第11話 しんせつの平原

 翌朝。まだ洞窟に陽の光もあまり入ってこないような時間に洞窟内を騒音が埋め尽くす。

「ルナ!大変だよ!」

「……なによ……寝起きに……サン、あなた元気ね」

 私が眠気眼を擦っている間にもサンは興奮気味に私に詰め寄る。

「いやいや!これを見たらきっと目を覚ますって!」

「そんなこと……!」

 サンに手を引かれるがままに洞窟の外へ出た私は見事に目が覚めた。

 洞窟の外が、真っ白になっていた。

「なになに~どうしたの~?」

 騒がしさに目を覚ましたアミィも伸びをしながらこちらに歩いてきた。

「あ……アミィ……洞窟の外が消えちゃったんだ……!」

「何言ってるのサン……あ、もしかして~……知らないんだな~?」

 一瞬呆れた顔をしたアミィだったが、何かに気づいたように調子付いてサンを煽り出す。

「な、なにをさ!」

「よし、アミィちゃんが教えてあげよ~!」

 アミィはぴょこりと私たちの前に踊り出る。

「これも魔法なのかしら……?」

「答えはばってん!これはね、雪、で~す!」

 うっとおしいくらいの大振りの動きで腕を動かし特大のばってんを作ると私にそれをぐいぐい押し付けてくる。

「ユキ……?聞いたことがないわ……」

 もちろんその挙動は無視して話を進める。

「よしじゃあ、雨は?!」

「バカにしてる?!それくらい知ってるわ!」

「それと同じくらい単純な話なのさ!」

「……どういうコト?」

 だって、雨は、雨じゃない?

「これはね、雨の仲間さ。寒~い場所だと、雨が凍ってね、それが雪になるんだ。なに、寒い場所に住んでいないから知らなかっただけさ」

「へぇ……雨ってこんなになるんだ……」

 確かにその白いユキっていうものは、洞窟に漏れ出している部分は溶けて水になっていた。

「じゃあちょっとこの上を歩いてみる?」

「ちょっと怖いけど……行くわ!」

 私はこのユキの上にとんでみた。

 ぼっ!

 私の足は勢いよくユキを貫き真っ白な毛皮と同化した。

「ちょ、ちょちょちょ……つつつ、冷たい!」

 その瞬間、とんでもない冷気が私の身体を巡り抜ける!

「そう!雪はとっても冷たいんだ!凍ってるからね。あと、動きにくいよ」

「え……これってもしかして……」

「……うん、ちょっとこのまま進むのは心配かな……」

 アミィはさっきまでのテンションとは対照的に黙りこくってしまった。

「どうするのよー!」

「もう我慢していくしかないね!溶けるまで待ってたらさらに積もるかもしれないし!まあ夜通し歩いて洞窟もないところで降られるよりはよかったよ!」

 誤魔化し方を思いついたみたいにぱっと明るくそうまくし立てるとさぁさぁと言わんばかりに私たちを洞窟から押し出そうとする。

「そう言われるとそうだけど……」

「じゃ、いこっか!」

「うぅ……さむ……」

 凍えそうな極寒の平原へと足を踏み入れた。



 ざっざっざっ、と音を立てて歩を進める。

 やけに周りの音が静かで、私たちの足音だけが平原にこだましている。

 もちろん足は冷たい。

 でも歩かなきゃ、もっとひどくなるってアミィは言ってる。

「ねぇアミィ……目的地はまだなの……?」

「う~ん、この平原のどこかにあるみたいだからもう少し進めばあるはずなんだけど」

「じゃあまだ耐えられる……」

「やあ、ルナ、なんだかこのユキは、君みたいじゃないか。透き通った真っ白い身体が、太陽の光を浴びてキラキラ光ってさ」

 震える私の隣でサンがやけにはつらつとポエムを吐き出し始めた。

「ごめん今は……ほんと……」

「………」

 私の拒絶を受けるとサンは口を開いたまま止まってしまった。

「サンは寒さに強いんだねぇ」

「うん、なんか平気みたい。僕が住んでた場所、ユキが降らないまでも寒かったのかな」

「ルナはそれに比べて……」

 アミィが含み笑いをするように口を抑えながら私を見る。

「うう、うるさい……!」

「それにしても、ユキってのは面白いね。ね、振り返ってごらんよ」

 サンにいわれて歩いてきた道を顧みてみる。

「これは……」

 私たちの足跡がずーっと残っていた。

 点は線になって、平原に三本の道を作ったみたいだった。

「ちょっと……きれいね」

「でもこれもしばらくすると消えちゃうからね。この儚さも、雪の面白いところさ」

「僕はすっかり気に入ったよ」

「私はちょっと慣れないわね……」

 だって寒いんだもん。



 またしばらく歩いて……。

「あ、これ!」

 アミィがなにか見つけたようだ。

「どうしたの?」

「こんな所に足跡が……」

「足跡ってことは……」

「まだそう遠くない時間にここに誰かがいたのね」

「もしかして……あ、やっぱりそうだ」

「なになに?」

「アミィセンサーがこの足跡に反応してる」

「あ、じゃあこれを追っていけば……?」

「うん!目的地!というか、目的者?」

「魔法使いかな?仲良くなれるといいな」

「そうだね!」

「あぁ……おほん……あのねルナ」

 私たちがはしゃいでいるとアミィが咳払いをしながらおずおずと進言する。

「なに?」

「魔法使い全部は信用しない方がいいよって」

「え?」

「これはちょっといやな話なんだけど……崩星信者ってのがいるんだ」

「ほーせーしんじゃ?」

 出ました知らない言葉。

「簡単に言うと、惑星を救いたくないやつら。それどころか全部滅んで欲しいっていう破滅を願う者たちさ」

「それって……死にたいってこと……?」

「いや、ちょっと違う。滅んだ先に新たなる世界があるだとかうんぬんかんぬん……。そんな理由で星が破滅することに意味があるらしくて、みんなを巻き込んででも星を破壊しようとする過激なやつらがいるんだよ」

「そんなキケンなやつらが魔法使いなんてさらにキケンじゃない……」

 まさに私たちと対極の存在。思わず身震いした。

「ま、アミィセンサーに指定されるような子はそんな危険なやつじゃないと思うから!アミィセンサーの目的地の魔法使いに関しては安全だと思ってよ!」

「じゃあもしアミィセンサーと関係なく遭遇した魔法使いがいたら、気をつけてってことね」

「そういうこと!」

 星が無くなればいいだなんて、そんなことあっていいはずがない。

 そんなヤツらに先を越されるくらいなら……。

 でもそのためにはアミィセンサーの導きに従うより他はない。

 しかし未だこの平原には真っ白な地平線が広がるばかりだ。

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