第2話 突然ですが…
刻は2095年へと遡る。
私の名前はナガトモネ、26歳独身、彼氏募集中、大手通信会社に勤めるOL。所属は秘書課、主な業務は営業担当取締役員のサポート。スケジュール管理や決裁業務支援、プレス発表の草稿、外出出張の手配、顧客のアポイント対応、ランチセッティング、ゴルフセッティング、などなどなど…
1日が目まぐるしく動く。
それでも業務ローテーションはしっかりと組まれていて、ちゃんと休日はあるのよね。セクハラもパワハラもない、良好健全でクリーンな会社。
今日は週末。
親友と遊ぶ約束で、ヨコハマ管区ミナトミライエリアに来た。
そこはいつもの待ち合わせ場所。
エリアに聳え立つランドマーク、ミナトミライタワーの眼下すぐ側に、昔の造船ドック跡を利用した水路があり、そこにもう一つのランドマークでもある「大型護衛艦」が係留されている。係留と言っても既に退役し、2度と動く事なく保存された記念艦。ワタシはそれを眺めるが好き。
「モネー、待った?」
「全然」
待ち合わせの友達、シュウミカサは来るなり私の腕に抱きついて来た。彼女とは国立学術院高等学部で知り合った。初めのうちは同族嫌悪とでも言えばいいのか、なぜか彼女といがみ合ってばかりいた。でも実は、2人とも保護施設育ちで共に両親がいないということを後で知り、そんな境遇がきっかけで今では凄く仲が良い。
ミカサが目の前の護衛艦を眺める私に言う。
「モネってさ、この軍艦ほんと好きだよね」
「軍艦じゃないよ、護衛艦だよ」
「だって元は大昔の戦艦でしょ?」
そうミカサが言う通り、この船は凄く古い。
私と同じ名前のせいか、子供の頃からどこか親近感があった。
サガミノ国国防艦隊所属、超弩級護衛艦
「ナガト」
しかして、その素体は…旧日本帝国海軍旗艦
戦艦「長門」
第二次世界大戦時の最終局面で大破し、修復される事なく港で終戦を迎えた不遇の大戦艦。
当時は「世界七大戦艦」の一つとまで言われていた。
竣工は、なんと今から175年も前の1920年
全長約230メートル
竣工時基準排水量39,000トン
主機は鑑本式タービン四基四軸、82,000馬力
大口径41サンチ砲二門4基を備え、当時の最大速力は、戦艦ながら23ノットを超えて航行する。
第二次大戦終了時、敗戦国となったニッポン国から一度は米国に接収されたものの、紆余曲折を経て、米国統治から独立したサガミノ国に渡る。
ほとんどの武装は解除され、航行するだけの修理しかされず、満身創痍状態だったナガトは、サガミノ国に渡った後、艦齢50年目にして、大規模な近代改修が施され蘇った。
そして、繰り返された近代改修後の最終諸元は…
艦首にバルバスバウが増設され、全長242メートルに、基準排水量は40,300トンへ増加
補機にガスタービン2基、主機に水素ラムジェットタービン6基、スクリュー2軸と電磁水流墳式4基、最大速力は38ノットまで増速。
主兵装はナガトの象徴たる41センチ連装砲は最後部の一基だけを取り外し、後部を飛行甲板化、VTOL機2機、対潜哨戒ヘリ1機を搭載、その他の連装砲はそのままに、砲弾の自動装填化機構を追加、既存の対空砲は全て外されCIWSを設置、ほかに対艦、対潜ミサイル用垂直発射セルなども増設された。
そして退役するまでの140余年、長くサガミノ国防を担い、「サガミノ国にナガトあり」と言わしめ、国のシンボルとして活躍し続けることに。
ちなみに、親友と同じ「ミカサ」って名前のもっと古い戦艦もミウラ管区エリアにあるのよね。行った事ないし今度見に行ってみよう。
「そろそろ時間だよ」
ミカサが腕時計を見て私にそう言った。
そうだったわ、別にナガトを見に来たわけじゃないのよね。
今日は、ミカサと一緒に昨年完成した宇宙空間軌道エレベータのあるオオシマへ行くことにしていた。オオシマは今、巨大なショッピングモールができて活気付き、サガミノ国の新たな玄関口となってる。そしてこのミナトミライエリアには、オオシマまで行く定期高速シープレーンの発着場が設けられている。なんと片道25分と言う速さで行ける。
……
大型客船も接岸できる、ミナトミライエリアにある大桟橋、その一角にあるシープレーン専用発着場。
シープレーンとは
海面スレスレを地面効果で高速で進む飛行機のような船。ソビエト連合共栄圏が軍事用に造った技術で、実験的な運用まで行ったものの、色々な問題がありすぎて実用化までにはいたらなかったそうな。
世界的に商用化に昇華発展させたのはサガミノ国。宇宙往還機用水素エンジンの転用と水上機技術で、多少荒れた海でも航行可能にした。と、座席前のパンフレットに書いてあった。
初めてのシープレーンにミカサが隣の席ではしゃいでる、子供だなぁ。私も初めてだけどね。
機内は飛行機に似た様な造り、深いバケットシートに、安全シートベルト。飛行機には乗った事ないけどね。
定刻になり、桟橋を離岸したシープレーン。トウキョウ湾内は船の航行が密なので、専用航路内を低速で、外海に出たらその実力が発揮される。
…ことはなかった。
事故りました、私達の乗っていたシープレーンが。
外海に出て加速体勢にあったシープレーンの前方に、突然に、あまりにも突然に、その専用航路内に鯨の如くジャンプ浮上して来た潜水艦。その潜水艦の艦首がシープレーンの右翼に接触、シープレーンの翼は根元から破壊された。その衝撃で、私は座席ごと外に放り出された。
座席ごと宙を舞うワタシ、なぜか何もかもがゆっくりと時間が進んだ。スローモーションの様に視界がハッキリと見えた。
破壊された機体が見える、側面が抉られたけど、私を除いて乗客は皆無事の様だわ、座席に座るミカサの姿も見えた。
ああミカサ、無事だ…良かった…
意識はそこで途切れる
…私の人生は呆気なく終わった。
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