転生したら強すぎる力に身体が耐えられないガラスの天才になりました。なので力をセーブした上で無双します ~常時リミッター付きでも世界最強になればいいよね~

純クロン@弱ゼロ吸血鬼2巻4月30日発売

第1話 転生


「あー、早く帰りたい」


 会社の帰り道の住宅街でふと呟いていた。今日も残業だったため、すでに夜十一時を過ぎていて周囲に人はいない。


 ちなみにこの言葉は自宅にいても言うことがある。自分で言っておいてなんだが、俺はいったいどこに帰りたいんだろうか。


 こんな言葉が漏れる理由は、おそらく人生が満たされてないからではなかろうか。いつもどこかに不安を抱えていて、それで安心できる場所に行きたいのを『帰りたい』と表現しているとか?


 あるいは帰るべき実家がもうないからかもしれない。両親は亡くなって家も売ってしまったから。


 そんなことを考えていると、路地裏に男女が入っていくのが見えた。


 リア充爆発して警察に掴まれと思いつつ、なんとなく男女のツラをチラ見すると様子がおかしい。


 男は右手に金属バットを持っていて、女性は男の左手で口を抑えつけられている。路地裏に連れ込まれているようだ。


 あー、なるほどなぁ。十中八九、強姦の類っぽいな。ならば俺のやることはひとつだ。流石にここで見捨てるという選択肢はない。


 俺は身体に力を入れて気合を叩きこみ……男女に気づかなかったフリをして少し早歩きして距離を取る! そしてスマホを懐から取り出して警察宛ての電話番号を押し始める!


 立ち向かうという選択肢はない。金属バットを持った頭おかしい奴に勝てるわけないだろ! 一秒持たずにやられるのがオチだ!! 


 そしたら結果的に女性も助けられない。ここは警察を呼ぶに限る、無謀と勇気は違うのだから。


 愚かに立ち向かってモヤシの屍が一匹増えるよりも、強力な公権力に取り締まってもらうべきだろう。警察様万歳。


 電話番号を押し終えてスマホが鳴り始める。


 なるほど、110番って短いし簡単で押しやすいな。もしこれが七桁の番号だったら、焦ってたら忘れたり押しミスするかも。


 緊急時の番号だけあってその辺の配慮がされていると。


 しかしあの女性は警察が来るまで大丈夫だろうか。助けたい気持ちはあるけどなぁ。もし俺が柔道黒帯の腕前であれば、このまま警察に電話したら助けに行くのだが……っ!?


 頭に衝撃が走った。そう思った瞬間、俺は倒れていた。


「おいゴラ。なにサツなんて呼んでるんだよゴミが」


 さっきの金属バットを持っていた男が俺を見下している。


 なんか体に力が入らない、というかロクに動かない。頭がボーっとする。あれ、なにこれ。


「そこで寝とけやゴミが」


 俺は自分が聖人とは思ってない。だが俺がゴミならば、お前はゴミ捨て場かゴミ屋敷だ。一緒にするんじゃない、ゴミとしての格が違うだろうが。


 なんだろう、明らかに危機的状況のはずなのにビックリするくらい冷静だ。動揺とかなにかが限界突破して、逆に落ち着きでもしたのだろうか。


 ……俺はどうやら後ろから金属バットで殴られたようだ。男の金属バットには血がついてて、俺の頭からなにか流れている感覚がする。


 なんかヤバそう。だから嫌だったんだ。あんな奴に関わるべきじゃなかった。もっとちゃんと走って距離を取ってから警察に電話すべきだった。


 男は興味なさげに俺から背を向けて去っていく。女性を逃がさぬように左手で掴んだまま。


「り、ふじんだなぁ……」


 本当に酷い世の中だ。俺みたいな真面目に生きていた一市民よりも、ああいう男のほうが強いのだから。


 腹が立つ。こんなことなら武道でも学んでおけばよかったかなぁ……。


 ここでもし俺が強ければ、こんな奴返り討ちにしてさ。女の人も助けてみんな幸せだったろうに。なおあの男は人間としてカウントしないものとする。


 ただ黒帯でも相手が武器持ってると厳しいとか聞いたことあるな。じゃあ剣道をやってて偶然竹刀持ってたとかで。


 そういえば剣道における黒帯ってなんだろう。黒剣? かっこいいなそれ。


 ……現実逃避している間にも、頭からなにか流れていく感覚が続いてる。


 くっそ、なんか死にそうな感じするな。死にたくないなぁ……。


 


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 目を覚ますと薄汚れた木の天井が見えた。


 む? 致命傷だと勝手に感じていたのだが、助かって病院に連れてきてもらえたのだろうか。やはり素人感覚はアテにならないな、よかったよかった。


 ……でも搬送してもらっておいてだが、薄汚れた天井の病院は衛生的にマズイのではなかろうか。ワガママだが許して欲しい、破傷風とかなったら困るし。


 とりあえず起き上がろうとするが身体が動かない。ゴミ屋敷野郎にバットで頭叩かれたからなぁ……ま、まさか全身不随になってないだろうな。


 起き上がれないなら仕方ないので誰か呼ぼう。


「うぇあぅ」


 うぇあぅ、ってなに? 誰かーと言ったはずなのだが、なんかまともに喋れなかった。しかも声も普段より高い気がする。


 そういえばスマホで録音した声って、自分が聞いてる声と違うんだよな。自分で聞いてる声は骨が伝導してるとかの理屈なんだろうか。いや今は関係ないか。


 あ、身体は動かないけど目は動くな。よくやったぞ俺の脳細胞。


 周囲をギョロギョロと見回してみると、なんか生活感のある家だ。古ぼけた洋風の木製の家具がいくつかあり、どう見ても病院の類ではない。


 ……んん? じゃあ俺はどこにいるんだ?


