第13話 呪い

 一糸纏わぬ姿になったエリザベスを、真剣な顔で見つめるアルティス。

「そうとう複雑な術式……だな?これって人には無理じゃね?魔族だったとしても……」

 アルティスが何かをつぶやいている。

 呪術であろう、その不気味な文字が、見えていない周りには、

 何を言っているのか、さっぱり理解出来ない。

 そうアルティスは、呪術の文字を読み解いていたのだ。


 アルティスが静かに目をつぶると、身体が薄ら光出す。

 ソフィアには見覚えのある姿だった。

 光が集まってきた右の手のひらを、エリザベスの胸にそっと置く。

 アルティスのまとった光の粒が、エリザベスに吸いこまれ、スッと消えていく。

 周りの皆んなは、エリザベスを見て、驚きに目を見開く。

 見た事もない怪しげな文字が、全身に浮かび上がったからだ。

 暫くすると、胸の文字から順に、光の粒がそれを侵食していく。

 怪しげな文字は綺麗に消えて無くなった。


「アルっ!それ呪いの術式?お母様の病状って、呪いだったの?」

「そ……だな。ヒナ達にも見えただろ?」

「でも……身体中……そんなに沢山の呪いの文字を……

 それもお母様に気付かれず植え付けるなんて……」

「例えば、入浴で側仕えが介助するふりをして?

 それとも、その後のオイルマッサージとか、スキンケアのフリして?

 まあそんな感じで気付かれない様に?」

 アルティスは少し下がると。

「そうなんでしょ?」

 と1人の侍女の肩を、ポンと叩いた。

 その侍女は突如、キツい目でアルティスを睨む。

 ”ブギャオ〜〜!“

 ……吐き気を誘発する様な、嫌な叫び声をあげ、姿を魔族に変えながら、アルティスに襲いかかった。

 しかしその時既に、その胸はアルティスのあの剣によって貫かれていた。

 侍女に化けていた魔族は、光の粒になって消えていく。

 皆んなの思考が追いつかないでいた。


「城の魔族は、皆んな片付けた筈なんだけどな?」

「あの子、昨日お休みだったので……」

 別の侍女が言う。

「なるほどね…… 昨日は、いなかったのね?

 他には……っと…… 気配は感じないな。それじゃあ俺は、戻るね?」

 後ろ向きで手を振り、部屋を出て行こうとするアルティス。何を急ぐ?


「ちょっ……アル!お母様を助けてくれるんじゃ?」

「え?ああ……それならもう大丈夫だよ。見てたでしょ?術はもう消せたよ?

 傷んだ所は全部回復させたから、もうすぐ目が醒めるんじゃないかな?

 オ・カ・ア様の寿命はまだまだ残ってるよ」

 リヴァルド王はオ・カ・ア様、の言葉に何も反応しなかった。

「ちえっ、つまんね〜の」

 そう言うアルティスだったが、その顔は嬉しそうに微笑んでいた。

 リヴァルド王は、嬉しさと……そして今までのあらゆる感情が渦巻き、

嗚咽おえつを漏らし涙を流していた。

 フィオナを始め、そこに居た皆んなが、泣き崩れていた。


(それにしても、あの魔族、ちょっと普通じゃなかったな?昨日の騎士に化けてた魔族もだけど……)

 その頃アルティスはというと、ダイニングに戻り、一人食べかけていた食事を頬張っていた。

「アルティス様、それはもう冷めてしまっております。

 お作り直しておりますので、少しお待ち下さい」

「ふぉちもあべるし、こりもあべる〜」

「そっちも食べるし、これも食べる…… ですか?」

 この侍女、リスの言葉が分かるようだ。優秀である。

 (そしてもう一つ、そう、もう一つだな……)


「アルッ!」

 涙で目を腫らしたフィオナが食堂に入ってきた。

「アル!ありがとう!本当にありがとう!」

「当然の事をしたまでさ……なんてね、俺のしたい事をしただけだよ」

「でも……その……」

 涙で上手く喋れないフィオナ。

 そっと手をフィオナの頭に乗せ、優しく微笑むアルティス。

 フィオナの耳に口を近づけ、そっと言う。

「お嫁さんになりたくなった?」

 プッと吹き出すフィオナ。

「ブレないわね?アルは……

 あのね……重ね重ねで悪いんだけど……もう一つお願い……と言うか、

 聞いて欲しい話が有るの」

「水晶の少女ユッフィー……でしょ?」

 !!!フィオナの目が見開く。

「??あのまだ何も言ってないんだけど?」

「少し……もう少しだけ待って。あともう少しだけ時間が必要なんだ……」

 フィオナは涙でぐしゃぐしゃな顔で何度もうなづいた。

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