第16話
制御不能です、盆とハロウィンとクリスマスと正月が一斉にやってきたような大騒ぎです、私の頭の中。
だって。
だってだって。
だってだってだって!!
近い。
べらぼうに近いんですよ先輩が。
肩とかくっついちゃってるしもうコレってじゃれ合う恋人同士の距離だし!!
先輩からボディーソープとかシャンプーの香りとか漂って来ちゃってるし!!
このままだと私、気絶しちゃいそう。
あ、でも気絶したら先輩、私の事……
………………しょうがねーなって呆れて、ベッドに寝かせて自分は床で寝るよねー。
落ち込んだらちょっと冷静になった。悲しい。
「さて、もう22時も過ぎたし、今日はこの辺でお開きにするか」
ああ、やっぱり。
これでお別れしなきゃいけないんだ。わかってた、いつまでもここに居られないんだってことくらい。
でも……寂しい。
隣を見上げれば先輩は苦笑していた。
私、多分顔に出ちゃってたんだ、寂しさとか。
困ったように、それでも笑ったまま先輩は少し首を傾げるようにして目を合わせてくる。
「お前な。わかってんのか? ここがどこだか」
「え? えーと先輩のお部屋です」
「……そーだな。健全なる男子高校生の部屋だな」
先輩の言わんとすることは分かってる、本当は。
でもあと30分……ううん10分でもここに居る時間を延ばしたくて、私は分からない振りをしている。
「素でわかってないとこがお前のすごい所だと思うけどな……」
恋心に気付かなければ、きっと先輩の言う通り素でわからないままだったんだろう。
だけど今は違う。男の部屋にこんな時間までいるのは危機感が足りないと言われているのだと理解している。
自分でも葛藤している、このままここに居たい。けれどそれを口にすることは「誘っている」と思われてもいいと言う事になる。
「いえ……」
私は自分の心を見極められないまま口を開いた。
「私、先輩の部屋じゃなかったら1人でお邪魔したりしません」
先輩だから、私は今ここに居る。
それが先輩を好きになったからなのか、信じているからなのかはわからないけど。
でも伝えたかった、先輩だから、私は今ここに居るんです、と。
「……ものすごい殺し文句だな」
先輩は驚いた表情でそう言って、けどな……と目を細めて私の顎に指をかけて顔を上げさせた。
「覚悟もないのに、そういう台詞は言うもんじゃねぇな」
準備室でのキスより強く押し当てられた唇。
先輩の目は挑発するかのように開かれたまま。
睨むような強い視線が私の瞳に突き刺さり、私は目を閉じることすら出来ないでただそれを見つめ返して。
ぞくぞく、と背中を這い上がる初めての感覚。
先輩の、少し色素の薄い瞳がとても綺麗だとか。
まつ毛が長いんだな、とか。
場違いなことを頭の隅で考えている私と
今度こそ張り倒すべきなんじゃないの?と訴える冷静な私と。
ああ、このまま時間が止まればいいのになんて、現実逃避をする私と。
どの私に重きを置くべきなのかわからないで、結局固まってしまって。
ゆっくりと唇を離し、動けない私に本日何度目かわからない苦笑いを向けると先輩は立ち上がり、ベッドに腰掛けた。
「一夜限りの遊びなんて趣味じゃねぇからな。その先を見る勇気がないんなら今日のところは部屋へ帰んな」
これは、拒絶なんだろうか。それとも、誘われてる?
判断はつかなかったけれど、私は走っていた。
玄関のドアを勢いよく開け、そのまま全速力で階段を駆け上がる。
先輩、どうして私に選択権を渡したの。
ちょっと強引に迫られていれば、流されていただろう。
あのままキスを深くして、強く抱き締めれば……私は「落ちた」だろう。
それなのに、「お前が選べ」と。
先輩の真意がわからない。
私は先輩が好きだけど……先輩は私を可愛がってくれたけど、「可愛い後輩」でしかないのかな。それとも少しは期待していいの?
わからない。
でも、やっぱり逃げて良かったのかも。
あのまま残ることを選んだらそれこそ「軽薄」とか思われかねない。
それだけは嫌、たとえ今日芽生えた感情だとしても、純粋に好きなんだというこの気持ちだけは、否定されたくないから。
ああ、それでも……
「……はぁ……っ」
警告のつもりだったのだろう2度目のキスは、私を恍惚とさせたのだ ──── 。
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