 そんなことを考えていると誰かが近づいてきた。かなり頬がこけていてやせ細っているが綺麗な女性だ。


「おぅおぅ」


 訳、ここはどこですか。いやまじで喋れない、なんだこれ。


「よしよしジークちゃんは今日も元気でちゅねー。ママでちゅよー」


 この女性は笑いながらなにを言っているのだろうか。ママ……銀座とかのあれか? それとも赤ちゃんプレイ?


 俺はクラブにもそういうところにも行ったことないし、そもそも病院でこの言葉づかいはおかしいだろう。あ、馬鹿にされてるのか? 


 ……いや落ち着け、ここは現状把握が最優先だ。


「あぅあぅあー」


 あぅあぅあー、じゃねぇよ!? なんで口がまともに言葉を発しないんだよ!?


 俺の言語能力といい、目の前の女性のあやし方といい、これだとまるで俺が本当に赤子みたいで……。


 ふと気づくと少し離れた場所に、俺の方に向けて鏡が置いてある。そこから見えるのは女性と、ベッドに寝ている赤ちゃんだった。


「よしよしー」


 女性は俺の頭をなでてくる。鏡には女性に頭をなでる赤ちゃんの姿。


 なるほどなるほど。なるほど? 俺は赤ちゃんになっていると。


 ……ビックリ鏡か、テレビのドッキリ番組か、それとも実は隠されていた科学技術で精神を移し替える機械が発明されたのか。


「少し寒いかしら。火の力よ、照らせ」


 女性がそう告げた瞬間、パチパチと空中にいくつかの火花が発生した。それと同時に少し暖かくなりはじめる。


 さらに野球ボールくらいの光の球が、俺を囲うように宙に浮いている。


「魔法で暖を取りましょうねー」


 女性は優しそうに笑いかけてくる。魔法とか本当なら阿呆かと言うべきところだが、目の前で見せられては何も言えない。


 ……俺はビックリ鏡でもテレビのドッキリ番組でも、科学技術で身体が差し変わったのでもない。


 生まれ変わったのだ。魔法を見た瞬間、何故か分からないがそう確信が持ててしまった。


 つまり目の前の女性はママだ。クラブでも赤ちゃんプレイでもなくて本物のママだ。偽物の演技じゃなくてあるがママだ。


 ならこの女性は俺を甘やかして守ってくれる母で、俺の味方で。


「ジークちゃん、もう少しだけ耐えてね。そうすれば神父様を呼べて、死なずに済むはずだから……」

「あぅ!?」

「え? どうしたのジーク?」


 おっといけない。赤ちゃんは言葉が分からないはずなのに、死なずに済むに反応したら困惑するか。


 しかし物騒な発言だ。俺を無条件で甘やかして優しく守ってくれる母、どこ。


 そんな母はすごく不安そうに俺の手を優しく握ってきた。


 死なずに済むとは物騒な話だ。しかも神父様でなんで助かるんだ? よくわからないが、母の様子を見る限り冗談の類には思えなかった。


 しかしまあ、ひとつだけ言いたいことがあるとすればだ。


 ……確かに帰りたいとは言っていた。だが生まれ故郷どころか子宮に帰らされるとは思わなかった。確かに原初的には人が帰るべき場所かもしれないが。


 そんなことを考えていると、ドタドタと走ってくる音が聞こえた。


「マリー! 神父様が来てくださったぞ!」

「まあ! 本当なのダデー!?」

「もちろんだ! あ、どうぞお入りください神父様!」


 部屋に男が駆け込んできた。この流れ的にたぶん父親なのだろう。


 というか母親はマリーで、父親はダデーなんだな。だがそれよりも今は神父だ。神父様だ。


 神父様と言えば優しそうなお爺さんか優しそうな外国の人か。なんにしても神父様は優しくて、結婚式で永遠の愛を誓わせるというイメージしかない。


 というか生の神父様見たことないな。さてどんなタイプの優しい人だろうか。


「お待たせしました。すみません」


 優しそうな声と共に、頭を下げながら部屋に入ってきた。


 彼は神父服を着ていた。そして父親や母親よりも二回りほど大きくて、手は緑色をしている。服は筋肉でパツンパツンで頭には二つの角が生えていた。


 結論から言うと、どう見ても緑色の鬼だった。鬼の神父様、いや。


「おーぎゃあ!?」



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ちなみに結婚式は神父じゃなくて牧師なこともあるそうです

それとアルバイトの人が多いとか。それは知りとうなかった。

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