けた。
「なにをおっしゃってるのですか、ランドリック様」
「なんだ、アンリエッタ。まさか、異論があるとでも?」
勝ち誇ったランドリックがあざ笑っている。異論もなにも、突然すぎるでしょう。どう考えても、今じゃない。もっと別のタイミングがあったはずよ。こんな、多くの人たちに見られている中で告げることではない。悪意を感じた。
「意味がわかりません。どういうことですか?」
「……はぁ」
呆れたというようなため息。なぜ理解しないのか。こちらが悪い、みたいな態度。本当に彼は、人をイライラさせるのが得意ね。落ち着かないと。
「もう一度言う。お前との婚約を破棄する」
「……理由を、お聞かせ願えますでしょうか」
注目を集める中、再びランドリックが言う。周りの人たちも、今度は聞き逃さないように興味津々みたい。
結婚式の予定も決まっている、大事な時期。それを突然、婚約破棄するなんて。
「答えてやろうとも。おいで、レイティア」
「はい!」
私の背後に視線を向けて、普段とは違う優しい声で女の名前を呼ぶランドリック。その名前を私は知っている。
女性の声で、名前を呼ばれた彼女が返事をしたのが聞こえてくる。その声にも、聞き覚えがあった。
振り返ると、私の友人の1人であるレイティアが堂々とした態度で近付いてきた。私の横を通り過ぎて、ランドリックの隣に立ち、腕を組む。ここは自分の立ち位置だとアピールするように。
彼女はランドリックの腕に頬を寄せてから、私を見て微笑んだ。優越感たっぷりの笑み。勝ち誇った表情。見下すような目付き。
「紹介しよう。彼女は、レイティア。俺が本気で愛している女性で、ヴァレンティ侯爵家の令嬢である!」
「フフッ」
「……」
その言葉は私にではなく、周りに集まっていた貴族たちに向けて発した言葉のようだ。紹介されたレイティアは、満足げな顔。私は黙って、その様子を見ていた。
本気で愛している女性、ね。
「それからレイティアは、私の妻となる。これはもう、決定事項だ!」
周囲に向けていた視線を私に戻して、ランドリックはニヤニヤした嫌な笑顔のまま言った。今度の言葉は、私に向けて。
パーティー参加者の貴族たちが困惑して、会場がざわついていた。当然だ。
今日のパーティーは、貴族の交友を広めるのがメイン。だが、私とランドリックの結婚を祝福する目的もあった。そして、結婚日を発表する用意までしていた。なのに突然、周知していた婚約相手を変えるなんて誰が予想できただろうか。
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