第45話 傷口を拡げるために居たと。
「あ、お爺さま。
電話の相手は
その方は
「あー。有言実行しやがった」
「終わりましたね。素直にお祈り致します。南無」
「な、なんで俺が拝まれなければならない!」
「ここまでされて理解出来ないのかよ。お前?」
「俺は悪い事なんてしていない! ただ、世間話をしていただけだ」
「世間話しながら
「・・・」
祖父は孫の
他にも孫は居るが
嫌だった事に加えて先ほどの俺のやりとりまで報告する始末。
あちらを落として俺を上げるようにペラペラと報告していた。
(何処から会話を聞いていたか知らないが花摘みに行ったように見せかけて近くに潜んでいたのかもな)
バルコニー側の扉が開いているから外に潜んでいたのかも。
一方、
「だんまりか。十分、悪い事してるじゃねーか。視姦だ視姦。それはセクハラ行為だ」
「そもそもの話、女子が視線に気づけないとでも思いました?」
「・・・」
「胸への視線は意中の相手なら少し恥ずかしい程度の認識になりますが、意中でもなんでもない異性からの視線は嫌悪の対象となります。自身の身体が目当て・・・そう思われてしまうんですよ。だから視線だけは気をつけて下さいね。視線については胸の薄いF組の女子でも気づきますからね」
「私は薄くない!」
「
「ぐぬぬ。酷い事を言われているのに嫌悪がない不思議」
学校でなんて会話をしているんだって聞かれていただろうからな。
俺は端っこで唸る女子を一瞥しつつ擁護した。
「
「同程度? あ、ああ。そうか。ドンマイ」
「同情されてるのに嫌な気持ちにならない不思議」
「彼女持ちだからじゃない。意中の相手しか興味がないから」
「あ、そういう事か。視線がないもんね」
ジッとは見ていないぞ。数名だけ夏服の薄着だから大きさが理解出来ただけだから。
今の
「
「うっ」
「大きい子が居るのに私の胸を見る理由が不可解だよね?」
「確かにそうだが。見たら目潰しするって脅しているからかもな」
「それなら俺も同じ手を使おうか? こう、両目に向けて指を」
「ひぃ」
俺がそう言うと
「
「結局どうなったんだ?」
「調査したら彼は特待生として認められないって。制度を不正利用した形だからね」
「なっ!?」
「あとは新しい監督を紹介するから少し待ってくれって」
「やりぃ! これで更なる強みが出てくるわぁ。予選を勝ち抜いていても常にヒヤヒヤだからな」
「こ、公立なのにそんなこと認められる訳が」
「祖父はね、教育者の一人でもあったんだよ。家を継ぐ際に退職したけど、今もなお関係者との繋がりは残っている。不正に契約した監督。その監督のスカウトで実力も無いのに特待生で転入してきた井の中の蛙な君。言っておくけど、我が校には転入する形での特待生制度は存在しないよ。入学時点の一年生と同じようにはいかないの。それが通用したのは前校長の手口が原因。是正されるべき存在だから、元の高校に戻りなさいね」
「う、嘘だ! 嘘だ、嘘だ、嘘だぁ!? 嘘に決まっている!」
「理解出来ないのかよ。お前は不正したんだよ」
「彼の場合は被害者だよ。前校長と現監督に利用されたクチだから」
すると静観していた会長が会話に割って入ってきた。
「どのみち、体育祭実行委員からは除名しておくよ。F組には別の男子をあてがうよう通達しておこう」
「な、なんで俺ばっかり!」
「仕事もせず、彼氏の居る女子のナンパばかりしていたからだ。それと生徒会役員の邪魔をする行為は進捗遅れを促進させる。そこを理解していない君は実行委員の資格無しだ。ここまで言っても分からないかい?」
「!?」
「生徒会はね。常々仕事のしわ寄せに苦しんでいるんだ。私達は寝る間も惜しんで仕事をしている。少しでも生徒達が楽しんでくれるよう、辛くても頑張っているんだ。それを君のくっだらない他者承認欲求で壊さないでくれるかな? 他の委員達も自分達の仕事を済ませたうえで喋っているが、君は何もしていないだろう?」
「・・・」
「何かあれば常に
「ぐっ」
会長の一言の方が効くみたいだな。
周囲を見回しても白けた視線だけだ。
彼は荷物だけを持って、
「それと資料は全て置いていってよ。余所の人間に内部情報を流されては迷惑だからね。仮に他人へと流したら訴えるから。それと何処へ逃げても
出て行こうとして会長の追い打ちで資料を投げて出て行った。
投げやり感のあるその行動。資料を拾った俺は嫌な文字を確認した。
