歩きたい・2
少し肌寒く、思わず肩をすくませる。
東門から城下町までは徒歩で27分。むしろその時間が、リュドスには好都合だった。
「ケニー・ハービンスは1995年生まれ、イギリスのロンドン出身で新聞社に勤務…」
歩きながらぶつぶつと唱える。
その日に確認した異世界者の情報を、脳に定着させる。歩行のリズムが覚えるのにちょうど良いみたいだ。
貴族・富裕層が住むエリアを通り、派手な装飾の街灯に点された石畳の道を進んだ。
「ラルフ・デイビッドは2010年生まれ、アメリカのイリノイ州出身の大学生……」
口と足を止めることなく進む。
虫の鳴き声に癒されながら、インゼル川沿いをしばらく歩く。
後ろから一艘の小舟がやってきた。
つい眩しくて顔をしかめた。小舟には光の魔法が付与されてある。
彼は一旦口と足を止めた。小舟はスピードを落とし陸地の方に寄り、リュドスの横につけた。
「リュドスの旦那今から帰りかい?」
声をかけてきたのは、顔見知りの船頭のおっちゃんだ。
「ああ」と返事し、飲むジェスチャーを見せてから「これからシアンチェだ」と笑った。
「羨ましいべ。おらも1杯やりたいけど、まだ仕事だ。この時間しか獲れない獲物がいてさ〜」
「また今度飲みましょうよ」
「んだな、また飲みてえな」と、船頭は2本足りない前歯を見せ、ニカッと笑った。
船頭と別れると、リュドスはさらに城下町の方に進んだ。
🧙
前方から、荷台にゴブリンの檻を乗せた魔獣車がやってきた。
手綱を持っている若い運搬兵の男がこちらをしばらく見て、ハッとして停める。
急に勢い良く停まったので「うわ!」とリュドスは声を上げた。
「お疲れ様です。リュドス様!」
運搬兵は魔獣車を降り、すかさず敬礼してきた。
(まいったな…)という表情で、運搬兵の彼に言った。
「お疲れ様。でも、わざわざ魔獣車を停めてまで挨拶してくれなくて大丈夫だから。俺みたいな平職員に気を遣わないで」
「でも、それでは…!」
「本当に俺にはそんなことしなくて大丈夫だから。肩の力抜いて。で、君名前は?」
「グ、グラノス、グラノス・リッカーです!」
「グラノスくんか。あまり見たことない顔だな。最近から城勤務?」
「はい! 1週間前にエドラド城に配属されました!」
「そうなんだ。これからは軽めの挨拶でよろしくな、グラノスくん」と、なるべく砕けた感じで言ったのだが……。
「はい! リュドス様にお声をかけて頂けるように日々精進します!」と、彼は再度敬礼してきた。
(駄目だこりゃ……)
軽くため息を吐いた。
不意にガタガタと大きな音がした。
目をやると、荷台の檻の中で、ゴブリンたちが鉄格子を叩きつけるように暴れていた。こちらを見て「ギャギギーィ!」と威嚇もしてくる。
「も…申し訳ございません! リュドス様! すぐにこいつらを落ち着かせます!」
「気にしないで。グラノスくん。ゴブリンは気性が荒い魔物だからすぐこうなるんだ。でも、意外と…」
リュドスはゴブリンたちを睨みつけた。するとゴブリンたちの顔が青褪めて、動きがピタっと止まった。
「どちらが強いか教えれば、ちゃんと分かってくれる魔物でもある」
それを見ていたグラノスが、大きい拍手をした。
「さすがリュドス様! 尊敬します!」
(ああ…彼はなんか調子狂うな)
グラノスに早く仕事の続きをするように促し、城へと向かわせた。
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