欲しいものは女の子!?ー愛する人とただ暮らしたいだけー

Kalk

第1話 欲しいものは

 たった20年しか生きてはいないが、ふとこう思うことがある。自分の人生はこんなものでいいのだろうかと。


 小学校ではそれなりに友達もいた。親友と呼べる友と遊び充実した日々を過ごしていた気がする。


 中学校では小学校の頃の友達とは違う学校に行った。だから、すでに小学校からの友達でのグループが出来ており馴染めなかった。このころから本格的な日陰者になった。


 高校ではみんな初対面だった。けれど中学の3年間で人との関り方に臆病になったせいで教室の隅で本を読んで過ごす日々だった。


 人見知りをしてもそれなりに友と呼べる人は出来たが長くは続かない。学年が移り、クラスが変わる。それだけで携帯に登録されていた他人とのログは更新されなくなった。たとえ学校でよく話し、一緒に帰ったり、部活をしたりしても所詮他人、すぐに切れる関係でしかないんだと考えるようになった。


 自分の能力が足りなければバカにされ、話過ぎればウザがられる。当人を前にすればいい顔をするのに、裏では罵倒。そんなことを当たり前と思って、人との繋がりに期待をすることが出来ないからこそ親友や永遠の愛なんてものが羨ましくなる。自分にはそんな人はおらず、作れるとも思っていなくても、絶対の信頼を置くことが出来る人が自分にもいたらなんて妄想をしている。


 欲しいものを望むなら、巨万の富も万雷の喝采もいらない。僕の欲しいものは............










 『おめでとうございます!!あなたは記念すべき100万人目の転生者です!!』




 ……............................


 .............................................................


 ............................................................................................


 ........................................................................................................................は?




 思考がフリーズしている。唐突に視界が切り替わったと思ったら真っ白い空間に飛ばされ変な女に変なことを言われている。あまりに唐突なことに声を出すこともできずただ茫然とすることしかできない。




 『100万人目の転生者としての特典としてな・ん。と!!!転生するにあたってなんでも願いを叶えて上げちゃいます!!!!なんでもですよ!なんでも!!こんな嬉しいことありますか?ありませんよね?そうありません!!!』




 す、すごい自己完結してやがる……


 相手のテンションに若干引き気味になりながらもこの無駄にハイテンションな声のおかげで何とか状況が呑み込めてきた。よくライトノベルにあるような展開だ。どうやら転生することになっているらしい。理由は全く分からないがこんな奇天烈なことは得てしてそんなものなんだろうとどこか達観している自分がいる。




 『あれ?あれれ?あれれれれれ??喜ばないんですか?嬉しくないんですか?驚かないんですかぁ?貴方たちはこういう展開を妄想して期待してそんなことはないのだと諦める。そんな生物でしょう?せっかくのサプライズなのにそんな反応はつまらないですよぉ』




 「ぁ、い、いえ驚いてます……よ?ただ唐突過ぎて状況についていけなかっただけです」




 『ああ!なるほどそれなら仕方ないですね!では説明をして差し上げましょう!!』




 コホンとわざとらしく言いながら目の前の女(多分女神様とかかなぁ)は説明を始めた。


 曰く、或る一定の適正があり、願望を持ちつつも諦めた、拗らせていて先のなさそうな若者を異世界に転生させているらしい。女神様、というかいわゆる天界と言われる場所に住まう者たちには人々の管理という仕事と共にその人々を幸福にするという使命があり、そのためにいろいろなサービスを行っているのだとか。特に幸福を感じすのは充実した生活であり、その充実とは願望を追うときに感じられる。しかし願望を追うのを諦め充足を感じなくなった者たちもおり、そういった人々は諦めた願望を再び追うことが出来るように違う世界に送っているそうだ。最初に転生といっていたが。どちらかと言ったら転移に近いらしい。


 そして最初に言っていたように僕は100万人目の転生者でその特典に転移する際なんでも望みを叶えてくれるらしい。




 『さぁどうしますか?なんでもです。巨万の富でも、万能の力でも、あらゆる叡智でも何でも叶えますよ。さぁ!さぁ!!さあ!!!貴方の願いは!!!??』




 ..........なんでも願いが叶う。なんて素敵なことだろうな。きっと誰もが妄想したことはある異世界で俺teeeeeeeeなんてことも可能なんだろう。僕自身の願いは何だろうか?真っ白い空間にいるからか余計な情報がなく自分の中に意識を向けることが出来る。僕の望むもの……




 ”ずっと羨ましかった”仲のいい家族。信頼できる親友。大切な関係。


 両親は仲が悪く、友達との絆なんて儚いものと知り、好きを自覚しない人生だったから。身近な人たちの友人関係や恋の話が羨ましかった。自分には無理なものと思っていたからそれをテーマにした創作を見て気を紛らわしたこともある。


 白い空間で自分を見つめても出てくる答なんかもともと分かっていた。




 「……ずっと欲しかったものがあるんだ。金も力も知恵も魅力的だけど違う。僕はただ”愛してくれる人”が欲しい。」




 『ほう?』




 「ずっと一緒にいて、裏切らないでいてくれて、愛してくれて、そして僕自身が愛することのできる。そんな絶対で美しい繋がりが僕は欲しい。」




 ..........................................................................................フッ




 『……フ、フフフフ……友人や恋人は自分の力で得るものでしょうにそれを下さいなんて、けれどいいでしょう』




 さっきまでの無駄にハイテンションな女神とはまるで別人なんじゃないかと思えるような神秘的に笑う女神に息を飲む。




 『本当のことを言うと貴方の願いは知っていました。けれどまさかそれを願うなんて思わないでしょう?そういうのは力や知恵を得て自分で繋がりを作っていくものでしょうに……えぇ、えぇあなたの願いを叶えましょう!!』


 


 呆れたような面白いものを見るようなそんな顔で女神は話を詰めていく。それはきっと本当に僕の望みを知っていたのだろう。まぁ神様だ、なんでもお見通しってことなんだろうな。




 『―――――っはい!こんなものでいいでしょう。貴方の心の望みの通り貴方は貴方を愛し、貴方が愛せるような人と共に異世界に再構築します。100万人目の転生者へのサービスです。不老不死の体に貴方たちの平穏を脅かすものに対抗できる力、あとはちょっとした住所も上げちゃいます。世界の常識などの情報は相方の女の子にインプットしておきますから彼女から聞いてくださいね!』




 そう女神が言うと空間に光が漏れ始めた。転移が始まったのだろう。異世界はどんな場所でどんなことが待ち受けて言うのかいろいろな不安もある。浮かれた心で気が前のめりになっているが冷静に。言わなくちゃいけないことがある。




 「女神様に言うのも不思議な感じだけれど、―――ありがとうございました。100万人目の転生者という幸運ではあるけれどさっき言っていたサービスとかいろいろ、ありがとうございました。」




 『……ふふっ―――えぇ、貴方の願うように幸せにね』




 その声が聞こえるとともに光は満ち――――――――――――

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