「会長・・・手遅れでした」
「は? どういう事だい?」
「バレました」
「へ?」
資料の中にシークレット。控え選手の名前を全員分書いていたのだ。
それを忘れないようにするためなのか、連絡済みと記してあった。
「この電話番号は誰のだい?」
「おそらく舎弟でしょうね」
「ああ。内部犯が出てしまったか・・・」
「彼が顔合わせに出ていなかったのは呼び出されていたからでは?」
その可能性が最も高いと思えるよな。バカだからか資料に直書きしているが。
すると状況が読めていない
「それって何時の事だ?」
「えっと、この日だよ」
「この日は完全休息日だったから誰も部活に出ていないな」
「そうなると
「嫌な結果ですけど、当たりましたね」
「用意周到な・・・」
「おそらく奴はバカ正直だから乗せやすかったのかもな」
「バカ正直のバカだけが大きい声だけど?」
「外れてはいないだろ。文系なのに語彙力ないし」
「言えてる」
バカだからこそ利用されやすい人物なのは確かか。
対策を練っても隙を突いてくるから始末が悪いな。
「こうなると臨機応変に対応するしかないか」
「それしかないですね。飲食関係は気をつけつつ」
「あとは登下校中に襲われないように気をつけて」
「狙われるのは二年生だけなのがやりきれませんけど」
「二年の食券目当てって、単に食い扶持がない奴か?」
「一クラスに四人分。計十二人分が限度だからな」
「学食の一番高いメニューでも大盛りカツ丼定食で」
「千円だから、それを部活のある日も含めて食べられると」
「一人頭、最大で九万の支出か」
「それが十二人。最大で百万を超す支出になるな」
「うへぇ。そんな額を支払えるのか?」
現状は赤なんだよな。使い込みがあるから。
「会長?」
「そうなると授業のある日に制限した方がいいね。食券も回数券タイプに置き換えてもいいだろう。そこに上限価格を設けて一食五百円までだね。ワンコインで食べられる料理も多いし。贅沢を言うと千円の物もあるが欲しければ纏めて使う事も考慮しよう。その分、三ヶ月以内に使い果たしてしまうだろうがね」
「それなら試算しても余力が出ますね。奴の考案した方法のままだと最悪、文化祭が消えますし」
「「「「「え?」」」」」
委員の面々は知らないからきょとんだが、
「この場合、任命責任になるの?」
事情を知っている風紀委員長だけは神妙な面持ちだった。
「どうだろう。前会計が勝手に暴走した結果だからね」
会長もこの件だけは自信がなさげだった。
なので俺はありのままに起こった事を語った。
「ですね。全校生徒が面白おかしく書き込んでいた裏サイトの運営費。それが生徒会費から勝手に賄われていた。会長の決裁無しで勝手に行われていたものだから、全責任は退学した前会計のみに当てはまるでしょう」
「「「「「はぁ!?」」」」」
ま、とんでもない驚愕を与えてしまったがな。
「そう言ってくれると有りがたいけどね。特例で補填が許されるなら私の個人資産からあてがうけど」
「学校側がそれを認めるか正直微妙ですね。今ある予算で全ての行事を賄わないといけないので」
「そうなると削るところは削るしかないと」
「ひでぇ話もあったもんだな?」
「本当に酷い話だったんだよ」
「使い込みとか犯罪じゃん!」
「でも、裏サイトの運営費だと」
「ああ、私達も同罪じゃん!」
それが奴の狙いの一つだったのかもな。
生徒が必要だから用意した。生徒会費で使っても罪悪感から問題ないとなるとかな。
そんな俺様ルールが当てはまる訳がない。
「利用者も確かに関係あるだろうが、一番の問題は会長と学校の許可無しで使い込んだ側にある。利用者は自費運営と思い込んでいる者が多かったはずだから騙されたのは利用者も含まれる。規約などで運営費が生徒会費と記されていたなら、知ってて書き込んだ利用者も同罪かもしれないが、規約が存在していないからな」
「あ、そういえばそうかも」
「他の所はあったよね?」
「そっちは
「「「ふぁ?」」」
それはともかく。
「使い込みの件も含めて顧問と再相談ですね」
「そうだね。学校側がどう判断するかにも依るが」
「差し障りが出ると後々が厳しいですから。早急に、ですね」
「気が重いけどやるしかないね」
発覚した時と同様に相談が必要だな。
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