間接キス


 ――カコンッ


 学校の帰り道、私は暑さに耐えられず自動販売機で麦茶を買った。横にあるベンチに座ってペットボトルを開ける。


 ――ゴク、ゴク、ゴク


 ふう。ああ、生き返るってこういうことだ。

 潤った喉に満足してまた歩き出そうとした時、自動販売機の前で唸っている人がいる。

 森野だ。同じクラスで私の後ろの席の森野。

 財布の中を何度も覗いたりポケットに手を突っ込んでみたり、その行動でお金が足りないのだろうとわかる。

 その額からは汗が滲み、先ほどまでの自分の状態を思い出すと可哀相に思えてくる。

 

「お金、貸そうか?」


 私は森野の肩をツンツンと叩く。


「あっ、えっ、いいの?!」

「うん」

「ありがとう! 絶対明日返す」


 私は財布を取り出し中を見る。


「あ……五千円札と一円玉しかなかった」


 自分から貸すと言っておいて申し訳なくなった私は手に持っていたペットボトルを差し出す。


「これでよかったら飲む?」


「え……」


 言ってから後悔した。こんな飲みかけの麦茶なんて嫌に決まってる。森野もかなり困惑した様子だ。


「ごめん。さすがにこれはいらないよね」


 私は差し出したペットボトルを引っ込めようとしたが、森野はそれを掴む。


「ちょっとだけ、頂戴」


「飲みかけだよ? いいの?」


「別にいいけど」


「そっか、じゃああげる。脱水になってもいけないしね」


 私たちはベンチに座った。

 森野は飲みかけの麦茶に控え目に口をつけゴクリと飲む。少し空いた上唇とペットボトルの隙間に、動く喉仏になぜか目が離せない。


「ふう、ありがとう。生き返った」


 そう言いながら蓋を閉める森野と目が合う。

 そして私の顔を見た森野の顔がみるみる赤くなっていく。


「ごめん」


「なんで謝るの?」


「いや、その……間接……」


 あたふたする森野からペットボトルを取り、私ももう一度麦茶を飲んだ。


「間接キスだね」


 森野はますます顔を赤くして手の甲で口を覆った。

 

 ああ、可愛いなぁ森野は。

 本当はそんな森野に私がはまっているのかもしれない。





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