死ねばレベルアップ! 殺されるたびに強くなって若返り、幼女になってしまった元アラフォーが目指す、究極のスローライフ
月城 友麻 (deep child)
1. 九死に一勝
「仲間の無念……この剣で晴らす!」
金髪をリボンでくくったアラフォーの女剣士ソリスは、幅広の大剣を
磨かれた銀色に
グォォォォォ!
ダンジョン地下十階のボス、
こんな棍棒の直撃を食らっては、どんな鎧を纏っていても一瞬でミンチである。ソリスは慎重に間合いを取った。
グフッ! グフッ!
そうはさせじとソリスは、棍棒の動きを見ながら横に小走りし、タイミングを待った。前回、女ばかりの三人パーティで挑んだ時に、攻撃パターンは把握済みなのだ。
アラフォーともなると力も衰えてきて、同じレベルでも若い者からは大きく見劣りをしてしまう。しかし、そこは豊富な経験を生かした判断力でカバーしてきた。
ウガァァァ!
しばらく続いた鬼ごっこ状態に業を煮やした
ここだっ!
待ち望んだ一瞬が到来した――――。
ソリスは猫のように軽やかなステップで地を蹴り、迫り来る棍棒をぎりぎりで掠めるようにして避けると、鈍い輝きを放つ大剣で一気に腕を斬り裂いた。
グハァ!
ひるんだ
「死ねぃ!!」
ソリスは全身全霊をかけ、疾風の如く
剣気で光り輝く大剣はまっすぐに
かつて仲間のフィリアが『ほれぼれするでゴザルよ!』と、おどけ気味に褒めてくれていた自慢の突きだった。
決まったっ!!
ソリスがそう思った瞬間――――。
いきなり視界が真っ暗になり、ゴスッ! ゴスッ! と身体が砕ける衝撃が襲ったのだ。
へ?
何が起こったのか分からなかった。
ゴフッ!
大量の血を吐いたソリスは、鼻にツーンと生温かい血が流れ込んできているのを感じる。
ぼんやりと戻ってきた視界。
そこにはこぶしから血を
棍棒を手放して素早さを出した
ソリスは起き上がろうと思ったが、身体の骨があちこち折れてしまっていて、激痛に翻弄され、また床に転がってしまう。
ふぐぅ……。
こんな時、イヴィットがいたら弓矢の援護で窮地を脱せるのに……。ソリスは
ニヤリと笑う
まるで虫けらを潰すかのように、
グチャッ!
骨と肉が粉砕される耐え難い音が、フロアにこだまする。
ソリスは、全身が燃え上がるような激痛の中、己の運命の
悲壮な覚悟で臨んだボス戦。前回の敗戦を徹底的に研究し、全財産をはたいた増強ポーションで攻撃力もアップさせてきた。体調も驚くほど良く、徐々に衰えていく身体を考えたら戦うのは今しかなかった。
もちろんそれでも分の悪い賭けではあったが、仲間の無念を晴らすと決めた以上、わずかでも勝ち目があるのであれば挑まねばならない。それがアラフォーまで冒険者を続けてきたソリスの矜持である。
しかし、運命に挑むこの壮絶な決意に対し、幸運の女神はほほ笑まなかった。
「フィリア……、イヴィット……、ゴメン……」
世渡り下手な三人娘はパーティーを組み、身を寄せ合いながら二十数年間一緒に暮らしてきた。その大切な仲間の無念を晴らすべく捨て身の戦法に出たソリスだったが、残念ながら挑戦は失敗。ソリスも仲間と同じく黄泉への旅に出ることとなる――――。
……、はずだった。
シャラーン……。
どこからか聞こえてくる神聖な響き……。
グチャグチャとなったソリスの
骸から黄金色に輝く微粒子がフワフワと立ち上り始めた。
『汝に、祝福あれ……』
死の最期の瞬間にそんな言葉が、ソリスの耳元でささやかれた気がした。
え……?
『レベルアップしました!』
なぜか意識がはっきりとしてくるソリスの頭の中に、電子音声が響き渡る。
はぁ……?
ソリスは何があったのか分からなかった。今、
「ど、どういう……こと?」
ソリスは身を起こして自分の両手を見た。
全身を砕かれてグチャグチャになったはずの身体が実に軽快なのだ。むしろ、殺される前に比べて好調ですらある。
ガァァァァ!
「ヤ、ヤバい!」
ソリスは素早く立ち上がり、何とかギリギリで棍棒をかわした。
なんだかよく分からないが、生き返ったのなら今度こそ倒さねばならない。この奇跡を絶対に生かしてやるのだと、ソリスは落としていた大剣にまでダッシュし、手を伸ばす――――。
ガスッ!
ソリスは激しい衝撃に襲われ、地面を転がった。
見れば棍棒も一緒に転がっている。なんと
くぅぅぅ……。
なんとか体勢を取ろうと思った直後だった。いきなり視界が真っ暗になり、意識が飛んだ。
しかし――――。
『レベルアップしました!』
またも謎の電子音声が響き、ソリスは元気いっぱいになって復活してしまった。
「一体、これは……、何?」
首をかしげ、両手をじっと見るソリス。確かにまた殺されたのに、全身がピンピンとしているのだ。そんな話は聞いたことがない。
そしてまた襲い掛かってくる
ソリスは再度闘志を燃やし、
しかし、
『レベルアップしました!』
何度殺しても全快になって復活してきてしまうソリスに
さらに、殺すたびになぜかソリスは力も動きも判断力も良くなってきていて、なかなか殺せなくなってきていたのだ。
ウガァァ! ウガァァ!
疲れも見えてくる中、
『次に棍棒が来た時がチャンス……。ここよ!!』
ソリスは棍棒をひらりとかわすと、目にも止まらぬ剣さばきで腕を斬り落とす。
ギュワァァァァ!
斬られたところから吹き出す鮮血に
「悪いわね、死んで!」
ソリスは真っ直ぐにボディーを斬り裂いた――――。
ゴ……、ゴフゥゥゥ……。
断末魔の叫びを上げながら、
ソリスは今までにない手ごたえにドキドキしながら倒れている
うぉぉぉぉぉ!
ソリスは両手を掲げ、吠えた。ついに念願の宿敵
「フィリアぁぁぁ! イヴィットぉぉぉ! 見て、やったわよ!! うっ……、うっ……、おぉぉ……」
ソリスはあふれ出る涙をぬぐいもせず、号泣しながら倒れ伏せた。奇跡的な勝利を手にしたのだが、勝っても仲間は戻ってこない。その冷徹な現実がソリスの胸を締め付ける。
うっ、うっ……。
止まらない涙。だが、少なくとも仇は取れた。仲間たちの人生は無駄ではなかったことを示すことができたのだ。
ソリスは床に倒れ伏せたまま、涙枯れ果てるまで苦い勝利の味わいに
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