第18話

「おかしい。死体が無いぞ」


「え~?あの爆発で灰にでもなったんじゃねえの?」


「……」


 銃を持った二人組の男が誠二のバイクの残骸を確認し始める。


「ありえない。それでも骨か死体は残ってるはずだ」


「はぁ~?それだと何か?まるでオリンピック選手よろしくそのオンボロバイクが爆発する前にそこの茂みにでも飛び込んだとでも言うつもりかよ?そんな化けものがいるわけが…」


 なんとなく近くの茂みに男が視線を向ける。男の瞳と茂みの中で光る誠二の瞳が正面からぶつかった。


「…っ!?おいマジかっ……」


「くたばれ」


 誠二が警告無しで男の首元を狙いクロスボウの矢を発射。狙いから少しズレたがその矢は男の首に命中。痛みで男が地面へと倒れ込む。


「はぎゅっ…!はぎゅっ…!はぎゅっ…!はぎゅっ…!」


「あっ!?おいどうし…」


 呼吸ができずにのたうち回る身内の姿。それに気を取られた事が男の生死を分けた。


「…っ!!」


 誠二が腰に差していた鉈を抜刀しつつ男のもとへと走り出す。


「あっ…!?」


 男が拳銃を誠二に向けようと腕を動かし始める。だがそれよりも早く誠二は鉈を前方に投擲。鈍く重い刃がとっさに身を庇った男の右腕に食い込む。


「ぐあああっ!?」


「ふうっ!!」


 やや前傾に傾いた男の頭部を誠二が前足蹴りで蹴り上げる。


「ぐっ!?」


「終わりだ」

 

 続く右ストレートで誠二は男の意識を完全にダウンさせる算段だった。だが男は予想以上の抵抗を見せる。誠二の攻撃を首を動かす事で躱したのだ。これには少しだけ驚きつつも誠二が次の手に出る。


(これで眠ったほうが幸せだったと思うけどな。こうなるともう良心的な手は使えない。恨むなら中途半端に抵抗した自分自身を恨んでくれよ)


「ぐぅ…!?」


 男が飛びそうになる意識を堪えながら誠二の次の攻撃に対応すべく片腕を構える。だが男が前を注視したときにはもう誠二の姿は男の視界から消えていた。どこに行った?その思考が男の脳に浮かんだときにはもう全てが手遅れになっていた。


「むっ!?むぐううううっ…!?」


「……」


 男の背後に回り込んでいた誠二が男の首を背後から両腕で圧迫し締め上げる。それと同時に男の足を刈り取り男の体勢を崩していた。片腕だけでは全体重を使い首元をロックしている誠二の腕を解く事はできない。男は急激な酸欠状態にパニックを起こしつつなんとか抜け出そうと暴れ出す。だがその行為が余計に男を死へと近づける。


「はっぐ…はっああぐ…むぐっ…!!へあっぐ!!へあっ!へあっ!へあっ!へあっ!」


「……」

 

 打ち上げられた魚のように男は痙攣。白目を向き最後に大きく体は痙攣する。そして男は完全に動かなくなった。


「……ふぅ」


 男の体を解放し地面へと倒す誠二。


「まったく。手間取らせやがって…」


 確認するまでもなく男は死んでいた。窒息死だ。


「はぎゅっ…!はぎゅっ…!はぎゅっ…!」


「あ…?あいつまだ生きてるのか……仕方がねえな」


 誠二が死んだ男の手から拳銃を手に取り矢が刺さった男の元へと向かう。弾倉に2発の銃弾が込められている事を確認し誠二が男の頭部に銃を向けた。


「悪かったな。今楽にしてやる」


 そして2回、銃声が鳴り響く。誠二が撃った介錯の弾丸は正確に男の脳髄を破壊した。

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