第九話 それでも、私は。
「超リヴァイアサン級魔導生物ノ反応ヲ検知。現状ノ装備デハ、対処ハ困難」
「い、今のマルコじゃ勝てない……ってこと?」
「肯定。現状ノ本機ハ、超リヴァイアサン級ヲ撃破可能ナ火力ヲ有シテイナイ」
……そういえば、前に教えてもらったことがあったっけ。
……マルコはホントは着けてるはずの武器を外した状態で遺跡にいて、今のままじゃ本来の30%ぐらいの力しか出せないって。
それでもマルコは、そんじょそこらの魔物には負けないだけの力を持ってると思うんだけど、今パラベラ村で暴れている存在は”そんじょそこらの魔物”ではないみたいだ。
「推奨:退避」
だから、この時マルコが言ったことはもっともだった。
「退避って、逃げろってこと……?」
「肯定」
私が行ったってどうしようもないぐらい強いナニカが暴れてるなら、逃げたほうがいい。
確かにそうかも知れない。
だけど……。
「でもそれじゃ、襲われてる人たちはどうなるの?」
巨大な鋼鉄の身体を持つ
パラベラ村自警団や、マルコを前にビビりまくっていた衛兵隊の人たちが何とかできるとは思えない。
「みんな、やられちゃうんじゃ……」
「肯定。等級差ガ大キイ場合、下位ノ魔導生物二対抗手段ハ無イ」
「……」
こうしている間にも、ドドォォオン、ズズゥゥウン、と地面が揺れ、警鐘は鳴り続けている。
『ニゲナイデ』
不意に、頭の中で声が響いた。
切羽詰まった、必死に助けを求める声が。
『ミステナイデ』
いつ、どこで聞いたのか、誰の声なのかも分からない。
けれど、私は、
「……大丈夫。逃げないよ、見捨てないよ」
自然とそう、呟いていた。
首から下げられシャツの中に入っていた大事なペンダントを引っ張り出して、片手でぎゅっと握る。
こうしていると、不安だったり怖かったりする気持ちが、少しは落ち着いてくるからだ。
「マルコ。私、逃げない。逃げたくない」
「非推奨」
「分かってる。でも私は、誰かを見捨てて逃げたり、私がなにもしなかったせいで誰かが死んだり……そんなのはもう、嫌だから」
胸の奥底から湧き上がる言葉を、私はそのまま口にした。
お腹と足にグッと力を入れて背筋を伸ばして。
目の前に立つ四本足の巨体に一つだけ輝く、赤い目を見上げた。
「だからお願い。私に、力を貸して」
「……。
しばしの沈黙の後、いつもの無機質・無感情な声なのに、どことなく仕方が無さそうな雰囲気で返事が返ってくる。
マルコはそのまま、太い四本足を器用に動かして私に背を向けると、がしゅん! とその場に屈みこんで私がカゴに乗れるようにしてくれた。
「い、いいの?」
思った以上にあっさりと許してくれたことに驚く私に、マルコは続けて、
「本機ハ、戦闘支援AIデアル。”決断”シナイ。本機ガ行ウハ意見具申ノミデアリ、
「えっ、と……?」
「故ニ、本機ハ、マスターノ”決断”ヲ尊重スル。ゴ命令ヲ、マスター」
相変わらずマルコの言うことは難しくて、私には半分も理解できないけれど……私がやりたいことを応援しようとしてくれたってことは、何となく分かった。
「ありがと、マルコ」
短くお礼を言って、マルコの背中のカゴに乗り込む。
と同時に、私が乗るためにスライドしていた柵が自動で閉じて、視界がゆっくりと高くなる。
ぐぃぃいん、との独特な音と同時に、マルコが立ち上がったのだ。
「よし、マルコ、急ぐよ! 全速前進っ!」
「
私が指さした先、立ち上る赤い煙に向けて、マルコは走り出した。
ゴシュン、ゴシュンと、大きな足音を響かせて。
何かが燃えているのか、行く手では黒い煙も数条、上がり始めている。
……よく分からないけれど、私はあそこで、戦わなきゃいけない気がする。
……何と、誰と戦うのかも、よく分からないけれど。
ただ、自分のやることが、自分の力が、まさに今追い詰められている誰かの助けとなるのなら……。
私は全力で、頑張りたいと思うのであった。
ルインズエクスプローラー ―冒険者アルと遺跡の少女―
第六章 忍び寄る悪夢 【完】
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