ニーグディロスト

瀬戸 森羅

第1話 発見、しかしそれは禁忌

  二ーグディは、世界で1番大きな樹だった。

  人類はこの樹のことを忘れかけていて、樹の根元に住む種族、ガレフの一族だけにその秘密が伝わっていた。

  他の人類にとってこの樹は、大きな大きな樹であること。それだけしかわかっていなかった。

  この樹がいつからあるものか、この樹が何を守っているのか。それを知っているのはガレフの民だけだった。


  ある日大きな戦争が、ガレフの民を滅ぼした。

  二ーグディは伝説からも姿を消した。

  あれから百年経った頃、ついに二ーグディも燃やされてしまい、全ては灰になった。


「あれがかつてのガレフの里か…」

「けほっげほっ!おいおい!なんだってこんな場所に行かなきゃならないんだよ!」

「しょうがないだろ?任務なんだから…」

  吹雪のように灰の舞う荒野を、2人の男が歩いている。

「おい、本当にこの先に大樹のあった場所があんのか?方角なんてもう全然わかんねえぞ!」

「うるさいな…僕だって前に進んでるのか戻ってるのかわかんないよ…」

「ふざけんな!げほっ!大体なんでお前だけマスクしてんだ!」

「お前の判断だろ?僕はこうなることくらいわかってた。あれだけデカい樹を燃やしたんだぜ?灰くらい予想しろよ…。あいにくガスマスクはこれ一つしかない」

「ちっ…覚えてろよお前!」

  まるで雪原のように、足跡がついては消えていく。同じ場所を歩いていてもわかるはずがなかった。

「おい…おいおい…ほんとにヤバいんじゃねぇのか…?」

「いや…どうやらそうでもないらしい」

「なっ…何かあったのか?!」

「あれだ。大樹の根元がみえる」

  男の指さした先には、真っ黒に焦げた大きなドームのようなものが見えた。

「あれが…木の根元かよ…ほんとうに大きいんだな…」

「世界最大の樹。そりゃあ大きいさ。でも大きすぎて焼かれちゃうなんて、調子に乗りすぎたんじゃない?」

「違いないな」


  男たちは黒焦げになった巨大な残骸の目の前まできた。

「こりゃあ派手に焼けたもんだな。もう根元しか残ってないとは」

「よし、それじゃあ調査は終わりだな。あとは清掃班を呼んで大陸を清浄することができれば、人類はまた大きく発展する!」

「…ん?おい、あれ見ろよ」

「なんだ?」

「燃えカスの真ん中…あれ、動いてないか?」

「なにもないぞ…ん…?」

「な?ほらっ。動いてる」

  黒焦げのドームの中央には、こんもりと膨らんだ場所があり、動いている。

「なんだありゃ…こんな場所にいる生命体なんて…」

  ぼこっ!

「おわっ?!」

  灰が勢いよく噴き上がった。

「な…なんだ…?」

  ぶぶぶぶぶぶ…。

「…羽音…?」

「おいっ…後ろ…っ!」

「なん…」

  ザッ!

  突然片方の男の首から上がなくなった。

「ひっ…なっなんだあれはっ?!」

  大きな虫だった。黒い甲冑のような甲殻から伸びた長いツノには、男の首が刺さっていた。

「おいおい嘘だろ…や…やめてくれ…」

  男は逃げようとした。

「おわっ!…ひぃ…っ!」

  首の取れた男の死骸につまづいてしまったが。

「ん…?これは…っ!」

  男の死骸にはレーザー銃が携わっていた。

「悪りィ…借りるぜ…っ!」

  ぴゅんっ…!

  虫の甲冑を貫きレーザーは飛んでいった

  ぶぶ…ぶぶぶ……ずんっ…

「や…やったか…?」

  ずず…ずずずずずず…ずず…ん…

  虫の身体はどんどん沈んでいき…そのまわりの灰も沈んでいった。

「な…なんだなんだ…?」

 やがてドーム全体にその波は広がっていき…ぽっかりと大きな穴があいた。

「これは…どこにつながっているんだ…?」


  人類未踏の世界、後に古の部族から名を継いで「ガレフ」と呼ばれる世界が見つかった。

  人類は、大樹の隠していたものの大きさを知り、ここに新しい時代の幕開けを宣言する。

  「解樹歴」がはじまった。

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