第1章2話:勇者

これから俺は、追放先ついほうさきの国で頑張っていくはずなのだが……


(おかしいな。ゲームのときと微妙に違う)


ゲームでは、アンリが追放されるのは18歳。


しかし現在の俺が追放されたのは16歳。


追放の時期が2年も早くなっているのだ。


この時間のズレの原因は明らかだ。


(もう一人の転生者……)


女神は言っていた。


転生者は二人いると。


その転生者がどこの誰なのか……


俺はもうわかっている。


そいつは……


もう一人の転生者は……


ゲームの主人公さまだ。


(……デレク)


グランドリドル・クロニクルの主人公……デレク。


ヤツが、この異世界に転生してきたもう一人の転生者である。


なぜわかるかといえば、アンリの記憶にあるデレクの行動が、ゲームの主人公と一致しないからだ。


ゲーム主人公デレクが取るべき行動と、まったくことなる挙動きょどうをしているのが、現在のデレク。


ゆえにデレクこそが、もう一人の転生者だと断定できる。


そして……


(あいつ、俺のことめやがったな!)


と、俺は憤慨ふんがいした。


アンリを追放へと追いやった張本人ちょうほんにん


それがデレクであった。


ゲームでもデレクがアンリを破滅させるシナリオではあるのだが……


それはアンリが正しく悪役であり、クズだから、何も問題はない。


ところが、この異世界では。


アンリは、なんと何も悪いことをしていない!


デレクがたくみに立ち回り、悪人でもないアンリをめて、でっちあげの告発をおこない……


まんまとアンリを国外追放へと追いやったのである!


追放時期ついほうじきが2年も早まった理由は、デレクのせいだ)


ゲームでは悪役として存在したアンリだが……


異世界ではむしろ、デレクにめられたあわれな被害者ひがいしゃでしかない。


そして、その哀れな被害者とは……現在、俺のことだ。


ふつふつと怒りがいてくる。



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